第10話 

 宰相エリザが、帝都の宮廷に有識者として賢者マキシミリアンを招致して諮問しもんすることを、エルネスティーヌ女王陛下に願い入れて承認が下りた。


 賢者マキシミリアンに連絡をつけるには、神聖教団を通す必要があるかとエリザは思っていた。

 しかし、翌日にはエルネスティーヌ女王陛下から謁見の間へエリザは呼ばれ、3日後に賢者マキシミリアン、同行者としてドワーフ族の細工師ロエルとその弟子のセストが宮廷へ訪れることが告げられた。


 賢者マキシミリアンだけでも緊張するのに【賢者の石】を錬成した細工師ロエルとその弟子で錬金術師セストも一緒についてくると聞いて、エリザは驚いていた。


「Sorcery doll / 風の精霊族の巫女と蛇神封印」のイベントに、この三人は登場するキャラクターである。

 旅人のセストは、うっかりすると地味な雰囲気で、見た目から華やかな聖騎士ミレイユや女騎士たちのような女性キャラクターばかりを集めていたプレイヤーたちからは、地味すぎて、イベントクリア条件になっているノーマルキャラクターなんて気づかなかったと噂になっていた。


 仕立て屋の家の子供は両親が使う切れ味抜群の錆びないハサミを見た少年セストは感動して、青年になってそのハサミを作った職人に弟子入りしようと獣人族と職人の街を目指して旅に出た。


 セストを細工師ロエルと一緒にキャラクターデッキに加えると、細工師ロエルがセストお手製のオーバーオールの作業着姿になってかなり照れている顔のSSRキャラクターカードを入手できる。


 【聖戦シャングリ・ラ】の登場キャラクターは、成長するレベル上限ごとに区分されている。


 N(ノーマル)

 R(レア)

 SR(スーパーレア)

 SSR(スペシャルスーパーレア)

 LR(レジェンドレア)

 の5段階のカードがある。

 Nカードはいわゆる雑魚モンスターやモブキャラクターがほとんどで、レベル上げの素材として融合して、キャラクターに経験値を貯めるために使われる。


 プレイヤーは24枚のカードでメインデッキを作り、ストーリーモードを進めたり、他のプレイヤーとオンラインカードゲームとして対戦をすることができる。


 ゲームのルールや内容、オンライン対戦した時にキャラクターカードの枚数をデッキに入れすぎたり、逆に少なすぎたりしてバランスが慣れるまで難しかったのを、エリザが昼間、宰相としての政務中に書類から目を離してぼーっとしているのを、彼女に仕える貴族たちは、手を止めてさぼっているとは気づかずに、またエリザ様は国家の安寧を憂いていらっしゃると思っている。


 ゲーム内通貨は金貨のみでマーグという単位だった。銀貨はキール、銅貨はマルという単位。プレイヤーの時にはわからなかったことがかなりある。


(転生するときには、女神が現れて、都合の良い便利なスキルをくれたりするものですよね)


 エリザは時代の流れの中で、恩恵を受けていることを自覚していない。

 大国の宰相という地位に、まだ19歳の乙女が就任しているのを許している時代の状況は、過去の時代ではありえないものである。


 魔石が魔法を発動させる魔力の結晶体だから高値で取引されているわけではなく、見た目がとても美しく希少価値があるからありがたられているのではないように、エリザが才色兼備で、女王陛下が幼少の頃からそばに置いて育て上げた人物ということが、彼女の評価にさらに上げている。

 見た目が美しく、特別感がある育ちをしているという本人が望んだり努力しても、そうならない条件で、宰相という女王陛下の次に権力かある地位をつかんでいる。


 血のにじむような努力や競争に勝ち抜いた実績が賞賛されたり、たとえば歴代の王族のように特別な血筋や受け継いでいる莫大な財産があるというわけでもない。

 ただ人づきあいが苦手で、余計なおしゃべりをせずに、見た目の顔立ちが美しく、また体つきは華奢で、周囲が勝手に上品だと思い込んで、周囲の人たちは彼女が何をしても、大抵のことは良いほうにとらえてくれている状況が続いているだけだと、エリザは思っている。


 本人はしっかりNキャラだと思っているのに、彼女はすでにSSRの待遇で受け入れられているのだった。


 同じ世界に生まれていても、農民の子として育っていたら、エリザは商人に惚れられていたかもしれない。

 商人の子に生まれていれば、学院で貴族に惚れられていたかもしれない。

 貴族の子なら、爵位の高い家柄の一族と関係を深めるために嫁がされていたかもしれない。

 同じ年代の乙女たちが羨ましいと思うような特別待遇である。


 エルフ族の女王陛下が帝国のトップに君臨し、他国では女性の王族の聖騎士や女騎士が活躍しているという女性が男性中心だったところに進出して認められるようになった流れのなかで、宰相という地位に就任して人気を得ているのがエリザだった。


 王族でありながら王の地位は弟に譲り、行動力で世界を渡り歩いて、エルフ族と人間族の友好関係を自ら実践して見せている賢者マキシミリアン。

 今では滅亡したと思われていたドワーフ族の女性で、ドワーフ族の錬金術を受け継いで活躍している細工師ロエルと、彼女の弟子としてサポートしている恋人の青年セストは、もともと仕立て屋の技術を持ち、さらに師匠の身の回りの世話をしているので家事までこなしながら、錬金術を使う細工師としての腕前を上げる毎日をすごしている。


 エリザは、すでに自分が世界から愛されているたった一人のかけがいのない存在だと気づかない。


――誰だって、みんな、世界から愛されている。


 有識者会議に招致した三人のすごい人たちと、自分の生活をちょっぴりくらべてしまい、はあ~とため息をつきながら、また机の上に運ばれてくる、まだ未処理の書類の束を見つめるのだった。

 

 


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