第11話 

 賢者マキシミリアンは、転生者エリザの話に興味を持った。


「愛と豊穣の女神ラーナ、蛇神ナーガ、夜の女王ノクティス。エリザの言う通り、さらに世界を創造した神がいると言われても、ありえない話ではない気がする」


 マキシミリアンが賢者と呼ばれるのは、自分の常識だけで物事を決めつけないで、損得や価値は無視して、とにかく夢中になれる人物だからかもしれない。


「こうして私たちが、宮廷で話している状況は、それ以外の行動が選ばれなかったからということ。それ以外の行動を選んでいたら実現していない。もしも、すべての結果が、自分で選択している結果ではないと思えたら、少しだけ気が楽になるかもしれない」

「自分の思い通りに生きられないと考えたりはしないのですか?」


 すると賢者マキシミリアンは、宰相エリザにニヤリと笑うと、それはちがうと答えた。


「考え方が逆だな。そのゲームで遊んでいるのは、一人というわけじゃない。こちらが勝手に生きて行動している行動と同じことを選んだ人だけが、この世界の状況を遅れて知ることができていると考えられる。残念ながら、行動の選択の権利と責任は、この世界に生きている私たちにある」


 エリザは賢者マキシミリアンに別の世界があって、自分たちはゲームの登場人物だと話した。


「ダンジョンを探索して、蛇神ナーガの眷属けんぞくを見つけ出して討伐すると、ダンジョンに蓄積された魔力の結晶の魔石がたまに現れる。それを繰り返して鍛え上げるだけでなく、魔石をギルドに買い取ってもらい金貨マーグを貯める。それで冒険者たちは順位を競いあっていると」

「ええ、そんな感じです。討伐するモンスターやダンジョンが、イベントおきに変わりますけど」

「その遊びに飽きてしまった参加者が貯めて放置されて眠っている金貨マーグは、どうなっているんだろう?」


 たしかにストーリーモードの難易度が高いオンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】についていけないプレイヤーもいた。

 ゲームのアカウントを残したまま、他のゲームに移ってしまったプレイヤーがいる。そのプレイヤーが貯めていたゲーム内通貨はどうなっているのかなんて考えたことが、エリザにはなかった。


 神聖教団の調査団からはモンスターがダンジョンから消滅したと報告を受けていた。

 賢者マキシミリアンが、ダンジョンのモンスターの出現率を調整したことを直接、マキシミリアン本人からエリザは聞くことができた。まるで、ゲームの制作側のエディター機能みたいだと思った。


 ゲーム開始直後は、プレイヤー間で、キャラクターカードやアイテムカードなどをトレードする機能が【聖戦シャングリ・ラ】にはあった。またゲーム内通貨も機能でトレード可能だった。


 ところが他のオンラインゲームで、画像だけを交換して中身のデータは別のキャラクターというプログラムに改竄かいざんされるトレード詐欺が発生した。


 たとえば、トレードしたゲームアイテムで、英雄の剣という画像やデータが表示されているのに、プレイ中に装備して使うと威力が弱く、一定回数で劣化して壊れてしまう。中身は棍棒こんぼうのデータだった事例があったらしい。

 

 また、既存のオンラインゲームでゲームのデータがオークションサイトや通販サイトで現金とトレード取引されていて、ガチャに課金しないで、データを購入しているプレイヤーもいた。


 そのためトレード詐欺対策として、運営側はプレイヤーのトレード機能がないゲームが作られた。

 ガチャでしかキャラクターやアイテムが手に入らなくなって、トレードやオークションを勝手に楽しんでゲーム内通貨を貯める遊び方をしていたプレイヤーたちは、ゲームではなく、実際の投資をしたり、流行の品物を高額で転売したりするようになり、ゲームから離れていった。


 ハッカーによるトレード詐欺のようにゲームのプログラムに介入するプレイヤーもいた。ゲームの自動コマンド入力するプログラムなども使われた。

 逆にそこからプレイヤーがアクセスしていない間に、キャラクターが経験値を戦闘だけして増やしているゲームも作られるようになった。


 過去のトレード詐欺で使われなくなったプレイヤー間のトレード機能は、この世界の人々は市場で果物と硬貨が交換しているので、もしかすると、使えるのかもしれないと、エリザも思いついた。


 また、オンラインゲームで他のプレイヤーと露骨に援助交際の交渉をして、ゲームのアカウントの凍結になったプレイヤーのゲーム内通貨などのデータなど、この世界には過去に流通していたが使われていないゲーム内通貨のデータ分が隠れている。


「これはダンジョンに戻って調べてみたくなってきた。もし、それで金貨マーグが現れたら、それを配布すればいい」


 もしも、賢者マキシミリアンでなければ隠れた金貨マーグを独り占めにしようと考えていたかもしれない。


 細工師ロエルと弟子のセストは同席していて、マキシミリアンとエリザの話す内容を黙って考えながら聞いていた。


「……硬貨がいっぱい」

「ダンジョンに出てきたら、運び出すの大変ですよね」


 小声で細工師ロエルと弟子のセストはそんなことを話していた。


 


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