第98話
帝都は、神聖教団とのつながりが建造の時からある地域なので、売春は公序良俗に反する行為として避けられてきた。
神聖教団は、禁欲を僧侶以上の神官になる者たちには戒律としている。
だから僧侶たちも戒律ではなくとも心構えとして、禁欲することでトラブルを避ける傾向がある。
エルフェン帝国の元となる大同盟以前の平原地域では、荘園の地主が小国の王のように争いを起こしていた歴史がある。
神聖教団の布教と大開墾で、森林地帯が開拓されて耕作地の拡大と、森林地帯と平原で住み分けていた人たちが混ざり合い、農作物の生産量が増えることで、餓死するような最悪な困窮から逃れることができるようになった。
獣人族の奴隷化と、支配者が賄賂さえ払えば売春を黙認する傾向が、大同盟まではあった。
大開墾と耕作地の権利をめぐって小競り合いが落ち着いてくる時期になると、地位というものがそれぞれの小国で確立されてきた。
荘園や村の用心棒から、小競り合いで活躍する傭兵として重宝された獣人族が、戦が下火になると逆に危険な存在として警戒されるようになった。
貧しく困窮しきっている状況に陥って、他に手段がないのでしかたなく売春が行われたのではなくて、困窮する人は自分に甘く、努力が足りないからだと軽蔑される考え方が広まって、神聖教団では困窮者は憐れみ救援すべきであると教えていても、生活のために汗と我慢を重ねるような日々だと感じている人たちは、困窮者を蔑むような気分は、なかなか消えなかった。
平原の野うさぎが飢えを満たすために畑の作物をかじるように、人も困窮すれば他人に危害を加えることがある。
それに普段から他人との関係を大切にせず恨まれていたり、狙われないように用心していないからだと、被害者を責めるようなことを口にする者までいた。
困窮しきって誰でもいいから助けて欲しいと言うことは、とても人として恥ずかしいことだと蔑む人と、他人を信じることができずに思い詰めて、自分よりも悪い生き方をしている者からならば奪ったり、危害を加えたりしてもかまわないだろうと考える者もあらわれた。
他人と比較して過度の豊かさを手にしていて、自分は欲しいものを手に入れられるようになったと感じた者たちが行き着く先は、欲望に身を任せて快楽を求め続ける愚かさで、生きる退屈さをまぎらわすことだった。
獣人族だけでなく、貧しい者も奴隷として捕らえて取引をするほど、退廃した小国まであった。
魔獣を地上から駆逐するまでは命の危険があったので、対抗するための手段を他の種族とも協力していた古代ハイエルフたちが、地上の障気を集め魔獣を発生を防止するダンジョンを開発して、魔獣を地に蔓延させている魔獣の王が生殖に関わる欲望とつながりがあり滅ぼすことは、地上に繁栄している全部の種族を滅ぼすことにつながると理解したあと、目標を失い、最終的にはずっと眠り続けて自分の望む夢の中で意識を遊ばせ続ける享楽に耽り、肉体の維持と世界の監視をさせるためにエルフ族を生み出して滅び去った。
ハイエルフ族は、淫らで退廃的な夢に心をゆだねて、原初の神龍の力に、死と同時に肉体すら返すことを選んだ。
戦い続けるのは他の種族に任せて、ひたすら眠ることを選んだ。
欲望に身を任せて快楽を求め続ける愚かさから、エルフ族の美しさに目をつけた者たちは、自分たちでは攻め込むのが難しい大樹海に獣人族の幼女の奴隷をわざと逃がし、奴隷を
獣人族の幼女の奴隷を返されないように毒矢で射るはずが、誤って獣人族の幼女をかばったエルフ族の少女を毒矢で射ってしまう。
大樹海に追い込まれた獣人族の幼女の奴隷をかばって、毒矢で射られたエルフ族の少女は、現在、エルフェン帝国で最高権力者となっているエルネスティーヌ女王陛下である。
神聖教団は、回復ポーションの提供や地上に魔獣が出現した時に討伐の協力を交換条件に、奴隷制度の廃止と奴隷に売春させる行為の撤廃を小国に交渉していた。
美しい奴隷を求め、エルフ族の王国を侵略しようと動いていた国より、神聖教団に同意してエルフ族と戦をする被害を避けたいと考えた国のほうが多かった。
支配者から強制され奴隷として売春させられることは廃止となっている。
ターレン王国には奴隷制度が、バーデルの都の女領主になった呪術師シャンリーによって残されている。
ターレン王国の一部には、かつて平原地域にもあった退廃的な風潮と似たものが作り出された。
エリザが旅をしている平原のルートには、愚か者になって自分から身を売る者がいない。人の心がのどかな地域が続く。
白い梟が案内している平原なルートは、エリザに人の愚かさを教えないように隠されている。
これも愛と豊穣の女神ラーナの加護かもしれない。
南方のクフサールの都では、権力者は神獣の神官シン・リーただひとりであり、大砂漠の厳しい自然環境がある。人は愚かでは生きられない。
東方のシャーアンの都では、海に出れば危険な怪異に遭遇することもある。
生きているのが退屈なんて思えるのは、とても贅沢なことなのである。
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