第20話 クゥナ VS シャオンさん
「――クフフフフフ」
魔物が笑う。してやったり、そう言いたげなくぐもった笑い。
ややあって、クゥナは目を細め。
「あれか」
魔物そのものではなく、魔物の手……指に嵌った指輪を捉えてる。王冠型の指輪を視線で捉えて呟いた。不気味な魔物に似つかわしくない金色の輝き、月夜の闇に閃くエメラルドグリーンの宝石。
「ご名答」ハーピィ女がニヤリと真っ赤な口の中を見せた。
「マシルハークムの指輪よ!」
嵌めた指輪を高々と空に翳し、「オーーーーッホホホホ」と嘲笑する。
「魔剣と対を成す、あらゆる魔力結界を中和する貴女達の神器! 小賢しいと思って宛てにはしてなかったけどね。クフ、クフフフ。見つけた甲斐があったわ!」
再び高笑いをし、ゆっくり神殿の中に降り立った。
突如、ハーピィ女に向かって神殿を支える柱から稲光のような閃光が彼女に放たれる。が―――パアン―――と乾いた音と共にすべて跳ね返されてしまった。
彼女の周囲に光膜……有り体にバリアーみたいなものが生まれ、それが稲光を弾き返したのだろう。弾き返された光は柱をへし折り、支えを失った天井の一部分が崩していった。地面が揺れ、また倒れそうになるのをクゥナにしがみつき耐える。
「ク、クゥナ、あいつ、なんだか強そうだよ!」
「強そうなのはいいけど、ちょっと離してケイカ。動けない」
クゥナは僕の腕をすり抜けるように身を起こし、降り立った魔物に面と向かい、
「貴様、なぜこの神殿に来た? 魔物には用事の無い場所だろう」
凜と言い放つ。すごい、ひとつもビビッてない。
「そうかしら?」とそんなクゥナを小馬鹿にしたようにハーピィ女は嗤った。
「ここってあれでしょ? 貴女達のお姫様の相手を選ぶ場所じゃないの?」
クゥナがぴくりと眉を動かした。
「逆に言うとあれよね? ここを、そう、その燭台を壊しちゃえば、もう貴女達はお手上げってわけでしょう?」
よ、よくわからないけど、あの魔物の言ってることってその通りなんじゃないの? 後継者を得られなくなるんだからもの凄い致命傷になると思う。
だけどクゥナは少しも狼狽えることなく、むしろ小馬鹿に仕返すように鼻をフンッと鳴らした。
「勉強熱心でご苦労なことだが、貴様ごときにそんな真似が出来ると思うか?」
ハーピィは心外だとばかりに翼ごと肩を竦める。
「威勢のいいお嬢さんね。あたしが誰だか知らないの?」
「お前のようなブスなど知らん」
――ビシィッ! 音が聞こえてくるくらいハーピィさんの額に血管が浮かんだのが見えた。ちょ、駄目だよ、クゥナ! 女の人にそんな酷いこと言ったら!
でも遅かった。彼女の蜷局巻く角がみるみる逆立っていく。逆立ったそれは羊じゃない、猛牛みたいだ。顔は笑っているけど怒ってる! 僕にはわかる!
「クゥナ!」
「なに?」
僕は慌ててクゥナの足首を掴んだ。
「逃げよう! 逃げるか応援を呼ぼう! きっとあれは怖い魔物だよ!」
「本城は遠い。それにあんな笑える格好したブスの何が怖い?」
――ピッシィイイイィッ!
ハーピィさんの額に幾筋もの血管が浮き出る! マジギレしているのがすぐ分かった。
「駄目だって、駄目なんだって! 挑発したら駄目!」
けれど、もはや手遅れだった。会話はぜんぶ聞こえていたのか彼女の角どころか目まで尻上がりに逆立っている。もう笑ってもいない。
「このあたし、シャオン・グレイスは寛大なのよ? 今夜はね、そこの燭台壊せたら苦しまないで済むように秒で楽にしてあげようと思ってたのよ?」
「ほう、野良のくせに名前があるのか」
あくまでも悪態を崩さないクゥナにハーピィこと、シャオングレイスさんが1歩ずつ、僕達の方へ歩み寄ってくる。足音が発する不気味極まりない怒気が僕の手を震わせた。
「ク、クゥナ。シャオンさんに謝ってあげて! 失礼なこと言っちゃったんだから!」
「神殿を壊し、私達を殺すとか言う敵になにゆえ”さん”付け?」
「だ、だって!」
「いいから離して」
クゥナは足首を掴む僕の手を蹴り払い、シャオンに言い放つ。
「なめるなよ、シャオンとやら。貴様などこの……」
だが、クゥナはかなり中途半端なところで言葉を止めた。
右手をピクピク動かし、何かを探すように指で空を掻いている。
「………………………………」
「ど、どうしたの、クゥナ?」
「…………スペシャルロッドがない」
「ええええええっ!」
も、持ってるつもりだったの!
「だいぶ前に砕け散ったよ! 自分でも説明してたよ!?」
「忘れてた。どうしよ」
「そ、そんな!」
相手を怒らせるだけ怒らせて、打つ手無しだなんて、終わった。
なんて簡単に諦めてる場合じゃない。クゥナが先制攻撃を仕掛けてくるのかと警戒していたシャオンが「オ、オホホ?」と構えを解き、
「何をしたいのかわからないけど、あたしはそれほど暇じゃないの。掛かって来ないのならこちらから行かせて貰うわよ?」
クゥナは僕を背中に庇う形で足を広げて構える。そして腰の方から手を背中に入れ、短い魔法の杖を取り出した。
「貴様の相手など、このステッキで十分だ!」
「おもしろいじゃない!」
2人の視線がぶつかりあう中、僕はクゥナの持つステッキに違和感を感じていた。
……あれ?
何だろう、あのステッキ、何処かで見たことあるような。いや、ステッキ自体は知らないけど、妙に見慣れた物だ。
見るからに量産されたプラスチック製のステッキ。先端は可愛い星の模型。星を模っている透明な材質は水晶とかではなく、本当にお飾りのガラス玉にも思える。
「ク、クゥナ。いちおう訊ねてもいい? ひょっとしてなんだけど、そのステッキさ、パウレルの……?」
「うむ。ケイカが住んでた街で購入した、8980円の【マジカルステッキ】だ」
―――ちょっと!!
もっと突っ込みたいけど、そんな余裕は無さそうだ。大丈夫だよね! クゥナは真面目にやってるよね!?
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