第13話 キャシーの病気

ゼルベルトが陣へとお金が必要な真意を語る。


「・・・私には8歳になる孫がいるんです・・・名前はキャシー・ランドーラ・・・すごくかわいく元気な良い子なんです・・・」


そこまでは笑顔なゼルベルト。しかしその後からは笑顔が消える。


「・・・ですがある時にキャシーの両親が病により亡くなるという事態が起きました・・・泣きじゃくり私に抱き着くあの表情を私は今も忘れません・・・それ以降は私が息子たちの代わりとなってキャシーを育ててきました・・・しかしことはそんな時に起きました・・・キャシーが息子たちとかかってしまったんです・・・」


そういうゼルベルトの表情は最初の笑顔の表情からは一転して再び家族を失う絶望の表情へと変わっていた。


「キャシーや息子たちの病はいつ命にかかわるほどに重症化するか分からない病です。幸いキャシーは息子たちとは違ってかかってすぐに重症となるという事にはならなかったのですが、いつ息子たちと同じようにキャシーが死んでしまうかもわかりません・・・そしてこの病を治すには薬が必要なんです・・・しかしその薬は希少な材料が使われていてとても大金で到底私では払う事が出来ないんです・・・」

「・・・だからお金が必要だったってことですか?・・・」

「・・・ええ・・・その通りです・・・」


ゼルベルトのお金が必要な理由は理解できた陣。だが、同時に疑問も浮かんできた。


「でも、希少な材料って言ってもゼルベルトさんなら探せたりしないんですか?」

「もちろん探そうともしました。私には闇の道ダークロードというこの世界と対となる時が止まる世界に行くことができます。その力を使えば私は無限に探し出すことが出来る」

「・・・ならなんで暗殺者なんか?」

「・・・問題となるのはその材料なのです・・・いくつかの材料が生息地不明で出現しやすい条件なども分かっていない物もあります・・・中には100年以上もの間発見されていない材料も・・・」

「・・・100年・・・」


100年という年数に驚きを隠せない陣。


「・・・それに引退したとはいえ元々は伝説と言われた暗殺者ですから・・・私ならば何回か仕事をすれば買えない額ではなかった・・・ですので私は暗殺者に復帰したのです・・・これが私のすべてです・・・」


ゼルベルトから真実を聞いた陣。最後の疑問を聞いた。


「・・・キャシーちゃんの病気に効く薬が目の前にあるんですよね?・・・ゼルベルトさんにはそれを盗める技術もバレない自信もあったはずです・・・なぜ?」

「・・・もちろんそれは考えました・・・確かに私ならバレずに盗み出すことは簡単です・・・ですがそれはにしたかった・・・暗殺者として人を殺している私が何を言ってるんだとお思いでしょうが・・・もちろん暗殺は許されざる行いです・・・暗殺を肯定する気はありません・・・しかし世の中にはその者が死ねば救われるという悪人も存在します・・・禁止されている人身売買を行っている者、人を狂わせる超危険薬物を生成している者、自身の研究のために人体実験を繰り返す者・・・その者らを殺すことでお金が入る方が薬を盗むよりも世界に有益だと考えたんです。それにはもちろんキャシーが思いのほか症状が軽いという理由といつでも盗みを実行可能というの理由がありますが」


陣の質問に自身の考えを述べたゼルベルト。地球の日本で生まれ殺しなどの殺伐とした世界とは無縁で生きてきた陣ではあるが、今ゼルベルトが上げた例だけ聞いても殺しても問題ない悪人だと認識は出来た。


そしてこの世界の死が思っているよりも身近なモノだというのも理解できた。


「・・・リンって怪我は治せたけど病気も治せたりする?」

『是。どのような怪我でも病気でも治療可能です』

「という事らしいのでぜひキャシーちゃんをこの家に連れてきてあげてください。もちろんお金はいりません」


その言葉に驚きとなるゼルベルト。


「・・・疑わないのですか?私は嘘をついているかもしれない・・・ただ逃げる口実の作っているだけかもしれませんよ?」

「俺にはゼルベルトさんが嘘をついてるとは思えなかったし、なにより俺に損は無いじゃないですか?」


そう暗にと言ってのけた陣。もちろん陣にそのつもりはないしゼルベルトもそういう意味の言葉ではないと分かっているものの苦笑した。


それは孫が本当に助かるかもしれないという希望から来る少しの余裕だったのかもしれない。

*****

その後ゼルベルトを完全に治療しゼルベルトは早速闇の道ダークロードを使って孫のキャシーを迎えに行き戻ってくる。


*ちなみにその時にはもう依頼人への報告などは露ほども考えていなかった。


陣からすれば行くと宣言したと思ったら次の瞬間には女の子を抱えているというイリュージョンを見たような印象だった。


「かわいい子ですね?」

「はい・・・寝顔もかわいいですがやはり子供は元気な姿の方がいい・・・お願いできますか?」

「もちろんです。と言っても俺がするわけじゃないんですけどね?リンお願い」

『是。かしこまりました』


そう言うとゼルベルトの時と同様に今度は女の子キャシーに光が集中する。そして少しして光が止んだ。


『治療は完了いたしました』


その文字を見て涙を流しキャシーを抱きしめるゼルベルト。


「キャシー・・・キャシー・・・よかった・・・本当によかった・・・」


こうして陣の活躍によりキャシーの命は救われた。


*ちなみに陣が狙われた理由は報奨金の大きさと最近キャシーの症状が段々重くなり後が無いと考えて焦ったため。

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