第13話
エリザからすると、転生前の世界よりも、ゲームの世界の方が不思議だらけである。
硬貨だって造幣局があるわけではないから、精巧な外国のコインのような硬貨は、いつ頃に製造されて流通しているのか、どうして大陸のどこでも同じ価値で使えるのかもわからない。
病院はないけれど、ほとんどの病気やケガは神聖教団の教会で寄付するともらえるポーションを塗ったり、服用すれば、あっさりと治ってしまうのも、かなり雑な気がする。
村ではよく鶏に似た生き物が飼われているけれど、毛色はひよこと同じ黄色だし、卵をかごに入れて村で家をまわって売って歩いている子供もいる。
平原から畑の作物を食べにきて捕まえられるうさぎ肉の料理などがあり、また鶏肉はあるが、牛肉や豚肉はないところや、馬車は石のゴーレム馬で走らせているのを見れば、牛や豚だけてなく馬もいないようだ。
野菜などは豊富で、いろいろなものがあるが、市場でなぜか、もやしは見かけない。
エリザは転生前、一人暮らしをしていたので、安く買えるキャベツともやしは定番の野菜だった。
たまに食べていたインスタントラーメンはないけれど、スパゲッティーらしきものはこの世界にもある。
パンも食パンに似ている柔らかい食感のパンなのはありがたい。
蒸しパンみたいな感じのパンだがメロンパンのような甘みのあるパンはない。
クッキーは存在している。チョコレートがないのが残念。
エリザからすると、中途半端に転生前の世界に似ていて、何かちょっと雑だけれど、なんとなくうまくいっている感じがする。
布を裁断するハサミや裁縫をする針もある。仕立て屋がいて、服も作ってもらえる。
しかし使われる糸や布地は、錬金術で錬成して作り出される。羊が飼われているわけではない。
硬貨も細工師が錬金術で作ったものなのかを、会議の本題に入る前に、ドワーフ族の細工師ロエルや弟子の青年セストに質問してみたが、よくわからないらしい。
賢者マキシミリアンは、おそらく硬貨も古代エルフ族が作ったものなのだろうと言っていた。
大陸全域で同じ共通言語が使われているのも、古代エルフ族の言語が伝えられて残ったものと考えられるようだ。
(いくつも複雑に言葉がちがっていたり、お金の価値がちがっていたら、プレイしずらいからっていう都合かもしれないですけど)
ダンジョン内のモンスター出現率の調整は、エリザが考える限りゲームの難易度のバランスを調整しているゲームのプログラムがあって、それを賢者マキシミリアンが変えてしまったとしか思えなかった。
エリザから、世界はプログラムによって構築されているという内容を聞いて、細工師ロエルは、なぜそうなっているかとは考えず、それをどうやって使うかという方向性で物事を考える性格なので、ゲーム内通貨をプレイヤーが所持していることを利用すればいいと考えた。
特別な登場キャラクターとしてプレイヤーはゲームに参加している。プレイヤーのキャラクターがゲーム内通貨をどれだけ所持しているかを示す【所持金】の数値がある。その枚数は、物理的に考えてありえない枚数である。
「金貨はたくさんあれば重い。1枚は軽いけれど。でも、エリザの言う、そのプレイヤーキャラクターは特別。たくさんの金貨を持ち歩いているのに重さで動けなくならない」
この世界にいるキャラクターはプレイヤーキャラクターと、プログラムによってゲームプレイのために自動で用意されたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)で大きく分けて考えることができる。
賢者マキシミリアンや細工師ロエルは、ゲームのシステムを理解することができる人たちだった。細工師ロエルの弟子の青年セストは、エリザの話す「この世界はプログラムされたもの」という考え方を、すぐには受け入れにくかった。
賢者マキシミリアンは、自分が暮らしているダンジョン内で、古代エルフ族の聖遺物にあたるアイテムを、モンスター娘たちに生成変化させている。
細工師ロエルも、鉱石から金属だけを、意識を集中して、手で取り出して分けることができる。
世界がプログラムという同じもので作られていて、その一部を変更することでまったくちがうものに変えることができることを、体感的な部分では、言葉にして説明しずらいが理解している。
プレイヤー登録されたキャラクターとNPCには、ゲーム内で使われる情報量に大きな差がある。
エリザが、もともとNPCのキャラクターにも関わらず、プレイヤーとしての記憶があることで、プレイヤーキャラクターになってしまったのではないか。
そのために
つまりNPCをプレイヤーキャラクターにしてしまえばいい。
世界の情報量はかなり増大してしまうけれど【所持金】というステータスを全員に加えることができれば、その数値に毎月、自動で給付分を加算されることで、わざわざ手渡しで配布しなくても使えるようになるのではないかと考えられる。
何か思いついたらしく賢者マキシミリアン、細工師ロエル、そして、宰相エリザの三人は、青年セストの顔を見つめて、微笑している。
青年セストは、三人の笑顔を見つめてちょっと嫌な予感がした、
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