第8話 ギーレモ公爵の錯乱

「アハハハ!・・・ああ!面白かった!」


外で何が行われているかも一切知らない陣は軍隊が家に到着してから約2時間。現在夕方ごろ。お昼から見ていたバラエティ番組が終わった。


「そろそろ夜ご飯の準備をしようかな」


見ていた番組も終わったこともありリビングからキッチンへ向かおうとしたときにジーノたちの件もあり軽くリンに聞いてみた。


「そうだリン。ジーノさんたちみたいな騎士の人たちって見えたりする?」

『是。現状相当数が


ピタ


脚が止まる陣。陣としてはなにもないという言葉が返ってくる想定で軽く聞いただけ。それなのにリンから帰ってきた言葉は"相当数が少し先でほぼ全員眠っている"という言葉。


予想外の言葉と意味の分からない言葉で混乱する陣。


「・・・えっと・・・一から説明してほしい」

『是。了解いたしました』


そうして陣はリンから説明を受ける。10万規模の軍隊が攻め寄せてきていた事。魔術や魔導などの魔法でリンを攻撃したこと。陣の邪魔をさせないためにその10万規模の軍隊を外壁を伸ばすことで攻撃しほぼ全員を気絶させた事。


『・・・これらが外で起こっていたすべてとなっております』

「・・・え~と・・・ツッコミどころがあり過ぎてなにからツッコんでいいかが分からないんだけど・・・一番気になるのは・・・リン強すぎない?」

『是。至高ランクの家スキルより生まれた私リンは世界龍ボルディアよりも最強です』

「うん。その世界龍とかはよく分からないけど・・・どうするか・・・というかその軍隊ってやっぱりギーレモ領の軍隊なのか?」

『確認いたしますか?』

「確認って?どうやって?」

を1人逃げないように生かしております。なのでその者をここに連行することは可能です』

「・・・嫌な予感しかしないけど・・・玄関の外に連れてきて」

『是。了解いたしました』


その後陣は玄関の外に出る。何気にこの異世界に転生してから初めての外出だった。ちなみになぜ陣は家の中に入れなかったかと言うと単純にリンが言っていたことを確認したかったという意味もある。


そして外に出て陣はそれを見た。


「・・・・」


見渡すと先までに広がる死体のように倒れて動かない人間。この光景を見て陣は絶句した。事前に説明を受け想像していたものの実際に目の当たりにすればなにも言葉が出てこない。


すると、伸びている外壁の先から叫び声が近づいくる。


「ああああああ!?」


涙や鼻水などを流しながら恐怖の表情にて陣の目の前に外壁を手のようにして鷲掴みのようにして連行されてくる、戦闘をする騎士とは思えないような服装や指や首の宝石の数々。


その恰好を見て一瞬にして陣は悟った。


「(やっぱりギーレモ領のギーレモ公爵か)」


来る予想はしていた。さらに国を敵に回す可能性も考えてはいた。しかしそれが目の前に迫ってくるとさすがに国を敵に回すという高確率で起こりうる可能性に考えるものはある。


しかし起こってしまったものは仕方が無いと気持ちを切り替えてこれからどうするかを考える陣だった。


「ああああ!?」


バタン


ギーレモ公爵は相当な速さで連行されるとゴミを捨てるように放り投げられる。


「死にたくない!?死にたくない!?死にたくない!?死にたくない!?」


完全に錯乱しており陣の事にも気付いていない。


「あの~・・・もしも~し・・・大丈夫ですか~・・・」


陣が声を掛けるも死にたくないを連呼するのみで返事は帰ってこない。ちなみにリンは10万規模の騎士を気絶させただけで誰も殺してはいない。それはおそらく陣のスキル故に陣の影響を受けての事だろう。


「・・・だめだな・・・だれか話が出来る人はいない?」

『是。今起き上がったものが何人かいます。なのでここに連行いたします』


そう言ってリンはまた外壁を伸ばした。そして今度は伸びた外壁の先を枝のようにして起き上がったばかりの4人の人間を鷲掴みで連行。


「なっ!?」

「きゃっ!?」

「くそっ!?」

「・・・またか」


バタン


連れてこられた4人の中にはラハートとジーノの姿も。4人は同じくリンに放り出される。ちなみにまたかと言ったのはジーノ。これで3度目で他よりも耐性がある。


『連行いたしました』

「ありがとうリン」


放り出された4人はギーレモ公爵に気付きそして陣の存在に気が付く。


「ギーレモ公爵様!?」

「ご無事ですか公爵様!?」


だが2人のその言葉になにも反応はない。


「・・・錯乱されている・・・おそらく無駄だろう・・・話はこの少年に聞くしかない・・・」


そうして3人が陣を殺意を持った目で見る。しかしそこで遮るように手を出したのがジーノだった。


「久しぶりだね・・・たしか陣君って言ったかな?」

「お久しぶりです・・・まさかこうも速く再びジーノさんと会えるとは思えませんでした・・・」

「・・・出来れば会わないようにしたかったが・・・すまない・・・ギーレモ公爵様を止められなかった・・・」


そうして頭を下げて謝罪するジーノ。3人の騎士はジーノに任せたようで成り行きを見守っている。


「・・・また見逃してくれないか・・・」


そういうジーノだが内心では軍隊まで動かしての襲撃を見逃しはしないだろうと考えていた。その時は自分の命を交渉材料にしてでもジーノは自身の主人を守るつもりでいた。


「・・・ええ、いいですよ・・・」


しかし陣からの返事はジーノの予想外のものだった。


「なに?見逃してくれるのか?」

「ええ・・・俺はただここで暮らせればそれでいいので・・・なので二度と来ないでください・・・次はが出るかもしれませんので・・・」


そう言って家の中へと下がっていく陣。


その言葉に4人の騎士は戦慄した。自身たちが今も生きているのは完全に温情なのだと理解しているから。


もし約束を破り再び襲いかかる事があれば次は殺されるだろうと考え戦慄した。


だが実際は自棄になっているだけだった。リンの強さを見て国や世界が相手でも大丈夫じゃないかと楽観視となった陣はなにも考えずに引きこもることにした。

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