第15話 

 エリザとして転生した【聖戦シャングリ・ラ】の魅力は、重厚かつ先の読めないストーリー、オリジナリティの高い戦闘システム、キャラクターたちの恋愛要素を関連づけていて、単純に経験値貯めのゲームではない育成ゲームとしての質の高さという魅力がある。


 しかし、それはゲームをやりこんでいくとわかる魅力であって、初めは美少女、美人キャラクターたちの見た目につられて遊んでみたというプレイヤーも多い。

 このゲームには、他のゲームで普及する前からガチャの天井が実装されていた。


(女王陛下の声も素敵ですけど、ロエルちゃんとセストくんの声も素敵だし、賢者マキシミリアンの声が渋くてカッコいいですっ!)


 有識者会議中に、エリザがうっとりしていたのはそこだった。

 声フェチと言うほどではないとエリザは思っている。ファンサイトにはガチの声優ファンもいる。


 他のゲームは単調なゲーム要素でプレイヤーに飽きられたり、課金してガチャをしても、気になるキャラクターを獲得するまでに大金を使ってしまったり、プレイを毎日続ける習慣が崩れるとやる気が冷めてしまったりする。

 その結果、課金ユーザー離れを運営が判断してサービス終了するパターンが多い。


 エリザは有識者会議の時、すでにスポンサーがオンラインゲームから撤退することで、人気があるうちに運営が配信サービス終了していることを知らない。


 配信サービス終了でも、ゲームの世界が消失していないのは、原案者の人気マンガ家が、あれこれゲーム以外の作品で【聖戦シャングリ・ラ】の物語をファンに提供していたのも影響している。


 モンスター討伐は経験値入手ではなく、ストーリーモードのイベント発生の条件になっている。

 経験値獲得は、対人プレイでプレイヤーに獲得されていく。さらに、自分とはちがうキャラクターの入っているデッキの相手と対戦することで、キャラクターが成長していく。勝ち負けよりも、他のプレイヤーとの関わりがポイントになっていた。


 趣味ゲーと【聖戦シャングリ・ラ】が呼ばれていたのは、特定のキャラクターが対戦させたことで戦闘中に特別な画像やセリフがあったり、新規ストーリーモードが発生したりする作り込みがあり、自分のお気に入りの推しのキャラクターの恋愛育成ゲームでもあった点で、他のゲームはプレイヤーキャラクターとの恋愛ゲーム要素はあるが、このゲームは原案者の好みの癖が強く、同性愛のキャラクターの恋愛が展開される。

 いわゆる腐女子な趣味の女性たちは対戦育成とストーリーモードをうまく攻略して、自分のお気に入りのキャラクターたちをカップリングさせたりもしていた。

 「俺の嫁が新キャラの美人に寝取られた」と、百合ものが好きな人が、隠しストーリーモードをファンサイトで攻略手順を公開したりしていた。


 担当声優がプロの声優とは限らず、スポンサー企業の有名人気AV女優であることもあった。

 またゲームの主題歌を歌うMというのは、元グラビアアイドルから声優に転向した小野田美樹という声優だったが、しばらくMという歌手は世間に公開されていなかったので、あの歌声は誰なのかと話題になったりもした。


 ゲームプロデューサー岡田昴の親友に、のちにVTuberのアイドル事務所を設立する神谷透という人は【聖戦シャングリ・ラ】をプレイしたり、ファンサイトをのぞいてみて、自分の事業はVTuberのアバターで使うデザインが良ければいけると確信した。


 転生した状況は、宰相エリザのアバターで、アニメ作品で活躍している声優の声を与えられた二十歳のゲームファン、不遇のニートの女性のVTuberのようなものかもしれない。


 エルフ族の女王陛下、賢者マキシミリアンやその親友の細工師ロエルと青年セストに、転生前の彼女の世界では【聖戦シャングリ・ラ】のファンがいることやいろいろな話もエリザは聞かせてみた。


 細工師ロエルを、のちにこの世界の人たちは「発明の母」と呼び偉人の一人として語り継ぐことになる。


 たとえば、包丁やまな板、フライパンなどの調理器具を、細工師ロエルは作った。

 セストがエリザから、掃除の道具や調理器具の話を聞き出していて「そういうものがあったら、すごく便利ですね」と興味を持っていたからだ。

 

 エリザは、この世界には鍋はあるのにフライパンがなく、また小太刀のような重い包丁ではない使いやすい三徳包丁や出刃包丁がないことが不思議だった。

 

 錆びない金属の包丁、汚れても洗って清潔に使える薄めの金属のまな板に、焦げついてもすぐ取れる石が薄く加工されているフライパン。


 エリザが思っていた以上の品物を、細工師ロエルはセストに相談しながら作った。セストが毎日使いやすいものを、ロエルは作りたかったからである。


 転生してきただけでは、この世界には変化はない。

 誰かに思いを伝えて、自分とはちがうことができる人の協力があって、この世界にはないものが出現する。

 細工師ロエルが青年セストによろこんでもらおうと、愛情をこめて錬金術を使い製作した道具だと思うと、エリザもちょっと感動してしまった。


 細工師ロエルの包丁、まな板、フライパンは後日、王宮に提供されて、王宮の料理人たちは、さらに腕をふるった。

 少しずつ配信サービスが終了したゲームの世界にエリザのアイデアが、この世界のやり方で実現し始めている。


 賢者マキシミリアンは、さらにエリザが驚くようなことを始めていた。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る