第19話
ミミック娘は、神話で語られている世界の生き残りのような存在で、ダンジョンに古代エルフ族の
しかし、その膨大な叡知の使い方を知らない。
叡知の保持されているダンジョンを管理する者として組み込まれているからである。
賢者マキシミリアンがダンジョンを探索した目的は、それまでの冒険者たちが出現するモンスターを討伐するために訪れたのではなく、もっと単純な興味だった。
どうして何度も冒険者たちが討伐しているのに、モンスターが出現し続けているのか?
それを調べるためにマキシミリアンは訪れた。
エリザなら、この世界はゲームとして構築されているから「そういうふうにプログラムされて作られているからですよ」と断言するはずである。
冒険者はモンスターを発見して攻撃するか、ちょっかいを出して勝ち目がないと怯えて逃げ出す。
ミミック娘は、マキシミリアンが訪れるまではそう思っていた。
ミミック娘を発見したマキシミリアンは「どうして君は、ここにいるの?」と、ミミック娘に話しかけた。
自分がダンジョンに長い期間を一人ぼっちでいるのはなぜか?
ミミック娘は、マキシミリアンからの問いかけに、そう決められているから、としか答えられなかった。
まだ少年だったマキシミリアンには、ダンジョンは秘密の遊び場だった。ミミック娘を、マキシミリアンは親友の一人だと思っている。どうして、私はここにいるのかミミック娘は考えてしまった。
その答えは、マキシミリアンが会いに来てくれるから、という答えに変わるまでにさほど時間はかからなかった。
少年だったマキシミリアンは、このニアキス丘陵のダンジョンに王都ハーメルンの王宮から通うための抜け道を作り出した。
古代エルフ族の叡知を使い、瞬間移動の魔法陣を、まるで工作遊びをするような気軽さで、ミミック娘と協力して作り出した。
ゼルキス王国の第一皇子マキシミリアンが、この瞬間移動の魔法陣で何を起こしていたのか?
同じ時代の別の場所へ移動する瞬間移動の魔法陣を出現させたことで、いずれ発生する蛇神ナーガの出現が阻止するための布石が置かれた。
古代エルフ族が蛇神ナーガを滅ぼせないと判断して追放したが、心の底から恐れた。
この世界は愛と豊穣の女神ラーナが消滅したら、別の神の世界になってしまう。それは地上で魔獣が餌として古代エルフ族をふくめ生き物を襲って喰らっていたのはなぜかを考えて、一つの結論に到達したからである。
草や果実を主に食べていた古代エルフ族は、空腹を満たし、生きるための生命力を維持するために魔獣が生き物を襲っているわけではなく、女神ラーナの化身である生き物を探しているからだと理解したからだった。
まだ少年だったマキシミリアンが瞬間移動の魔法陣を作り出した結果、別の過去の時代の人たちがやって来ることになった。
神聖教団の僧侶リーナが、自分が愛と豊穣の女神ラーナの化身であることを受け入れてでも、どうしても再会したいと願った恋人がいた。
その恋人の窮地を救った獣人アルテリスは、まだ獣人が商人ではなく奴隷にされていた時代からやって来た女性で、辺境の森林地帯で僧侶リーナが神聖騎士団に救援を求めるためにゼルキス王国へ訪れるのを助けた。
リーナの恋人は隣国のターレン王国で、囚われ逃亡したが身も心も憔悴しきって生きた人形のようにされていたのを保護して旅を続け、治療に協力してリーナと恋人の再会に貢献した。
赤髪で狐耳とふさふさのしっぽがあり、青葉色の瞳が美しく端正な顔立ちで、勝ち気そうな表情をしている獣人娘のアルテリス。
彼女が、過去の時代から飛ばされて来ることになったゆがみは、少年のマキシミリアンが、このニアキス丘陵のダンジョンで瞬間移動の魔法陣を作り出したことの影響であった。
賢者マキシミリアンとミミック娘が協力して、プレイヤーキャラクターのステイタスのパラメーターについて、古代エルフ族のデータベースに検索をかけたことも、それまでダンジョンの探索でワンダリングモンスターの討伐をしていたこの世界の冒険者は、誰も行ったことがない出来事である。
ゲーム製作会社フェアリードリームでは、オープンワールド型の【聖戦シャングリ・ラ】を製作中だった。
プレイヤーが操作できるオリジナルキャラクターを設定する。
過去の家庭用ゲーム機用の個人プレイ用RPGや、それ以前のテーブルトーク型RPGでも、プレイヤーはキャラクターの能力値を設定していた。
それをNPCをふくめた全キャラクターに設定する作業を、ゲームプロデューサーの岡田昴から指示されたスタッフは、手分けして設定資料を作成した。
「もし村人とプレイヤーキャラクターが口喧嘩になったら、どっちが先に手を出すか、それとも相手にしないではぐらかして逃げるのか、それを判定できるようにする基準を数値化する。どの能力値で判定するかは、以前は一つの能力値で判定しがちだった。今はいくつかの能力値を組み合わせて複雑な計算ができるから」
「それって、プレイする人が何かする時に成功か失敗するか、簡単にわからないようになるってことかな?」
名門校の月虹学園を卒業して、すぐに大学進学ではなく、ゲーム製作会社フェアリードリームに入社してきた新人の川井望は、歳上の30代の恋人でゲームプロデューサーの岡田昴のマンションで、ケーキ屋さんのプリンを食べながら質問した。
「プレイする人がなんでそういう結果になったかわからないと、運ゲーとか言われちゃうかもよ」
「そうかな?」
「うん、この能力値が高いから、これは成功しやすいって考えると思うの。でも、複雑すきてわからないと、適当にランダムで結果が変わるゲームだと思われちゃう」
そう言いながら大好きなプリンを食べて、にこにこしている川井望の唇を見つめてしまい、岡田昴は目をそらして、濃めの珈琲を一口飲んだ。
(あの唇とさっきキスしちゃったんだよな。僕はもう大人なのに、こんなにドキドキしてるなんて、望ちゃんが知ったら絶対に爆笑されそうだ)
川井望は趣味でCGイラストを描いていた美術部の生徒だった。
そして【聖戦シャングリ・ラ】のファン。
文化祭の対談企画で、月虹学園の非常勤の特別講師していたマンガ家のメイプルシロップこと緒川翠に岡田昴が呼ばれた。
そこで出会った女子高生が卒業して自分の会社に入社してきて、今は岡田昴のマンションの部屋で一緒にプリンを食べながらゲームの話をできる恋人になっている。
恋人の川井望も、実はキスの余韻のまだそわそわ落ちつかない気分のまま彼と話しているのを、岡田昴は気づいていない。
今はキスまでと決めて二人は交際中である。職場では、本人たちは交際していることを隠しているつもりになっている。
スタッフには、二人の関係はすっかりばれているけれど、岡田昴が恋人ができて気合いが入ったらしく、機嫌良く仕事をしているので、むしろ川井望はムードメーカーの職場の救世主として感謝されている。
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