第265話

 エリザはゼルキス王国に訪問していて、レアンドロ王と対談からターレン王国の宮廷議会がゼルキス王国にターレン王国の合併を提示していることも、学者モンテサンドに語った。


(ランベール王が消息不明という噂は、でたらめではないようだ)


 学者モンテサンドは、その不穏な噂を疑っていた。


 しかし、ゼルキス王国に宮廷議会が合併を申し入れている情報から考えられるのは、ランベール王は現在、王都トルネリカで実権を握れない状況、たとえばすでに崩御していることを隠蔽している可能性があると、学者モンテサンドは考えた。


「エリザ様は、王都トルネリカに向かわれるおつもりだと、リーフェンシュタールからうかがいましたが、なぜですか?」

「ゼルキス王国の神聖騎士団が、王都トルネリカに訪れているからです」


 エリザがゼルキス王国へ訪れた時、神聖騎士団メンバーが使節団の大使としてターレン王国を訪れていて、騎士団本部に行ってみたが不在、レアンドロ王からもエリザは、神聖騎士団が辺境地帯の怪異後の調査目的で訪れていることを聞き出している。


 リーフェンシュタールとヨハンネスから、エリザたちが大樹海のエルフの王国を目指しての旅の途中で、ターレン王国へ移動してしまった不思議な話と、エリザたちは神聖騎士団が帰国するのに便乗して王都ハーメルンから、瞬間移動の魔法陣で一度帝都へ帰るために会いに行きたいので、パルタの都を通過させてもらいたいと考えているのを、エリザたちと対面する前に学者モンテサンドは聞いている。


 エリザ本人にも、念のために学者モンテサンドは確認してみた。


「しかし、それは今の王都トルネリカの状況では危険なのでは?」


 学者モンテサンドの質問に答えたのは、アルテリスだった。


「あたいたちを王都の衛兵が取り囲んで捕まえようとしても、全員ぶっ飛ばすから大丈夫さ!」

「はい、アルテリスさんはすごく強いですから」


 学者モンテサンドはアルテリスとエリザにそう言われて、なんと答えてよいか言葉が出なかった。


「エリザ様、このモンテサンドにもっといろいろな事を、しばしパルタの都に滞在してお聞かせ願えないものでしょうか?」

「そう言われたら仕方ありませんね、特別ですよ」


(絶対にエリザさんが話し足りないだけですね、これは)


 ヨハンネスが、ブラウエル伯爵にこそっと耳打ちした。


「エリザさんから、僕が聞いた話は、領事館に帰ったらゆっくり聞かせますから、モンテサンドさんと一緒に話を聞こうしないほうが無難ですよ。寝不足になります」

「そんなに長話なのか?」

「はい、すっごく長いお話です」


 ブラウエル伯爵とヨハンネスがひそひそ小声で話しているのを、シン・リーは寝たふりをして耳を傾けていた。


 結果として、この滞在で執政官マジャールはエリザにめろめろになったのと、神聖騎士団のほうからパルタの都に調査に来たのとエリザたちは会うことができた。


 エリザたちがパルタの都に滞在せずにすぐに出発していたら、神聖騎士団とすれ違いになってしまっていたはずである。


 他の伯爵領でエリザは占い木札で、その土地に暮らす人たちを占ってきて、リヒター伯爵領から来た修行中の占い師ということにして、密入国者ではないふりをしていることや、エルフェン帝国の聖女様の宰相であることは隠して旅をしているので「モンテサンドさんも、ご内密にお願いします」と言ってエリザは、リヒター伯爵領の領事館から夜遅く帰った。


 モンテサンドは、恋人の女店主イザベラから、執政官マジャールと噂になっているエリザについて聞かれて、修行中の占い師らしいと、ベッドの上で答えた。


「ふぅん、あら、そう。他の伯爵領も旅をしてきたお話をモンテサンドは、私のことはほったらかしで夢中で可愛い占い師ちゃんに聞いているわけね~」

「ほったらかしにしてるわけないじゃないか」

「どうかしらねぇ」


 女店主イザベラはモンテサンドをちょっと困らせて二人っきりの会話を楽しんでいる。


 女店主イザベラと話し合い、酒場を昼間、エリザの占いの場所に使ってもらうのはどうかと、執政官マジャールにモンテサンドは提案してみた。


 執政官マジャールは、めずらしくモンテサンドに反対意見を口にした。


「モンテサンド殿、エリザさんは占い師だけど、可憐なお嬢様だから、店に人が来すぎたらお疲れになられてしまうのではありませんか?」


 この時、モンテサンドたちは小心者の執政官マジャールにはエリザの正体を驚いて大騒ぎしないように隠していた。


(こんなにマジャール殿がエリザ様にべた惚れするとは、これは想定外だった。しかし、どうにも、これはどうしようもない)


 学者モンテサンドは国の体制や歴史などに詳しく、思慮深い人物ではあるが、恋愛に関しては、人並みの考えしか思いつかない。


 そうしているうちに、パルタの都の執政官マジャールの邸宅へ、紫色の美しい瞳の乙女マルティナが先に一人、滞在許可を認めてもらうために訪れた。


 ちょうど同じ日に、神聖教団の本部からは、大神官アゼルローゼと神官長アデラ、美少女エステルの姿の邪神ナーガが、大陸の東方シャーアンの都を訪れ、職人たちの大工房で浮遊帆船の組み立てられている様子をながめている。



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