第17話
ゼルキス王国神聖騎士団は、聖騎士ミレイユと神聖教団から騎士の爵位を受けた9人の「戦乙女」と人々から呼ばれている女騎士たち、そして参謀官のマルティナ、代表責任者は賢者マキシミリアンという、少数精鋭の組織となっている。
大陸で冒険者では手に負えないモンスターが出現すると、神聖教団からこのゼルキス王国の神聖騎士団に依頼される。
冒険者ギルドでダンジョンのモンスター討伐や、大陸の地上で出現したモンスター討伐で功績が認められた冒険者は、神聖教団から騎士として認可され、神聖教団の僧侶たちと同様に、聖騎士となるための試練に挑戦することができる候補者の権利が与えられる。
冒険者は多いが、神聖教団に認可されている騎士は9人の若い女性たちしかいない。
そんな強者たちを聖騎士ミレイユの片腕としてまとめている参謀官がマルティナである。
参謀官マルティナは騎士団の隊長格である9人の「戦乙女」のように戦闘力は高くない。
彼女は神聖教団の神官の一人であり、淡い紫色の瞳を持つ才女である。
このマルティナは、神聖教団の秘儀である死者蘇生によって作り出されたホムンクルスである。
賢者マキシミリアンが古代エルフ族の聖遺物と呼ばれるアイテムから、ミミックをふくめたモンスター娘たちを錬成召喚したのとは別の魔法技術によって、強力な魔石と人の遺体を融合させて作り出したホムンクルスと呼ばれるものなのだった。
彼女は自分はマルティナという名前の少女だと、神聖教団の修行場の古都ハユウで神官たち教え込まれて育てられた。
聖騎士の試練を受けるために訪れたミレイユとの出会いが、彼女を変えた。恋に落ちたのだ。
マルティナは教団の厳しい修行に耐え、神聖教団の神官の地位を与えられた。そして、念願の聖騎士ミレイユの側近となるため騎士団への入隊を許可された。
これにはマルティナの知らなかった裏事情があった。
もしも、マルティナに融合した魔石の悪影響が発生して、神聖教団や人に災いをもたらすモンスター化した時、それを討伐する者が近くにいれば被害は最小限に抑えられると判断されたのである。
しかし、賢者マキシミリアンやエルフ族のセレスティーヌに、蛇神ナーガの門の発生によるゼルキス王国や平原地帯への障気の流入を防ぐ魔法障壁を作るために協力を要請した時に、ニアキス丘陵のダンジョンで、自分がかりそめの命を魔法で与えられた人間ではない作られた存在だと彼女は知ることになった。
蛇神ナーガの障気を受け続けていると、淫夢にうなされ睡眠不足になり、やがて眠ったまま理性を失って徘徊し、自覚がなく凶事を眠ったまま引き起こす。また、自制心が失われていく。
やがて、ずっと眠ったまま徘徊するようになる。痛みにも鈍感で凶悪だが、人の姿であるだけに撃退するほうがつらい気分になる。
腐敗していないゾンビといった感じで、虚ろな目をしている。
疲れを知らずに、生気のある他人を求めて徘徊し続ける。
霊障を受けている生きたゾンビ同士は襲い合わないのが、かなり不気味である。
障気が流れ込まないように、セレスティーヌが、魔法障壁を施した。障気は流れ込まないが、隣国ターレンの兵士や辺境の住人たちが王都に侵入して、障気を撒き散らしながら住人を襲えば、次は襲われた人たちが徘徊し始めて、セレスティーヌの魔法障壁は意味を失ってしまう。
障気がさらに強まり魔法障壁を破られそうになったら、参謀官マルティナは自分の融合している魔石の魔力も魔法障壁として使い、ゼルキス王国の人たちや、その先にある平原地帯の人たちが蛇神ナーガの障気で霊障を受けないように、命がけで魔法障壁を強化して守る覚悟を、参謀官マルティナはしていた。
賢者マキシミリアンが彼女に新しいモンスター娘の体をミミックと協力して提供する方法や、細工師ロエルが埋め込まれている魔石を肉体から取り除く方法も考えられた。だが、それは彼女の自我が失われる危険があると断念した。
彼女と融合していると思われる紫色の魔石の正体を、マキシミリアンは調べていた。エルフェン帝国の冒険者ギルドでも、紫色の魔石の発見例は無かった。
もしも、マルティナの命を魔力で維持している魔石が、モンスターからドロップするものならば、そのモンスターを調べることで、何か良い方法が見つかるかもしれないと、マキシミリアンは考えていた。
強力な魔石であっても、魔力を使い切ればマルティナの命も尽きてしまうとわかっている。
神聖教団の死者蘇生の実験で、ただ一人だけの成功例。
そして、モンスター化する可能性も危惧されている存在。
それが紫色の瞳の才女、参謀官のマルティナである。
蛇神ナーガの異界の門は、聖騎士ミレイユや女騎士たちによって祓われて、門からの異界の障気の流出も止まり、大陸の混乱の危機を脱した。また、愛と豊穣の女神ラーナの化身の聖女リーナは、世界樹の精霊族のモンスター娘のドライアドの肉体を得て今はエルフ族の王国の女王となっている。
参謀官マルティナも犠牲にならずに済んだとはいえ、マキシミリアンは彼女が、神聖教団の実験で融合させられた魔石の魔力切れで命を落とさずに済むように、なんとかしたいと考え続けていた。
(魔石の発見例が多くあるエルフェン帝国の冒険者ギルドでも、マルティナと同じ魔力を持つ魔石は発見されていない。そうだとすると、マルティナの紫色の魔石は、モンスターから出てくるものではない可能性がある。古代エルフ族の聖遺物なのか、それとも別の物なのか?)
もしも、賢者マキシミリアンは転生者のエリザに、参謀官マルティナについて何か知っているか聞いていれば、こんな返答が返ってきたはずである。
「あっ、3周年アニバーサリーのイベントの時の人です。たしか、可愛い女の子たちが武装して銃撃戦をするアーケードゲームとのコラボで、むこうのゲームだと武装した装甲車で戦場に出て、女の子たちに弾薬を補給したり、自分たちの拠点を防衛するのが、指揮官マルティナです。メガネが似合うクールな感じの子ですよね!」
さすがに賢者マキシミリアンでも、他のゲームとのコラボ企画と言われても、理解するのは難しくかなり困惑したにちがいない。
だから参謀官マルティナは【聖戦シャングリ・ラ】では、期間限定で、それ以降は存在しない魔石で、ゲームに登場したキャラクターなのだった。
人気アーケードゲームのキャラクターデザイナーが、マンガ家のメイプルシロップこと緒川翠の大ファンなので、実現したコラボ企画だった。
これは余談だが、アーケードゲームのほうでは、聖騎士ミレイユが飛行ユニットで、魔剣ノクティスで高層ビルをバッサリと斜めに斬っていた。
爆発がなく遮蔽物を減らすことができたのて、敵の巨大な戦艦などの機体を、他のキャラクターが素早く狙撃しやすくすることができた。
聖騎士ミレイユは、かなり強いキャラクターだが、戦場に参戦できる時間が短めなので、使うのにコツがいるコラボキャラクターだった。
最後の追い込みに使うか、悪あがきで防衛して引き分けを狙うために戦場に投入されていた。
参謀官マルティナは【聖戦シャングリ・ラ】のメインストーリーで、ゼルキス王国の王都ハーメルン防衛戦で、マキシミリアンの親友で戦斧使いの大男、猪突猛進で障気も気合いで受けつけずに戦える将軍クリフトフの参謀として、障気でゾンビのようになった隣国ターレンの軍勢が押し寄せたのを撃退するのに活躍した。
また、蛇神ナーガの異界の門を祓いに行く戦乙女たちの特殊武装を、細工師ロエルと一緒に開発している。
聖騎士ミレイユのことを恋慕いながら、神聖騎士団の参謀としてミレイユの近くで仕えている乙女がマルティナなのだった。
残念ながら、憧れの聖騎士ミレイユは、魔剣ノクティスになっている嫉妬深き美少女の夜の女神に惚れられ、ミレイユは契約してノクティスに加護されているので、参謀官マルティナの恋は、今生ではまず叶うことはないだろう。
賢者マキシミリアンは、マルティナの恋心に気づいている。
せめてマルティナを、できるだけ長く娘のミレイユの親友として生きられるようにしてあげたいとマキシミリアンは思っている。
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