第248話
土地にも、人と同じように運勢がある。そう考えてこの土地を選び、開拓する時に吉凶がわかりやすいようにすることから、ロンダール伯爵の先祖たちは始めた。
「だから、聖女様、マーオがこのドレチの村に発生することは怖がらなくても大丈夫ですよ」
ロンダール伯爵の別荘へエリザたちは呼ばれた。
バーデルの都への旅から帰ったロンダール伯爵は、エリザたちを別荘へ招いた。
この伯爵領の土地が祟られた時は、マーオが危険を察知して逃げ去ることでわかるらしい。
夢幻の領域から出現する臆病なモンスターのマーオは、精霊の森にいるもので、ブラウエル伯爵領のあたりまでいたと伝えられているとロンダール伯爵はエリザに教えた。
「ドレチ村にマーオがいるのは、ちゃんと長年に渡って私の一族が土地を整え続けたからです。
リヒター伯爵領に、夜を駈ける
ロンダール伯爵によれば、この世ならざる
バイコーンを「夜を駈ける疾風の馬」とロンダール伯爵は呼ぶ。
「どのように作物を育てるのかと同じことです。水があり、日の光があり、良い土があるところへ、種まきをするではありませんか。
しかし、隠世から現れたものが土地を離れるというのは、たしかに聞いたことがありません」
エリザは聖戦シャングリ・ラのゲーム内容の知識があり、蛇神ナーガの脅威は世界をB級ホラー映画の世界にすると嫌っている。
「隠世?」
聞き慣れない言葉にエリザは首をかしげて、ロンダール伯爵から説明してもらった。
「光が当たるところには陰影ができるでしょう?」
「はい」
「しかし、光の当たる位置や高さが変われば、陰影の長さや大きさは私たちには変わったように見えます。
陰影のようなものが隠世であって、あることを知らなけれは、怖いものに思うかもしれません」
とりあえず、蛇神ナーガの下僕の不気味で気持ち悪い人に悪さをする魔獣が出現しないらしいと、エリザは聞いてほっとした。
シン・リーは、エリザが心配かけないように蛇神ナーガの怪異が起きるかもしれないと考えていたのに、アルテリスや自分に相談せずにロンダール伯爵に相談したのを、ちょっと水くさい気もして、身を丸めて、ベンチのような木の長椅子の上でエリザの隣で耳抱け傾けて寝たふりをしていた。
エリザたちを別荘へ招く前にゲールに、神聖教団の聖女様に会ってみないかとロンダール伯爵は声をかけた。
「本当にエルフ族は滅びていなかったのか……だが、断る」
神聖教団はエルフ族を神聖な種族として崇拝するように、信者や修行者に教えている。だが、神聖教団の本部の修行者たちは、エルフ族と会ったことがない者もかなりいる。
ゲールはエルフ族は他の種族、たとえばニアキス丘陵のオークのように噂だけはあるが見た者がいない種族で、もう滅びたものと思っていた。
ゲールは逃亡中なので、できるだけ神聖教団に関係がある人物とは関わりを避けたかった。
パルタの都から王都トルネリカの依頼主には会わず、街道沿いの自分の宿屋へ帰るので後始末はよろしくと言って、エリザたちが来る前に、ロンダール伯爵の別荘からゲールとエレンは立ち去った。
「ロンダール伯爵に頼まないで依頼主に会った方が報酬が多くもらえるんじゃないんですか?」
「前金で半額はもらった」
ゲールはエレンにそれだけしか答えなかった。
王都トルネリカはロンダール伯爵領とは真逆で、どうも悪い感じがするからあまり近づきたくないとゲールは何を感じているのかエレンに説明しない。
リーフェンシュタールは、ロンダール伯爵と今後の事を協議するために別荘に滞在することになった。だが、アルテリスは山小屋風ペンションに戻ると言って、エリザとシン・リーも一緒においとますることにした。
ロンダール伯爵は、リーフェンシュタールからエリザの占いの事を聞いた。またエリザたちが旅立つ前に、ロンダール伯爵がエリザのテントに訪れたので、村人たちはざわついた。
エリザの占いを趣味なのだと思って、あまりあてにしていなかったからである。
占術にかけては天下一品とロンダール伯爵のことを思っている。お嬢ちゃんの占いも無料だけど、ロンダール伯爵が教えているならすごいんじゃないかと噂が広まった頃には、もうエリザたちの幌馬車は、パルタの都を目指して出発していた。
「大アルカナのストレングスのカードの正位置……それに、太陽のカードも正位置です。あの子たちのことを大切にしてきたことは継続していくことが、幸せにつながるということですね」
「なるほど、大アルカナと小アルカナと呼んでいるのですね。
しかし、その占い木札は、このドレチの村で作られたものではないですな」
ロンダール伯爵は、エリザが占い木札を並べて開いていくのを興味深く見つめていた。
他人の吉凶を占うことはあっても、ロンダール伯爵は、大人になって伯爵の地位を受け継いでからは、自分が占ってもらうことがまったくなかった。
「自分のとても大切な人の寿命があと一年だとして、他人の命を犠牲にすれば三年まで寿命が延びるとしたら、聖女様はどうなさいますか?」
「これは占いではありませんが、他人の命ではなく自分の命なら、大切な人に分けたいです。そして自分が一日だけ大切な人より長生きしたいです。
もし、自分がいなくなったら、大切な人が悲しむかもしれないじゃないですか」
ロンダール伯爵はそのエリザの考えを聞いて、ハッとした表情になったあと「ありがとうございます」と言って悩みが吹っ切れた笑顔になった。
ロンダール伯爵も奴隷や孤児の子供たちを犠牲にするなら、子供たちのことを伴侶のアナベルに任せて、自分の命を犠牲にしたいと考えていた。
大切な「僕の可愛い妹たち」のために自分が死んで、残された伴侶のアナベルや「僕の可愛い妹たち」が余生をひどく悲しんで生きるとしたら、その悲しみは自分が背負って生きるほうがいい。
ロンダール伯爵はそう考えることにしようと思った。
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