第2話中学校

 太宰治にハマり、見事中二病と化した。

 ハマったといっても、まともに読めたのは人間失格だけだ。その他の斜陽などの小説は読みはしたが、正直何言ってるか分からなかった。

 今思い返せば、当時読んだ小説の中で自分の心に突き刺さった本は人間失格ぐらいだったと思う。あと森絵都のカラフル。

 恥の多い生涯を送ってきました、とか、主人公がいつも「お道化」ていたという記述。彼の姿は自分そのままだと感じた。恥をたくさんかいてきたし、いつも演技をして弱い弱い自分を隠していたかったからだ。

 

 俺の思い返したくない黒歴史時代の始まりが、中学だった。

 まず、簡単な中学入試に失敗した。適性検査と面接がある中高一貫校であったが、当時の私はただ数学が出来るだけの阿呆だったのもあり、そもそも適性検査の勉強が身に付かず落ちた。

 滑り止めで受けた私立中学に入学した。学費が高い事で有名な場所だった。

 公立中学に入る可能性もあったが、姉の事もあり、俺に期待していた親がこの学校を勧めて来たのだ。

 

 この選択が正しかったのか、間違っていたのかは分からない。

 勉強しろ勉強しろ、いい学校に入れ、久留米附設に入れラサールに入れ…

 それを何回言われたか分からない。入るのは簡単だったが、進学実績を伸ばしている事で有名な学校だった。

 

 その学校での毎日は、正直楽しかった。成績が高く褒めて貰えたからだ。

 ただ、最初の2年間だけだった。

 面倒くさがりな性格が顔を出し、受験が近くなっても大した勉強をしていなかった。そのせいもあり、中学3年時点では勉強してきた奴らに簡単に抜かれた。

 今思い返しても阿呆だと思う。将来や家の経済事情の事を何も考えていなかったし、ただ自分が楽しければいい、楽しく無きゃ逃げればいい、という短絡的な中学生だった。

 なんなら、自分のその阿呆な性質は高校に入り、いじめで退学に追い込まれたその後も続いたのだから、どれだけ外の情報を遮断してきたのかと言う話だ。

  

 失敗から学ばない奴、というか学ぶのが下手な奴だった。

 そんな奴だったから、俺はその学費が高い中学校での3年間を無為に過ごしただけだった。成果があるとすれば、英検2級を中3で取った事、滑り止めで受けた偏差値75くらいの高校(くっそスパルタ教育)は受かった事くらいだ。


 あの時、今の賢さがあればと何度も振り返り、悔やんでいる。 

 あの日、高校受験を教師からの言う通りにしなければ?

 SA特待という特待生枠を取った学校に行く手もあった?地元の学校でも良かったんじゃないか?

 

 と、他の人なら思うのだろうけれど、俺は違った。

 「早く家から出たかった」。

 本当にそれだけを考えて、親の反対を押し切り、某県下1の偏差値を誇る私立高校に入学した。実家には金が無いと知っていたのに。ただ我慢すればよかっただけなのに。

 母親は過保護だった。それこそ悪い過保護だった。

 何も考えず、子供の将来を考えないまま、俺を「知的障害のある姉」と同じ様に育てた。

 「過保護が悪いとは思わないよ」と彼女は言っていた。

 うん。

 良いわけねえだろ。ふざけんな。

 何も出来ない姉と同視するな、俺には出来る事が山ほどあるんだ。

 料理だってあんたが任せてくれたらすぐできたはずだ。大学生になってから一人暮らしを始めてからは出来る事が日に日に増えていく事が嬉しかったんだ。

 もっと他の家庭みたいに育てて欲しかった。接して欲しかった。

 確かに出来ない事はたくさんある子供だったけれど、阿呆な子供だったけれど、

 貴方が思ってるよりずっとずっと凄い奴なんだって知って欲しかった、見て欲しかった。

 認めて欲しかった。貴方が好きな人形の自分じゃなく、本当の自分を。

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俺が死ぬまでの物語 黒犬 @82700041209

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