第3話

 冒険者ギルドからS級ランクの冒険者と認定されると、神聖教団に所属する騎士として叙任され、貴族として毎月決まった金額の給与が与えられる。

 S級ランク以上の冒険者がいいのは、騎士からさらに上位の称号を与えられることになるからである。

 ただし、神聖教団の聖騎士の試練をクリアして魔剣ノクティスと契約した聖騎士の称号を持つミレイユや、賢者の称号を持つマキシミリアンなどの人物がいる。

 マキシミリアンは平原から遠く離れた大陸西方のゼルキス王国の公爵でもある。

 この二人の情報を、平民階級の人々は知らないが、ゼルキス王国には、戦乙女と民衆から呼ばれる聖騎士ミレイユの直属の配下である神聖騎士団の9人の美しい女騎士たちがいて、大陸各地でモンスター討伐を行っていることは、吟遊詩人によって物語にされ、帝都の子供たちにさえ伝説のように伝えられている。


 モンスター討伐はすごくカッコいいと思い、冒険者ごっこをする平民の子供たちもいる。その子供の頃の憧れから、大人になって、冒険者ギルドにやって来る人もいる。


 冒険者ギルドのトップの人物は帝国の貴族ではない。ギルド長クリフトフは、ゼルキス王国の騎士でもある。

 冒険者たちの手に余るモンスターが出現して、各地の執政者から認定される。認定されると、神聖教団へ討伐依頼を申請する。大陸北方の山脈の僻地にある古都ハユウから、調査員の僧侶や諜報員のハンター、そして聖騎士見習いである神聖騎士団の戦乙女たちが神聖教団から派遣されて、現地でトラブルの原因のモンスターを討伐する。

 モンスターのトラブル発生を、冒険者ギルドは、各地の執政者に報告する役割がある。

 冒険者ギルドに登録した冒険者は、同時に神聖教団の騎士見習いとなっている。

 冒険者という職業は、血統で貴族か平民かを問わず、神聖教団に所属する騎士見習いという教会の僧侶と同じような地位の職業となっている。

 そして、各地のダンジョンは神聖教団の管轄であり、冒険者ギルドはその土地の執政者から運営資金を提供され、冒険者たちは神聖教団の一員としてダンジョンの探索を見廻りのように行っている。

 

 少しややこしいので、冒険者たちの大半は、こうした事情を理解していない。

 冒険者ギルドという国営の依頼の斡旋所に会員登録すると、会員は冒険者向けの依頼であるクエストを受注できる。

 クエストを個人か、二人以上のパーティーや大人数のチームなどを編成して、モンスター討伐やモンスター災害時の救助活動など、神聖教団から派遣されてきた専門家の指示に従い協力して達成すると、国からの報酬が冒険者ギルドからもらえると考えている。


 宰相エリザは、自分の本名は忘れても、転生前に【聖戦シャングリ・ラ】をプレイしていた記憶は忘れていない。

 ゲームの世界設定や、この世界の一般人にはあまり知られていない裏事情を把握している。


(情報屋のリーサ。たしか、蛇神信仰の呪術書の知識を研究していた学者が呪術師のように僧侶や貴族令嬢をダンジョンへ拉致して生贄にするひどい儀式を行っている殺人事件と、モンスター召喚に関係するシナリオで、プレイヤーに情報を売ってくれる女探偵みたいなキャラクターだったはず。かなり大人っぽい美人なキャラクターイラストだったはずです。ああ、情報屋のリーサに会って見てみたいです!)


 ゲームに登場したNPC(ノンプレイヤーキャラクター)からの手紙に、宰相エリザはゲームファンとして、思わず胸が高鳴ってしまうのだった。


(隠しシナリオ【戦乙女の伝説】のシナリオで帝都の大酒場「三日月と黄金の薔薇」に行くと、イベント発生フラグ成立後にタイミングが合わないと登場しない隠れキャラ。大酒場は、ゲームだとダンジョン探索の冒険者たちのたまり場。今は、ダンジョンは冒険者ギルドが封鎖しているから、大酒場が閑古鳥なのでしょうか?)


 宰相エリザは、どうやって大酒場に行こうか考えていた。

 王宮から馬車で、大酒場の前に運んでもらったら、市街エリアは宰相エリザが来たと大騒ぎになってしまう。「宰相エリザは毎晩、貴族の夜会では物足りずに、平民と乱痴騒ぎに夢中か?」なんて記事の新聞が刷られてばらまかれかねない。

 貴族たちは身分の高い人物の醜聞の噂話が大好きで、気をつけておかないと、たとえ今は帝国宰相の地位でも、人気と権威失墜で失脚して、最悪の展開として、民衆の前で公開処刑なんてことにもなりかねない。


(ここは、王宮務めの侍女にコスプレして、お忍びで市街エリアに行ってみたいです。他の隠れキャラクターにも会えるかもしれませんから)


 学院では同級生だった子爵家の女の子、名前は忘れたけれど、学院の学者にダンジョンに拉致されたモブキャラクターの子がやってきて、隠れキャラからの大酒場へ招待する手紙を持ってくる展開に胸がときめく。

 あのモブキャラの同級生が生きているということは、帝都にモンスターが召喚されてしまうシナリオは起こらなかったということだからだ。

 帝都の王宮にモンスターが襲撃する分岐シナリオも【聖戦シャングリ・ラ】にはあった。


 襲撃してきたモンスターによる王宮の混乱の中で、学院の教師である鑑定士の学者に宰相エリザが拉致されるシナリオは回避されていると実感できた。

 自分が実際に、宰相エリザとして、キャラクターのHシーンを体験するのは遠慮したい。


 学院の教師である鑑定士の学者デュランは不細工な目がぎょろっとした蛙顔のキャラクターで、異形となって長い舌で肌を舐めまわすシーンは、ゲームプレイヤーとしては、襲われる宰相エリザの担当声優さん、元グラビアアイドルだけれど実力派の小野田美樹さんによる息づかいや声の熱演に、そのシーンはかなりぞくぞくした。

 けれど、自分が同じ目に合わされたら、たまったものではない。


(大酒場「三日月と薔薇」への女主人で情報屋のリーサからの招待状なんて、ゲームっぽいです。しかし、せっかく今は宰相エリザなのですから、お忍びで王宮を抜け出すよりも、宰相エリザがやりそうなことをしてみましょう)


 宰相エリザは、情報屋のリーサの手紙への返事として、招待状を出してみた。王宮の舞踏会に、情報屋のリーサを招待する。


 執事のトービスに招待状を大酒場へ持って行かせる。舞踏会の当日のドレスや馬車の手配なども、執事と侍女たちに任せればどうなるか?


 ゲームでは、基本的に大酒場にいるキャラクター。しかし、ゲームのイベントでは、宰相エリザが拉致されると、情報屋のリーサはダンジョンへ冒険者たちを連れて宰相エリザを救出するためにやって来てくれる。

 そんな彼女が舞踏会にどんな顔をして来てくれるのか、試してみたくなった。


 この世界は、どこまでゲームの制約がかかっているのかを、この機会に宰相エリザは確認してみたいと思った。

 



 

 

 


 

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