第7話

 神聖教団からダンジョン閉鎖について申請されて、翌日の午後、思ったまま意見を聞かせてほしいと王宮の庭園で同席してお茶をいだだきながら、クッキーをつまむエルネスティーヌ女王陛下にエリザは言われた。


 エリザはあれこれ話してはみたけれど、女王陛下は首をかしげてから、にっこりと笑うと「では、エリザに任せます」と言った。


(ああっ、これは、私の話した内容を100%理解していない感じがします!)


 エリザは、課金という話をエルフの女王陛下に聞かせた。


 【魔石】は1日に1回だけ、ゲームにアクセスすると運営から配布されるログインボーナスのアイテムで、同時に1個につき300円の課金アイテムでもある。


 エリザの覚えている情報は【聖戦シャングリ・ラ】のプレイヤーなら誰でもが知っている内容。このゲームには、プレイするだけなら、とりわけ難しいシステムなども存在しない。

 キャラクターやそのキャラクターに対応するクエストのつながりまですべて説明するのはかなり難しいが、基本の遊びかたを教えるだけなら、15分から30分もあれば足りるだろう。


 オンラインゲームそのものが存在しない世界で生きている人に、私たちはゲームに登場するキャラクターだと説明して理解してもらうこともかなり難しい。

 ログインボーナスの【魔石】が配布されたら、まずは貯めておきましょうと、ゲーム攻略wikiにも書いてある初心者向けの内容でも説明が難しい。


 課金アイテムの無料配布がなくなってしまうと、課金プレイヤーと無課金プレイヤーとの格差が広がってかなりイベント参加がつらい。

 自称は微課金プレイヤーで、お給料日あとの「運命の出会い召還ガチャ」に、わくわくしている課金プレイヤーだったエリザにとって、貯めておいたログインボーナスの魔石の放出で、どうか当たって下さいと、何回、祈りまくったことか。


 アイテム【魔石】は、ゲームに登場するキャラクターをガチャで集めるためにプレイヤーが使う。

 ガチャで登場キャラクターが増えるたびに、ゲームシナリオが解放されていく。

 そのシナリオをクリアすると、ガチャでは入手できない追加のキャラクターが増えていく。


「……ガチャ?」


 エルネスティーヌ女王陛下に、プレイヤーの知識を理解してもらうのは無理だとわかっていても、エリザは思わず話してみたい衝動にかられる瞬間がある。


 賢者マキシミリアンとエルフの姫君セレスティーヌというキャラクターと、戦士クリフトフという三人の登場キャラクターを入手すると解放されるシナリオで、エルフ族のセレスティーヌがクリア報酬で配布された。

 エルフ族の少女のエルネスティーヌが、奴隷商人から逃げてきた衰弱していた獣人族の女の子ポメラに果実をあげるシーンが、転生してきたエリザにはなつかしい。


 エルフ族は、人間族と獣人族に干渉しないという常識があるのを知っていた。

 だから、わざと奴隷商人が獣人族の少女をふくめた奴隷たちを逃がしておいて、エルフの王国にかくまっている奴隷は商品だから、渡さなければ攻め込むと言いがかりをつけられるシナリオをクリアしないと、エルフ族のエルネスティーヌ女王陛下がゲームに登場しない。

 エルネスティーヌが、友達のポメラをかばって奴隷商人の毒薬に射られてしまう。

 エルフ族の王国と人間族の奴隷商人の小国の戦いが起きれば、エルフ族を奴隷にする口実ができるという危機を、若きマキシミリアンが獣人族のポメラと解毒のポーションを作り、エルフ族の王族の少女エルネスティーヌを救った。

 妹を毒矢で射られて激怒したエルフ族の姫君セレスティーヌは、報復のために奴隷商人の野営地に向かうと、武装した兵士たちがエルフの王国へ攻め込むところだった。若きマキシミリアンとその親友の戦斧使いの戦士クリフトフのまだ冒険者の時代の物語。


「あのあと獣人ポメラちゃんはどうなったんでしょうか?」

「旅立っていきましたよ。北方の山のふもとには、獣人族の商人たちとドワーフ族の都ルヒャンがあるので、そこでエルフの国で習ったポーションの作り方の知識を広めるために」


 神聖教団の行ってきた奴隷解放運動の結果、エルフの国に攻め込もうとしていた部隊は、帝国の正規軍によって壊滅する。

 反乱者の烙印を押され、責任をかぶせられた部隊長は、毒矢の特殊な猛毒をどうやって入手したのか?

 エルフ族を人間族と敵対させようとしたのは奴隷商人だったが、その奴隷商人は、呪術師から毒薬を入手していた。

 神聖教団は、教祖ヴァルハザードの頃は蛇神信仰の呪術を用いた教団だった。魔族ヴァンパイアに成り果てた教祖ヴァルハザードの粛清後、少数ながら分裂した神聖教団の教祖派信者との敵対関係のシナリオでもある。


 宰相エリザは、今はそんなドジなテロリスト集団はいないと思っている。

 奴隷制度の廃止のあと、商人たちはダンジョンで発見される高額な資産価値がある魔石の取引に夢中になっていった。


 繁華街のカジノで負けた冒険者は、借金を返済するために、冒険者ギルドではなく裏取引で魔石を直接、商人に密売することで借金を完済する者もいた。

 商人も負債者の冒険者が無事に魔石を獲得して生還できるかはギャンブルだった。

 ただし、帝国には奴隷売買を禁じている法律があるので、負債者を表向きには奴隷として扱うことはできない。


(こいつ、冒険者Cランクか……まあ、パーティーメンバーで4人で行かせたらなんとかなるか?)


 商人たちは負債者4人をパーティーを組ませて、ダンジョン探索に行かせることがあった。

 魔石の密売には、同じ事情を抱えたパーティーメンバーだけのほうが冒険者ギルドに密告されたりする心配がないと負債者は商人から説得される。

 急に冒険者パーティーから抜けさせて、と言い出すメンバーがいたら、冒険者パーティーのリーダーは「ねぇ、まさか、あなた、もしかして借金でもあるの?」と心配して言うのだった。


 商人はゲームプレイヤーに近い感覚があったかもしれない。負債者の冒険者を、自分好みのパーティー編成で、ダンジョン探索に挑戦させていた。自分は安全なところで、結果を待っている。


 賢者マキシミリアンは、魔力を蓄積したダンジョンは緊急時には必要だと主張して、魔石がドロップしてしまうことによるダンジョンの質の低下を止めようとしているらしい。


 投資には攻めはなく守りしかない。資産を増やそうと考えない。今ある資産をどれだけ減るのを抑えるか。そのために価値があるものに交換して持ち続ける。高く売って資産を増やすにはと考えるのは投資の考えとは真逆になる。

 賢者マキシミリアンには、ダンジョンの魔力をさらに増やそうという考えではないことがわかる。

 

 


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