第5話

 ダンジョンが閉鎖されている理由について、帝都の冒険者ギルドの受付嬢アーヤは、冒険者たちから質問されても「申し訳ありません。その件に関しましては、私も詳細はわかりかねますので、説明できません」と返答している。


 冒険者ギルド受付嬢のアーヤ。オンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】のチュートリアルの案内役で、ゲームのルール説明や操作についてプレイヤーに解説するキャラクター。

 ショートカットで、すっきりとした小顔の受付嬢。彼女は情報屋リーサの歳下の妹のような親友である。

 ギルドの受付嬢は、昼間はギルドで働いている。決まった日付の夜8時に酒場に来店すると、ウエイトレス姿のコスチュームで働いている。

 プレイヤーは、たとえば7日、17日、27日に酒場に来店を続けていると、受付嬢アーヤがバテたので、店主のリーサからのお見舞いの品であるポーションを、アーヤの一人暮らしの部屋に持って行く隠しイベントが発生する。

 受付嬢アーヤの副業の日付は、ランダムで決定される。

 ポーションを飲んだ後で、酔ったアーヤに甘えられて……というイベントを発生させると、その土地をあとで、情報屋リーサの宰相エリザ救出イベントが発生する。


〈パーティーメンバーとして、この人を仲間に登録しますか?〉


 最初の仲間キャラクターガチャ後に、案内役のアーヤからこんなメッセージが表示されると、強キャラが出現しなかった場合は、そこでリセットして、最初のチュートリアルからやり直すリセマラ(リセットマラソンの略)をするプレイヤーは多い。


 パーティーメンバーとハーレム展開と思い込んでいると、受付嬢アーヤとの恋愛イベントに気づかないこともある。

 パーティーメンバーにアーヤと相性の悪いキャラクターを連れて酒場に来店すると、通常のウエイトレスのキャラクターしか表示されず、副業アルバイトしているアーヤが注文を聞きにやって来ないという展開もある。


 情報屋のリーサやギルドの受付嬢のアーヤのように、かけもちで働いている人が、この世界にもたくさんいる。


 ダンジョン閉鎖で、受付時間の短縮という本業の収入が目減りしたアーヤは、酒場でリーサが留守をしているあいだ、従業員たちのチーフとして店番をしている。


 男装の麗人のリーサは王宮へ行き、宰相エリザとの今後の対策を相談する密会と、恋人の貴族令嬢カレンとの密会に忙しい。


 冒険者たちはギルドのダンジョンの閉鎖は一時的なものと考え、パーティーメンバーの訓練や装備品の交換だけでなく、帝都と近隣の村を行き来して手紙を配達したり、ダンジョン周辺の森でポーションの材料や料理の食材などの採取などのアルバイトをして過ごしていた。


 訓練施設はいろいろあって、帝都の図書館で知識を学びに行く人や、衛兵などの訓練所でさらに体を鍛えに行く人など、それまでにダンジョン探索でそれなりに稼いでいたパーティーは、帝都の施設を利用していた。


 冒険者のパーティーメンバーを一時的に解散して、それぞれ個人で行動している冒険者たちは、副業のアルバイトや訓練をしている人と、たとえば繁華街の地区で分け前で分配された金を散財している人もいた。


 またダンジョンが解放されて探索が開始されたら、まとまった収入があると疑っていない。


 本来のゲームでは、ギルドに借金をして冒険者たちが資金繰りをしていることはなかった。

 だが、宰相エリザが転生した時にはすでに、ギルドに冒険者のパーティーが現金や魔石を預けていたり、無利息で資金の貸付を受けていたりする運営がされていた。

 商人や貴族たちは、神聖教団の教会や冒険者ギルドから、まとまった融資を受けていた。

 貴族でも侯爵、辺境伯、伯爵などは住人の平民たちに自分の領地を、平民たちに有料で貸出しをして、働かずに収益を得ている。

 子爵家は肉親や親類が侯爵や伯爵の家系、男爵家の家系は侯爵や伯爵に仕えていて、毎月給料をもらう貴族である。

 子爵家や男爵家の人が借金をしていて、侯爵家や伯爵家がまとめて返済している。

 貴族は冒険者のように無金利で貸付を受けているわけではなく、担保はそれぞれの領地だった。


 公爵の爵位を持つ人は、王族だけれど王位を他の身内に譲っている人である。帝国宰相はこの公爵の爵位と同じ地位とされている。

 侯爵や伯爵、辺境伯は帝国から領地を受領して運営管理している身分である。

 

 貴族は地主として、平民から賃貸の土地使用料を回収している。その土地はエルフの女王から受領しているだけで、没取されて他の一族に与えられないように、国に領地の賃貸料を払う感じで、国庫へ納税のように寄付している。


 貴族たちは、神聖教団と帝国が運営する冒険者ギルドの貯蓄や、女王陛下の代理である宰相エリザの管理する国庫から、必要に応じて融資を受けている状況である。


 貴族たちが裕福な暮らしや華やかな舞踏会で一夜の恋に夢中になっている裏側では、こうした経済の流れがある。


 繁華街は商人たちが国に許可をもらって、カジノや宿泊施設を運営している。

 リーサの酒場は市場と同じ扱いで、繁華街とは別の許可で経営許可を受けている。

 店の片隅でちょっとした遊びの賭博、たとえば、どちらがおごるか、おごってもらえるかを決めるために、客が賭け事をしているのは、本当は違法なのだが、見逃してもらっている。


 繁華街のカジノでは大金が動いていて、負けると商人たちに借金をすることになる。期限つきで返済を猶予される。債務者には魔法の見えない刻印が体に刻まれていて、返済せずに逃げ切ることは難しい。


 冒険者たちは、ダンジョン探索で財力を手に入れて貴族階級の仲間入りを目指す人から、引退して商人となるのを目指す人まで、目的はそれぞれちがう。


 賭け事で負けて生活費をすってしまっても、仲間がお金貸してくれたり、ギルドから貸付を受けてやりくりすれば大丈夫と賭け事に夢中になっている冒険者もいた。


 


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