第13話 ユキナとメイド食堂②
壮絶な食事の後。
「して、晩飯の件なのだが」
クゥナがグレンティ豆茶というモノを飲みながら無茶な議題を提案してきた。
僕は考えるふりを琥珀色をしたお茶をひとくち飲む。
味は甘くて濃いカフェオレに似てる、かな。周囲のメイドさん達も食事をするフリをしながらこちらの様子を「キャッキャ」騒ぐのが見えた。
「ケイカは晩御飯に何が食べたいの?」
ユキナがテーブルに身を乗り出し訊ねてくるが。
「……今は胃腸薬が欲しいかな」
「胃腸薬?」
首を傾げるユキナに、シェリラさんが「姫様」彼女を窘めてテーブルから下ろし、座らせてくれた。
クゥナは豆茶をもう一口飲み。
「で。その飯の後、今夜はこの第2王城で、2人きりで過ごして欲しい」
「ふ、2人きりで?」
クゥナが頷くと同時に、彼女の隣に座っていたユキナが顔を赤くして俯くのが見えた。
その様子をちらっと見てクゥナは、
「ケイカはうちのユキナ姫のことは嫌いな感じ?」
「ク、クゥナ。いきなりそんな質問は駄目だよ」
ユキナが顔を挙げ咎めようとしたが、クゥナは掌を広げて制した。
「姫は口を挟まないで。こっちは大急ぎの本件。ケイカ、どう?」
「ど、どうって…言われても…」
不意に訊ねられて返答に僕も戸惑ってしまう。
忘れていたわけではないけど、僕はこの世界に戦争を見に来たわけでもないし、そう、メイド食堂を堪能しに来たわけでもない。
「え、えっと」
ユキナは半端なく強くて可愛いし、そう、正直に言えばけっこう好みなタイプだと思うんだけど、というか、僕はやはり返答に困ってしまった。するとクゥナが、
「もし嫌じゃないのなら、少しだけ逗留して欲しい。魔物は一度攻めてきたら態勢を整えるために時間を置く。しばらくは安全だから」
「インターバルってこと? しばらくってどれくらい?」
「長ければ数ヶ月。でも最近は1ヶ月に1度くらいの割合で攻めて来るけど」
彼女の言葉に「ん?」ユキナが首を傾げる。
「1ヶ月? そんなに早い時期あった?」
クゥナがコクンと頷いた。
「あった。王女を呼ぶ程ではなかったけど、小規模な戦闘が郊外で何度か」
「……知らなかった」
それが何を示すのか、ユキナはそう呟くとまた俯いてしまった。今度はちょっとわかりにくい複雑そうな表情だった。
「あのさ」と、会話を反らすように僕。
「半日くらい経ったと思うけどパウレルの時間は? 家族に何も言わずに来たから」
「あっちではまだ数分と流れていない。異空間同士の時間軸のブレは簡単に換算してはいけないけど、ムゥジュでの10日がだいたいパウレルで1時間くらいと思って」
その話が本当なら時間の心配だけはなさそうだけど、クゥナがパウレルへ来た時の四半刻(15分くらい?)、それだけでムウジュでは何日も経っていたことになるんだ。
と、その時。
「クゥナ様」シェリラさんがクゥナに言った。
「差し出がましい言とは存じますが、今ひととき。ケイカ様とユキナ様のお2人で、ゆっくりお話し頂くのは如何でしょうか」
「今ひととき、2人でゆっくり話だと?」
怪訝そうに眉を潜めるクゥナにシェリラさんは慇懃な態度と口調を崩さず続ける。
「はい、勿論この件が本城の急務であることはわたくしも重々承知致しております。しかしケイカ様も突然の申し出に戸惑っておいでのようですし、少々奥手なご気性のよう。ならばなおの事、お2人でよく話し合って頂いた方がよろしいかと存じます」
クゥナはパチパチと瞬きしながら、眉をひそめ、シェリラさんを見つめていたがやがて「うむ、その通りだ」と頷いた。
「シェリラよ、よくぞ申してくれた。お前の言うことは尤もである」
大きく頷き表情をやわらげる彼女に、シェリラさんも安心したように頬を緩める。
「では、私は久しぶりに第2王城の散策でもしてみるか。シェリラ、案内せよ」
「はい、よろこんでお供させて頂きます」
クゥナが立ち上がると、シェリラさんも立ち上がった。
去り際、廊下の方から彼女達の会話が聞こえてくる。
「こういうことは勢いで進めた方が良さそうだと思ったのだ」
「いいえ、こういうことだからこそ慎重な方が良いと思いますよ」
「なるほどな、一理ある。ケイカは真面目で奥手そうに見えても、中身は強気の変態。そう時間もかかるまい」
――――ブッ。
僕はカップの液体を噴いた。
ユキナが僕の方にきょとんとした目を向ける。僕は慌てて首を横に振った。
……強気の変態ってなに……。
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