第22話 蒼炎のユキナ姫①
「あうっ!」
悲鳴を挙げたのはクゥナだった。
空中、魔法の階段を跳び上がってシャオンBの貫手を躱したところに、シャオンCの蹴りが彼女を待っていた。
ドカッと蹴りを叩き込まれたクゥナが地面を転がる。
「く……こ、この私がブスなんぞに……」
それでもむくっと起き上がり、背後から放たれた魔物の閃光を身を翻して避けた。
すかさずステッキを脇に挟み、シャオンの1匹に向かって両手を組んで呪文を唱える。
「輪廻たゆたう泡沫の精霊よ、その身を矢とし、敵を討て!」
瞬間、印のように重なった指先から炎の玉が放たれた。召喚魔法ではなさそうだけど、威力ある火炎球のようだ。
が、突如二人の間に、空からもう1匹のシャオンが割り込んできて。
「ヒャウウウウ!」
口を開き、怪光線を打ち返してきた。火炎珠と閃光がぶつかり……駄目だ、撃ち負けたのかエネルギー波が火炎を貫きクゥナを襲う。
クゥナは咄嗟にしゃがみ、閃光をやり過ごしたが真横からまた別のシャオンが現れ、無防備になってるお腹を蹴り上げてきた!
「おうふっ!」
軽々と打ち上げられたクゥナは、
「いらっしゃい、子猫ちゃん!」
空中で既に両手を組んで待機していたシャオンFに背中を打ち据えられる。酷い、クゥナが人形みたいに遊ばれてる。
だけど……嬲っているように見えて手加減する気配は微塵も感じられなかった。
地面へと落下したクゥナに、地上で構えていた5人のシャオンが一斉に口を開き、奇声を発して閃光をぶっ放してくる。
でも! いいように殴られてるクゥナだったけど彼女の口元はちゃんと動いていた。
「出でよ、キューテルベッグ!」
あれだ! 閃光を跳ね返す召喚獣を呼び出していたんだ! 跳ね返せば5人まとめて倒すことができるかもしれない! そう思ったけれど、
「う、うう……っ」
クゥナは不可視のバリア―で受け止めてはいるが跳ね返せていなかった!
クゥナが苦しそうに呻く。キューテルベッグの原理はよくわからないけど、5発同時はキツイのか、それとも魔力が足りないのか、防いではいても跳ね返せないでいた。
しかも、そこに加えて空中にいたシャオンFまで顎を開いて追撃の姿勢を見せる。
「―――――ッ!」
クゥナはステッキを脇に挟み両手でさっと印を結んだ。
途端に左手が作っていた魔法陣が消え去り、すると眼前の閃光群が動きだし。次いで上空のと合わせて計6本の光弾がクゥナを直撃した。
ゴオオオンッ!
爆発が巻き起こった。エネルギーとエネルギーがぶつかりあって、超高密度に耐えきれなくなった空間が破裂した、そんな風に見えた。
爆炎の土煙の中から、ふわっと、ズタズタになったクゥナが吹き飛ばされていく。
「クゥナアアアッ!」
叫んでみても彼女に意識はないのか、力無く手足をだらんとさせたままで、反応は無かった。受け身もとらずドサッと地面に落ちる。
――――カラン。
続いてクゥナのステッキが乾いた音を立てて、地面に落ちた。
「あう、あう……」
クゥナがピクリとも動かない。
ま、まさか、し、し、し……しん、
「死んでないわよ」
魔物のひとりが僕に言った。モクモクと口から煙をくゆらし、にたりと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「攻撃を受ける前に結界術で身を守ったわ。召喚魔法と結界術を交互に、それも瞬時に切り替えて使いこなす。シャオンひとりで勝てなかったのも納得だわ」
けれど、ともう一匹が厭らしく目を細めた。
「今から殺しちゃうけどね」
あう、あう、本当に酷い。クゥナは魔力が殆ど残ってなかったんだ。それをいい歳したみんなでよってたかってだなんて!
「待って」ふと、ひとりが5人を止めた。
「さっきから気になってたんだけど、あそこにいる坊やは何?」
……6人が柱に隠れていた僕の方を見た。
「僕?」
うんうん、と6人が頷く。
「ぼ、僕は、ふ、普通の人間だよ? ま、魔法も使えないし、た、ただの人間」
「そんなの見たらわかるわよ」
だったら気にしないで見逃して。「そうじゃないわ」とまた別の一人が言った。
「だから何でただの人間がクゥナ・セラ・パラナと一緒にいるわけ?」
「しかもこんな神殿に?」
「それってさ、あれじゃない?」
6人が6人とも、嬉々とした笑みを浮かべた。
「――坊や、聖剣の男の子でしょ?」
「…………………………」
はい、いいえ。どっちを答えればいいの? どっちを答えたら正解なの?
あまりな突然の質問に頭の中は【はい、いいえ】の単純な2択だけが回っていた。
「プッ!」一人が堪えきれないみたいに吹き出す。
「うそ、やだ、こんな坊やがあのユキナ姫のお相手なの!」
「聖鐸秤に選ばれる者に資質や才能は関係ないって聞いてたけど」
「信じられないわ!」
あう、あう。笑って貰えるなら光栄です。お願い、見逃して。
という願いはあっさり裏切られた。
「じゃあクゥナなんかより、こっちの大物を殺さなきゃ」
「………………………………え?」
僕、大物なの? 僕、殺されるの? 彼女達の言葉を考えた。
殺されるって……えっと。えっと……首を絞められたり、心臓を貫かれたり。
「待って」
クゥナの声がした。彼女は倒れたまま、顔だけを起こし、シャオン達を呼び止める。
「なに? 駄目よ、待ってなんかあげない」
「安心なさいよ。坊や君を殺したら後であんたもちゃあんと殺してあげるから」
クゥナはそれでも言った。
「ケイカを殺さないで」
「あん? この子、ケイカっていうの? お姫様と同じで変な名前ね」
コクンと頷く。
「ケイカは異世界の人間。捕食したとて貴様らの栄養にはならない。殺さずとも異世界に戻せば姫の力を継ぐ子供は作れない。それで許してあげて」
「――――はあ?」
嘲笑う声が返ってきた。
「あんたバカじゃないの?」
「なんで私達が言うことを聞かなくちゃいけないのよ」
「するならもうちょっとマシな命乞いしなさい」
でも、と後方に控えていた1匹が皆と止める。
「一理あるんじゃない? ただ殺すだけなんて勿体ないって気もするわね」
「そうね、敢えて食べちゃうってどう?」
「ふふ、それいいかも」
よくないよ! あう、食べても美味しくないよ!
「ま、待ってよ!」
「だーめ。もう待たない」
結論は出たのか、6人全員がバサバサと翼をはためかせ、舞い上がり、僕を囲んだ。
「ま、待って、本当に待って! ぼ、僕、本当にただの人間」
「うふん」
だけど彼女達は聞く耳なんて持たず、ペロリと舌なめずりをした。
肩を蹄で掴むシャオン達に釣り上げられ、僕の体が地面から離れていく。ゆっくり高度を上げて石畳が遠ざかっていく。 クゥナや皆がぴょんぴょん飛ぶからムゥジュは高さが怖くないのかなって思ったけどそんなことない。高さ3メートルでもぜんぜん怖い。
「あう、あう、高い、高いよ!」
「もう、これくらいで騒がないでよ。興醒めしちゃうじゃない」
僕を釣る魔物が苦笑し、上昇するのを止めたと思えば。
「ふふ、このほそーい腕」
宙づりにされた僕の腕に1匹が張り付いてきた。
反対側にも張り付かれ、両腕を塞がれる。脇の辺りをツツツーと尖った爪先で滑らせてくると――パサ――それだけで服の袖は脇から手首にかけて切り裂かれた。
「クフフフ、この薄い肉と、鳥みたいな骨。ガジガジしたいわ」
だ、だめ。そんなことしちゃ駄目!
「足もほら、こぉんなに細いわ」
「フトモモだって歯を立てたらすぐ骨に刺さっちゃいそう」
いつの間にか両足にもそれぞれ魔物が取り付いてきて、太腿の内側に掌を這わせてきた。ヘンタイはだめ。みんなヘンタイはだめだよ!
「じゃあ私は……聖剣を頂こうかしら」
「―――――ッ!」
正面にいたシャオンFが恐ろしいことを口にし。
視線を頭の位置をやや下げ、僕の股間に顔を近づけてきた。
え、え、そこは本当に駄目!
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