第97話
冒険者はダンジョン探索のために、通行証を受付嬢のアーヤから受け取り、冒険者ギルドの裏手からダンジョン周辺へ渡る。
冒険者ギルドの裏手の空き地にしか見えない場所は、敷石がない地面が剥き出しになっている。
エリザの花の種まき運動の時、神聖教団の敷石回収担当の僧侶が古都ハユウから、王宮の魔法陣がある儀式の間ではなく、この空き地へ瞬間移動で渡って来ていた。
ダンジョン周辺に宿屋を建てたいと考えていた商人ルシアーナと現在、冒険者としては無収入のローレックは、エリザの花の種まき運動で収入を得たあと、元カジノの遊戯場でしばらくエリザ人形の当たりくじ屋をしていた。
くじに当たれば、半額以下でぬいぐるみのエリザ人形を景品として渡す。
「おい、本当は当たりなんて入ってねぇんだろっ!」
「ちゃんと入ってますよ。あと木箱の中身のくじの最後の一枚を引いた人にば、当たりでもハズレでも、必ず景品を渡しています」
このくじと木箱には、一つだけ仕掛けがある。
10回挑戦して当たりくじを引けない文句をつけてきた客に、ルシアーナがにっこりと笑いかけてくじを1枚つまみ出す。
赤い紙片の当たりくじを見せられて、文句をつけてきた客がぽかんとしていると、ルシアーナと客の様子を心配そうに見ていた他の客たちから、笑い声が上がった。
「ちえっ、悪かったな、あと1回だけやらせてくれ」
「10回連続で挑戦した人には、1回分は無料で引いてもらえるようにしますか。さあ、どうぞ!」
くじの紙は、ローレックとルシアーナ専用のくじとして作られていた。
ローレックとルシアーナは当たりくじが指にふれるとわかる。
ダンジョン探索の許可証は、依頼を受けた冒険者パーティーのメンバーがふれると、メンバーの指先に冷たいか熱いか、温度差を感じる。
その仕掛けと同じで当たりくじは、ローレックとルシアーナには指先の感じで箱の中は見えなくてもわかる。
木箱は1回で、小さな紙片を箱の中が外から見えないので、ズルをして2枚か3枚を取り出し口から取り出そうとすると、手が抜けなくなるようになっている。
これは、小鳥の巣箱の改良品。
巣にした小鳥以外の卵やひな鳥を狙う蛇や他の鳥が巣を奪おうとすると、侵入すると樹の下の地面に出てしまい、巣箱に侵入できない仕掛けの応用である。
「くじは1回1枚ですよ」
ローレックが苦笑しながら、他の客に笑われた客がむきになってしまい、ズルをしようとしたので手が抜けなくなっているので、声をかけた。
遊戯場で人気があるのは、ダグラスおじさんの腕相撲だった。
ローレックのパーティーメンバーで腕力自慢だったダグラスがやっている。
「ほらほら、挑戦するやつはいないか?」
「ダグラス、俺がやっていいか。たまに負けないと、お客さんたちが勝てる気がしないだろう?」
「あー、ローレック以外の腕自慢のやつはいないか!」
ダグラスに勝つと「三日月と薔薇亭」の無料食事券が3枚もらえる。1回分の食事の半額ぐらいの参加費で挑戦できる。
カジノが遊戯場になって商人ルシアーナたちは、商工ギルドからレンタルした細工師ロエルと弟子のセストの道具を使ってみたりしながら、それぞれ楽しんで商売をしていた。
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