俺が死ぬまでの物語
黒犬
第1話小学校
雨が降ると、世界が3割増しに綺麗になる。雨の日は特別な日であるべきだと思っていた。長靴は履かない。思えばあの頃から面倒くさがりだったから、いつもスニーカーで歩いて足を濡らす事を厭わなかった。
小気味いい雨粒の衝突音が耳を潤した。何もない、モノクロの世界でも、その日だけは眺めていたいと思える景色があった。
この景色をもっと言葉で表せたら良いのに。もっと綺麗に見える目があったら良いのに。
家にはしかめっ面の父がおり、いつも尻をかきながら映画を見ていた。仕事で疲れていたのだろう、俺と仲良くなろうという気はさらさら無いようだったし、小学生の頃の自分はバカであったから、自分に対しては常に怒っていた記憶しか無い。
狭いリビングには、永遠と繰り返されるテレビの音と、知的障害のある姉の独り言が常に聞こえている。
「うるさい!」父親か母親の声が定期的に響く。
ガシャーン! たまに響くガラスが割れる音。姉がパニックになって割ったのだろう。
「あんたは世界で一番かわいいんだから!」母親の姉に対する無責任な声が耳触りだった。
当時は、親と意思疎通をまともにとった覚えが無い。主に俺に原因があったと思う。少しも笑わなかったし、無駄にものを考えている奴だったから、自分の親に話が通じないという事が頻繁に起こっていた。
その意味で、俺の母親や父親は思考に欠けていた。
特に父は、成長というものを否定してきた。
「どうせ友達がいないんだろう」
いるにはいた。作ろうともしていた。ただ頻繁に遊べていたかというと違った。俺は元からひきこもって外の音を遮断する事が好きだった。
「お前には何も出来ない、情けないな」
何も出来ないなんて思えなかった。小学生の頃やっていた公文では小5で高校生の数学をやっていた。だが、そう言われても仕方が無いくらい出来る事が少なかったのは確かだ。それには発達障害が関係していたと思う。
特に母は、思考する事を放棄している人だった。
俺以上に何も出来ない姉に対し、一言も罵詈雑言をかけていなかった。
優しいのではない。姉が何も出来ない事を認めないと、会話が出来ない事を認めないと、一緒には生きられないのだった。心を守るための術に思えた。
また、母は父親からの言葉を基本的に全て受け入れた。
自分の考えが無いのでは無いかと指摘すると、彼女は「ふざけるな!私は私の意思を持って生きてるんだ!!」と怒鳴って来た。
その数秒後来た父親の言葉をすぐさま受け入れ、直前の自分の思考はすぐさま消し、出さない様に抑えていた。本人はそれを無自覚に行っているらしかった。
総じていうと、自分の家族はド田舎の何の学も無ければ、大した優しさも常識も無い変な親であった。加えて、特に自分の本質というか、内心にまで踏み込んで想像力を働かせてくれる人達では無かったため、こんな奴らみたいにはなりたくない、が彼らに対して抱いていた感情であった。
とにかく早く出たかった。
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