第18話  

 胸がキュッと苦しくなるような恋をしている参謀官マルティナのような人もいれば、夫婦で仲睦まじいマキシミリアンとセレスティーヌや、細工師ロエルと弟子のセストのような人たちもいる。


 銀色の長い髪はふんわりと耳の下あたりから波打っている。目元はタレ目で左目の下に小さな黒子がある。ちょっと厚めのぷるんとした艶のある唇が微笑している。瞳の色は淡い金色なのがとても印象的である。

 ミミック娘はそんな感じの卵型の顔立ちをしている。


 以前は両肩が出ているゆったりとした白い布のドレスをまとい、見た目はふんわりおっとりとした落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 エルフェン帝国にマキシミリアンが招致された時、師匠のロエルとダンジョンを訪れた青年セストから贈られたメイド服が最近のお気に入りで、ミミック娘はよく着ている。


 もしもミミック娘の宝箱を普通の宝箱だと思い、鍵穴に鍵の仕掛けを解除しようと盗賊が針金を入れようとすれば宝箱のふたがいきなり開き、槍を手にしたミミック娘があらわれて、ふとどき者を串刺しにする。

 ミミック娘の使う槍は、突き刺した相手を炎で焼く。

 かつて大陸の西方へ平原の戦乱の地から難民を連れて旅をしたゼルキス王国の初代国王が、エルフ族から魔力がある武器を貸りて使っていたと伝えられている。

 その獄炎槍インフェルノフレイムスピアという武器と、ミミック娘の武器は、とてもよく似ている。


 ニアキス丘陵のダンジョンに、賢者マキシミリアンとセレスティーヌが暮らし始める以前は、冒険者がミミック娘のいる階層まで探索に来ては、撃退されていた。

 賢者マキシミリアンは、ダンジョンを改造して、ダンジョンの制御のための人の頭ほどの大きさのつるりとした白銀の球体が中空に浮かぶ大広間を作った。

 この特別室に、ミミックにはいてもらっている。


 白銀の球体に目を閉じて両手でふれることで、マキシミリアンはダンジョン持つ知識を得ることができる。

 

 ミミック娘は、ニアキス丘陵のダンジョンの制御を行ってきた。

 基本的には宝箱のふたを閉じて眠っているのは、昔は安心して眠れなかったからと、マキシミリアンに語っている。


 ダンジョンを大陸各地に作ったのは、古代エルフ族である。

 ダンジョンに凶暴なモンスターが再生させていたのは、地上の世界の浄化機能だったようだ。


 蛇神ナーガが禍々まがまがしき異界へ追放され、地上にいた人型種族を襲って喰らう魔獣も駆逐されたあと、古代エルフ族は不死の研究の結果、かならず限界を迎える肉体から意識だけを逃がすところまでは成功した。


 世界樹がこの世界に出現して、エルフ族が復活するまでに、古代エルフ族の幽霊のようなものは滅んでしまっていた。


 古代エルフ族が姿を消してからは、人間たちの長い戦乱の時代が続いていた。

 

 ミミック娘は、そうしたこの世界の歴史を知っている。

 だが、それでも、人間の心についてはわからないことが、まだまだたくさんあるので、ミミック娘の興味は尽きない。


 ミミック娘は、賢者マキシミリアンを愛している。

 もちろん、マキシミリアンが妻のセレスティーヌや娘のミレイユを溺愛していることも、よくわかっている。


 激しい性欲や暴力や争い、そして孤独の寂しさの蛇神ナーガの世界への影響が弱まり、今は愛と豊穣の女神ラーナの化身である聖女が浄化の世界樹とあり、恋愛や嫉妬の夜の女王ノクティスが地上で聖騎士ミレイユの魔剣として共にある世界になっている。


(過去の世界から、また何かが変わろうとしている)


 ミミック娘は、賢者マキシミリアンのために古代エルフ族の叡知えいちを探りながら、そんなことを感じていた。


 

 

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