第29話 スズミ治療院は大盛況!
――次の日。
俺は部屋の中で白衣を着込むと、ポケットに手を入れ、中に入っていた伊達メガネを装備した。
俺の名前は【ドクター・ケイカ】。
クリムトゥシュ王国で1、2を争う外科医――という設定だ。
「先生、準備はよろしいでしょうか」
俺の隣、看護帽を被ったシェリラが言った。彼女の名前はシェリラ・ルゥ・アラハ。良きナースにして良き理解者だ。俺の診察には彼女の助力が必要不可欠である。
「行こうか、シェリラ。患者が待っている」
「はい、先生」
ロングの白衣、その裾をバサァッとはためかせた俺は、扉を両手で開く。
向かうは西棟、メイド食堂を急遽、改装して作られたスズミ治療院だ。
用意された回転椅子に座っていると、さっそく1人目のメイドさん……否、患者がやってきた。
栗毛の可愛らしい女の子である。つぶらな瞳も特徴のひとつと言えよう。
「先生、よろしくお願いします」
「うむ、始めようか」
「………………」
何をしたらいいんだろ。
すると僕の後ろに控えるシェリラさんが小声で耳打ちしてくれる。
「まずは患者さんの症状を訊いてあげてくださいね」
そうか、問診ってやつだね。さすがシェリラさんだ。
俺は一呼吸、眼鏡を押し上げる仕草で間を空け。
「今日はどうしたのかな」
訊ねると、栗毛のメイドさんは自分の胸に手を当てた。
「先生。私、恋の病なんです」
「こ、恋!?」
これはすごい患者が来た。だけど驚く間もなく、彼女は自分の椅子ごとグッと身体を近づけてきた。膝と膝がぴったりくっついてズボン越しに温もりが伝わってくる。
「私、胸が痛いです」
「ム、胸!?」
「はい先生。胸が張り裂けそうで、苦しいんです!」
「えええっ!!」
いきなり彼女は胸元のリボンタイを解き、パラッと上着を開いた。両の眼に彼女のぽよんと膨らんだ胸と、ふんわり包むブルーのブラジャーが映り。
――ブシュ!
僕の鼻奥で内出血を起こす音がした。
双房の谷間とブラジャーに僕の視線が定まらない。
「先生、イジワルしないで手術してください」
「しゅ、手術!?」
「先生、大好きです!」
すると栗毛のメイドさんは僕の顔を胸の谷間に挟むように抱きついてきた。
右を向いてもおっぱい、左を向いてもおっぱい。柔らかいオッパイと、ブラジャーの縁を彩るレースで頬をスリスリされ、
「はふ、はふ」
「ああん、せ、先生、ハフハフはだめです!」
ギュッギュッ胸で顔を絞めれらる僕は息ができない。女性の胸ってシリコンとかマシュマロとか揶揄されるけど、どっちも違った。熱っぽい温もりが半端ない。
「ダメですよ、先生」とシェリラさん。
「手術の前にちゃんと触診もしてあげてくださいね」
――――ブバ!
倒れた僕の鼻から血が噴いた!
「「せ、先生っ!!」」
……お、お医者さんごっこって、こういう遊びだっけ……。
鼻に薬草入りの小布を詰めてもらい、
「シェ、シェリラ君、さっきの患者さんはなかなか重症だったね……」
「そうですね。では次の患者さんを呼びますね」
「え、まだいるの?」
「はい、ドクターケイカに診て貰おうと朝から侍女達が行列を作っていますよ」
そして次に現れたメイドさんは一見して、大人しそうな緑色の髪をしたショートボブの女の子だった。
うん、確かお茶会の時に一番、場を盛り上げてくれた子で、大人しそうだけどノリが良くアドリブ上手な子だった記憶がある。ちょっぴりタレ目がちの可愛い子だ。
「今日はどうしたのかな」
「先生、今日はクッキーを焼いて持ってきました」
アドリブ上手というか、もはや外科の診察設定自体が無視される。
「う、うむ。せっかくだから頂こうか」
「嬉しい! ぜひ食べてください!」
メイドさんは中腰になって、手にした縞々模様の小さな包みを俺に差し出してくる。
と、その拍子に、
「きゃああああ!」
何に躓いたのか、何もない床でバランスを崩した彼女が、僕に向かって倒れ込んできた。慌てて支えるも、あう、彼女のうなじが頬に当たって、ほんのり甘いイチゴの香りが鼻先をくすぐってくる。
それだけじゃない。
僕の胸に、彼女の胸が当たる……当たってる。この子、すごい。大きい。巨乳だ。
クッションみたいにふかふかと僕と彼女の間で弾んでる。
「き、君、だ、だ、だ、大丈夫かい!?」
両腕でそーっと彼女の肩を押し上げようとすると「もうダメですぅ」と全身で僕を包み込むように抱きしめられた!
「先生、今ので足が折れました!」
「ええええっ!」
今ので折れたって! 折れる要素がどこにもない!
足が折れたって言ってるのに、僕の膝に跨るような格好で上着を脱いできた。
――タラリ。鼻が赤い汗を流す。
黒のブラジャーだった。黒いだけじゃなく、極薄生地の、ほとんどレース繊維だけで作られたようなセクシーランジェリー。面積が極小で、大きな胸を隠すどころか胸とブラの間から……先っぽがちらりと透けていた!
「先生、死ぬ前に一度でいいから、私の乳首をクッキーだと思っていっぱいオペオペして!」
「言ってることが支離滅裂です!」
と、そんな時、
「はい、エミリーナ。そこまでですよ」
生殺しの、もとい、絶妙のタイミングでシェリラさんが止めてくれた。
エミリーナと呼ばれたメイドさんは「はぁい」と残念そうな顔して、去り際に僕にウィンクまでして、食堂を出て行った。
「診察時間は1人あたり5分です、先生」
「あう、あう、まだいるんだよね」
「まだまだいます。頑張って慣れてくださいね」
これって慣れるものなのかな。だんだん目的がわからなくなってきた。話した悩みが正確に伝わってないのかもしれない。
僕は鼻の詰め物を変え、貰ったクッキーを机に置いて次の患者さんを迎えた。
「――――――ぶっ!」
現れたメイドさんに僕の詰め物が一瞬で吹っ飛ぶ。
長身で眼鏡をかけた、下着姿の女の子だった!
「先生! 私、露出癖が治らないんです!」
……あきらかに受診される科を間違えておられる……。
すらりと伸びた長い足にハイヒール、清純そうな黒髪のロングのメイドさんは純白のブラジャーとパンティだけの姿で、
「助けてください、先生っ!」
「あううううう!」
ほとんど前振り無しの問診も無しで抱きつかれてしまう。
「私、どうしたらいいの!? このままじゃ恥ずかしくてお嫁に行けません!」
「とりあえず服を着て下さい!」
「死んでも嫌です!」
あう、あう、死ぬ。
5分たっぷりと、ほっそり長い手足のスレンダーなスタイルと純白の下着姿を見せつけられ、解放された。いっぱい見ちゃった。ブラジャーの秘密、いっぱい見ちゃった。
死んじゃう、出血が致死量を超えちゃう……。
「では次の方、どうぞー」
シェリラさんに呼ばれ、次の患者さんが僕の目の前に座った。
(良かった。今度はちゃんと服も着てる)
いきなり抱きついてきたりもしないみたい。
他の子達に比べて小柄な女の子だ。よくわからないけど位が高いのか、メイドドレスに宝石が沢山ついていた。手にはどうしてだか杖を持っていた。
背丈よりも高い蛇頭様の杖には妙に見覚えもある。
「――――ッ!」
逆半月の瞳をしたショートボブの女の子に僕の心臓が止まりかけた。
「センセ、笑いすぎて腹が痛いんです。どうにかして」
「無理です! 他を当たってください!」
「コラ待て、ドクターケイカ。患者を見捨てるんじゃない」
脅かされた猫の如く逃げようとした僕だったが、床に垂れ下がる白衣の裾を彼女に踏まれて阻止された。足を滑らし、ビタンっと仰向けに転んでしまう。ついでに後頭部もゴンッと強打した!
「あう、痛いよ、痛いよ、クゥナ!」
「ケイカ、楽しんでるとこ邪魔してごめん」
「違う、違うんだよ。ごめんなさい見逃して! 僕が企画したことじゃないんだ!」
「いや、私が謝ってるのに何でケイカが謝る?」
あうう、なんでクゥナが第2王城へ来てるんだ!?
「昨日も来て今日も来るってひょっとして暇なんじゃないの? 監視塔は!?」
「それどころじゃない。エライことになった」
クゥナは白衣の裾を踏みつけていた足を放し、僕に言った。
「――――ケイカ、急いでパウレルに帰ろう」
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