第49話 異世界の菓子

 サキ様が来ているので、少し早いが、お茶休憩を兼ねてお話をする事になった。


 もちろん、ハンニも戻ってきている。とはいえ、お茶が終わったらまた修行の続きをするらしいが。


 応接室のテーブルの上にたくさんの見たことのない菓子が並ぶ。


 王族の口に入るものなので、俺が毒見の魔術で確認をした。

 ただ、きっと見習いの俺では不十分だろうから、こっそりラヒカイネン男爵やユリウス様が再確認をしたのだろう。


「うわー! オセンベイにオマンジュウにドラヤキにイチゴダイフクにマメダイフクに……わぁ、ミタラシとサンショクダンゴまである!」

「ワラビモチもあるよー。キナ粉もたっぷり」

「やった! 嬉しい! お姉ちゃん、ありがとう!」


 王妃殿下が子供のようにはしゃいでいる。おまけにサキ様が甘やかすように別の菓子まで勧めている。


 これらは王妃殿下の故郷の菓子なのだそうだ。サキ様がお土産として持ってきたのだ。そして沢山あるので、俺達、魔術師の同僚にもお裾分けをしてくださった。


 それにしても、王妃殿下の気持ちは分かるけど、はしゃぎすぎだと思う。


 ここには今は誰も入ってこないようになっているけど、それがなかったらヨヴァンカ様に砕けた言葉を注意されているだろう。ヨヴァンカ様は王妃殿下のマナー教師も兼ねているというし。

 と、いうか、俺の前でこんなくつろいだ様子を見せてもいいのだろうか。俺、この間まで敵だったんだぞ。刺客だったんだぞ。


 やれやれ、と苦笑する。それが聞こえたのか王妃殿下がこちらを向いた。


「ウティレ、またわたくしの事を子供みたいだと思っているのでしょう?」

「……いいえ」


 反射的に『思っていますけど?』なんて返しそうになって堪える。さすがに王妃に向かってそれは言えない。


 それでも本人も気づいたようで軽く不満そうな顔を見せる。私より年下のくせに、と思ってるのだろう。


「皆さんも食べてくださいね」


 サキ様が穏やかに勧めてくださった。


「ありがとうございます、サキ様」


 ラヒカイネン男爵が代表してお礼を言っている。その言葉を合図に王妃殿下がパンケーキで何かを挟んでいる菓子を手に取った。そして一口大にちぎって美味しそうに口にする。ちらりと見たが、中には黒いペーストが入っているようだ。


 それに続いて他の人も菓子を手にする。俺も香ばしそうな香りのする茶色い丸い菓子が五つ刺さった棒を手に取る。


 これは肉の串焼きみたいにそのまま頬張ればいいのだろうか。フォークがないからそういうことなのだろう。


 思い切ってかぶり付いてみる。


 菓子は焼いてあるらしく香ばしい味がした。でも全く固くはなく、むしろ柔らかめだ。かかっているソースに甘みはあるが、そこまで甘くはないので食べやすい。おまけに焦げ目とよく合う。


 しっかり味わいながら食べていたのに、あっという間に残り一つになってしまった。行儀は悪いがぐっと歯でかぶりついてそのまま串から外す。


 満足して息を吐き、紅茶を口にする。一口飲んでティーカップから口を外すと菓子のソースがカップの縁についていた。


「あ……」


 恥ずかしくなってしまう。ヨヴァンカ様からそっとナプキンが差し出されたので、それで口をぬぐう。


「おいしい?」

「はい!」


 王妃殿下の言葉に素直に即答してしまった。みんなに微笑ましそうに笑われてしまう。悪意は全くないのは分かるが、やっぱり恥ずかしい。


「遠慮しないでたくさん食べていいからね」


 ベリー系っぽいフルーツが挟まれた白い菓子を食べながら、王妃殿下が優しい言葉をかけてくれるが、なんだか俺が食いしん坊みたいだ。そう言うと、『いや、本当に遠慮しているように見えたから』と返ってくる。

 そう言われてみれば、他のみんなは俺よりもっと食べている。ならば、彼女の言うように遠慮する必要はないのだろう。


「レイカちゃーん、なに自分が買ってきたみたいに言ってるの。それ買ってきたの私なんだけど?」

「うふふ。感謝していますわ、お姉様」

「わざとらしいって。もうっ」

「あはははは」


 王妃殿下とサキ様が何やらじゃれ合っている。


 さて次の菓子は何にしよう、と迷う。だけど、結局また同じ菓子を手に取ってしまった。

 この菓子が美味しいのが悪い。そう自分に心の中で言い訳しながら。


「ウティレ、ミタラシが気に入ったの?」

「これはミタラシというんですか?」

「正式にはミタラシダンゴっていうの」


 王妃殿下が親切に説明してくれる。名前を知ると、何だか愛着が湧くのはどうしてだろう。


 少しだけその菓子を眺めてからまた最初の一つを口に入れた。

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