第12話 

 エリザは配布する財源を、銅貨を金貨に錬金術で変えるつもりでいた。

 けれど、賢者マキシミリアンと話してみて、流通されていない金貨が、この世界には眠っていたことに気づくことができた。


 20万人に毎月金貨30枚

 1ヶ月で金貨6000000枚

 1年で金貨72000000枚


 金貨7千万枚なら、エリザが転生前のプレイヤーだった時すでに1億2千マーグを貯めていた。

 それだけでも20万人に、1年間は給付できることになる。


 エルフェン帝国の人口は、約20万人。そのうちの5%の1万人は、貴族階級である。


 1年間で貴族階級1万人に、一人あたり年間700万マーグの負担させれば、配布の財源は錬金術や隠された資金に頼ることなく確保できる。

 ただし貴族の15歳以下の子供もふくめて1万人なので、両親と子供2人の家庭なら、年間2800万マーグの負担になる。

 これは貴族でも大金で、破産はしないにせよ、苦情は上がる。

 

 もしも大量の金貨がダンジョンに出現したとして、どうやって運搬や配布すればいいのか?


「あの、みんなに急にたくさん金貨を配ったらきっと買い物したりしますよね。お店の商品が品切れになったりしないか心配です」


 仕立て屋で、錬金術師の青年セストは、ルヒャンの街で師匠ロエルの店で注文を受けて品物を作り商売をしている。

 セストの意見は市場で食糧品や雑貨の商品が、初めのうちは品切れになるので、お金があっても買えない人が出てくる可能性があるではないか、というものだった。


 買いに来るお客さんの人数が急激に増えたら、どれだけの品物の量を店に用意すればいいのか商人たちは、初めのうちは困ってしまうと予想した。おそらく品薄になれば、値上げをする商人もいるかもしれない。


「たしかに、金貨をいくら配っても、金貨は食べられるわけではないからな」


 賢者マキシミリアンはそう言って腕組みをして考えをめぐらせていた。


 セストの意見を聞いて、エリザは商工ギルドにも、金貨を配布すると客が増えることを、連絡しておく必要があるとわかった。


 世界の人口が70憶人の世界があるとエリザから聞いて、三人は顔を見合せて驚いていた。


「エリザ、そんなに人がいたら食糧不足にならないのか?」


 賢者マキシミリアンはそんなことをエリザに聞いていた。


 帝国で暮らしている人が20万人程度しかいない。帝都は東西南北に大通りがある。南の地区には市場、北の地区は酒場や宿屋、あとカジノなどの歓楽街、西の地区には王宮、東の地区に貴族や商人たちの邸宅が集まっている。

 周囲の村に比べれば帝都にはかなり人が暮らしているが、エリザからすれば、そんなに人が多いとは感じない。


 帝都から北へ5日ほどゴーレム馬の馬車で向かえば、雑木林に囲まれてダンジョンがある。


 帝都よりもバラバラに点在している村で暮らしている人の方が多い。帝都には貴族や商人が邸宅で暮らしている印象が強い。

 

 エリザは半年おきにまとまった金額を配布するつもりでいたが、セストの意見から、毎月金貨30枚が良いと考えた。


「一人で、何回も金貨をもらいに来る人はいると思う」


 細工師ロエルはそう言った。金貨で配布すると、枚数はもっと必要になると。


「ロエル、金貨を直接、手渡しする以外に何か方法があるのか?」

「ある。でも、マキシミリアンに協力してもらって、ダンジョンを使う必要がある」


 ロエルは小顔で少し吊り目だが大きな目をしている。これはドワーフ族の女性の特徴で、年齢よりもかなり幼く見える。彼女は身長も小柄な体格で、エリザよりも若く見える。

 瞳の色は、くすんだ赤みと黄色みがある薄茶色である。

 マキシミリアンがいかにも紳士といった感じの男性なので、余計にロエルは見た目が若く見えるのだが、とても口数は少なく、大人の落ち着いた雰囲気がある。


 細工師ロエルは、小袋に硬貨を持ち歩かないでも済む方法を、エリザに転生前の世界の話を聞いて思いついていた。


 


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