終わってないだろ

 朝の一件からもクラスメイトにはなにかずっと言われていたけど、それらは全て無視して、気づけば放課後を迎えていた。


「そういえばさ、最近よく聞くんだけど」


 帰り道、隣を歩く奏は何かを思い出したようにそう切り出した。


「月輝との噂?」


 俺が奏に目を向けず、さらっとなんてことないように言うと、奏は少し歩くスピードを遅くする。


「……下の名前で呼ぶってことは、そうなんだな」


 なにか腑に落ちたように彼はつぶやいた。別に彼女と俺は恋人ではないので、そこは弁明しておこうと思い口を開く。


「いや、下の名前で呼ぶのは月輝に合わせてるだけかな。それに、付き合ってるわけでもないし」


「お、そうなのか? てっきりそういう関係なんだと思ってたわ」


「狙ってたのか?」


 俺が問うと、奏は一瞬の間をおいてから失笑した。


「俺が? まさか。俺はあいつ一筋だから」


「ああ……。知ってたよ」


 奏の言葉にシニカルな笑みをこぼした時、気づけば俺たちは目的地に着いていた。


「なんか、久しぶりだな。二週間ぶり、だっけ」


 奏は俺たちの家を見てそんなことを言う。


「そうだね。先週は休んでたから」


 言いながらドアを開け、ただいまとお邪魔しますが同時に放たれてから遅れて数秒後に、先生は顔を出した。


「おかえり。奏も」


「お久しぶりです」


 奏が玄関先でぺこりとお辞儀をすると、先生はにこりと笑った。普段はあまり見ない種類の笑顔だと思った。


「上がって。学校疲れただろ」


「もう慣れたよ。五月半ばだよ?」


 俺が言うと、先生は「お前に言ったんじゃない」と俺を軽く睨んでくる。


「いえ、海都の言う通りですよ。一ヶ月以上経ったので、やっと慣れてきました」


 奏は靴を脱ぎながら笑って言う。


「そうなんだ。あ、高校ではもうすぐ定期試験とか始まる頃なんじゃない?」


 先生の言葉に、俺と奏はぎくりと肩を震わせた。全く、余計なことを言う人だ。


「もう試験まで二週間きった……」


 奏は顔を白くしてボソリとつぶやき、俺も悲嘆して天を仰ぐ。


「終わった……」


「終わってないだろさっさと勉強しろ、海都」


「何で先生俺にだけ当たり強いんだよ!」


 適当に突っ込んだところで、先生は急に表情を切り替える。


「さて。それじゃあ、お茶を飲んだら始めるか」


 これがいつもの俺たちだ。こうして三人で軽口の応酬をして、程よく近況なんかを話してから本来やることを始める姿勢に入る。


 二人で荷物を置いて、先生がテーブルの上に用意してくれていた麦茶を飲み干す。先生はその様子を眺めながら、「君たち二人は仲がいいな」などとボソボソつぶやいている。


 俺たちもいつまでもふざけているわけにはいかないので、麦茶を飲み終えて、二人で声をそろえて先生に言った。


「それじゃ、お願いします」

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