第16話 

 大陸西方にあるニアキス丘陵のダンジョンに、賢者マキシミリアンは妻のセレスティーヌと暮らしている。


 大陸中央の広大な平原地帯に、エリザが宰相をしているエルフェン帝国がある。

 帝国はエルフ族のエルネスティーヌ女王陛下を君主としている。

 エルフ族の王族セレスティーヌは、エルネスティーヌ女王陛下の姉である。

 賢者マキシミリアンとエルフ族の王国から出奔しゅっぽんしてミレイユという娘を産んだ。

 賢者マキシミリアンとセレスティーヌの一人娘のミレイユは、この大陸でただ一人の聖騎士という称号を持つ人物として神聖騎士団の団長になった。

 セレスティーヌは、ゼルキス王国のマキシミリアン大公の貴婦人である。マキシミリアンは西方のゼルキス王国の公爵で、ゼルキス王国は、マキシミリアンの弟のレアンドロ王が統治している。


 カードゲームRPG【聖戦シャングリ・ラ】の設定上の人間関係は、名前を聞いても誰なのかすぐわからないこともある。

 セレスティーヌとエルネスティーヌ女王陛下は姉妹で、性格はちがうが顔立ちはよく似ている。

 同じエルフ族の美人なので、プレイヤーでも名前だけ聞くと間違えてしまうことがある。


 マキシミリアンは宰相エリザとの会談を終えて、ニアキス丘陵のダンジョンへ帰ってくると、妻のセレスティーヌに宰相エリザとどんな不思議な話をしたのかを、興奮ぎみに話していて、聞いているセレスティーヌが呆れるほど、マキシミリアンの報告は、なかなか止まらなかった。 

 こういう時、セレスティーヌはマキシミリアンのことを子供みたいだとちょっと思う。


 自分たちにはまだ知らない世界があったということに、マキシミリアンは興奮していた。


 セレスティーヌはソファーで隣に腰を下ろしているマキシミリアンの肩にもたれかかって、そっと手を重ねている。


 自分たちはゲームの登場人物という考え方には、セレスティーヌは、すぐについていけない。


「マキシミリアン、そのどこか遠いところへ、ちょっと行ってみたいと思っていませんか?」

「行くというのは少しちがうかもしれないが、とてもこれは興味はある話だよ」

「私よりもですか?」


 マキシミリアンは手を撫でられて、セレスティーヌの顔をハッとして見つめた。


(どうやら、夢中になって話すぎたかもしれないな)

 

「もしも、遠くに旅をするとしたら君を一緒に連れて行くよ、セレスティーヌ」

「あら、そうかしら?」


 このあと、マキシミリアンは愛妻家なので、もうこの話題について話すのを止めて、二人で仲良くする時間にした。


 翌日、マキシミリアンはモンスター娘のミミックの宝箱のふたをノックした。


「ふわぁ、おはようございます、マスター」


 ミミック娘は、んーっとのびをしてから、マキシミリアンにあくびをして言った。機嫌が悪くない時の寝起きのミミック娘は、いつもこんな感じだ。


「ミミック、エルフェン帝国に呼ばれて行ってきた。むこうのダンジョンでも、人を襲うモンスターはちゃんと消えているようだ」


 下半身は宝箱の中で、青年セストからもらったメイド服が気に入ったらしく、メイド姿のミミック娘は「当然ですよ」と、にっこりと笑った。

  

「帝都のそばのダンジョンから、セストの情報に自分で干渉しようとしてみたが、ダメだった。ミミック、手伝ってくれないか?」

「5日ほど時間を下さい、そのパラメーターというものがダンジョンの記憶にあるかどうか調べてみなければならないので」


 ダンジョンの記憶――今はいなくなった古代エルフ族の遺産であるダンジョンには、古代エルフ族の魔法の知識や技術がつまっている。その情報を調べて使うための鍵が、ミミック娘なのだった。


「ついでに、調べてもらいたいことがある。ホムンクルスの魔石とダンジョンにうろうろしていたモンスターたちから出てきていた魔石が、同じものなのかどうか」

「わかりました。マスター、ではあと1日追加で、6日間お待ち下さい」


 パタンと宝箱のふたが勢い良く閉じた。こうなると、力づくでふたを開くことはマキシミリアンでもできない。





+++++++++++++++++


お読みくださりありがとうございます。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新頑張れ!」


と思っていただけましたら、★をつけて評価いただけると励みになります。




 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る