第43話 修行始め
昼食を挟んで修行の時間になった。
午後はみんな修行の時間らしく、ラヒカイネン兄妹は父親であるラヒカイネン男爵に課題を出されていたし、王妃殿下は彼女の魔術教師の所へ、ハンニはまじない師の修行をしに行った。
先ほど知ったが、どうやら王妃殿下の魔術教師はイシアル王国出身の大魔道師デイヴィス・ウィリアム・コーシー様なのだそうだ。
王妃殿下の魔術師歴は俺より短い。なのに、大魔導師様に教えていただいているなんてとんでもない事だ。他の魔術師達が聞いたらさぞかし羨ましがるだろう。話を聞いただけでは信じないかもしれない。
でも、だからこそ、あの方はとても強いのだ。自分を守るために強くいなくてはいけないのだ。俺やエミールみたいに攻撃してくる奴もいるし。
いや、もう俺は王妃殿下を攻撃はしないけど。出来ないけど。
正直、自分のレベルが世間一般でいうどれくらいなのかは分からない。そりゃそうだ。一ヶ所しか知らないのだから。おまけに今回の任務は失敗しているし。
でも、弱気になっている場合ではない。少なくとも表には出したくはない。
なので、真剣な表情で『よろしくお願いします』と、新たな俺の師匠であるラヒカイネン男爵に挨拶をする。
ただ、俺がいろいろ考えている事はお見通しなようで『緊張しなくても大丈夫だよ』と言われる。そりゃそうか。元侯爵様だもんな。
「本には目を通した?」
「はい。一通りは目を通しました。ただ、全てを覚えているかと言われたら自信はありませんが……」
やはりつい弱気になってしまう。これじゃあいけないのに。
俺の言葉にラヒカイネン男爵は苦笑いを浮かべた。あれだけの内容をあの日数で覚えるのは無理だと言われる。
そう言われればそうかもしれない。
でも、知っている事に関してはとても分かりやすく復習する事が出来た。それはしっかりと話しておく。大事な事だ。
ラヒカイネン男爵はそれを聞いて満足そうに頷いた。
今日は基礎的な魔術の確認を一通りやった。とは言っても基礎トレーニングだけではない。攻撃魔術や治療魔術など、いろいろチェックされる。
そういえば、魔術の実践であまり攻撃魔術を使った事はなかった。今までは、ヴィシュの国王陛下の任務だとしても、『騙す』術を多用して、あまり戦ってこなかった気がする。他には、敵に見つかった時に『逃げる』ための術だとか。そんな事は滅多になかったけど。
でも、これからはそうはいかない。何しろ、魔族の王族をお守りしなければならないのだ。攻撃魔術をあまりやってきませんでした、という言い訳は通用しない。
なので、これからラヒカイネン男爵がみっちり稽古をつけてくれるそうだ。本当にありがたい。
あと、素直に魔法薬の分野が苦手な事も話す。簡単な調合はもちろん出来る。でも、複雑なものとなるとお手上げなのだ。
苦手な事があると打ち明けるのは恥ずかしい。でも、それできちんと勉強できるのならそれでいい。
ラヒカイネン男爵はためらうことなく、これから学んでいけばいいと言ってくださる。それはもちろんそのつもりだ。
俺が予想していた通り、魔王城の庭園の一角には、魔術師専用の薬草畑があるそうだ。そこに俺のためのスペースも作ってくださるという。
そこまでしていただいていいのだろうかと恐縮してしまったが、どうやら共用の場所以外に王宮魔術師は全員に個々の為のスペースも持っているそうだ。これはそれぞれの研究などをするために必要だから作ったので遠慮する必要はないという。
本当にありがたい。
ただ、きちんと育つだろうかと心配になってしまうが、『育つだろうか』じゃなくて『きちんと育てなければならない』と考えなければならないだろう。
「そんな不安そうな顔をしなくてもきちんと育つから大丈夫だよ」
ラヒカイネン男爵が俺の表情を見て宥めてくれる。なのでとりあえずこくんと頷いておく。まだ心配だけど、間違いないくラヒカイネン男爵の指導付きで育てるのだから育つはずだ。
調合に関してはしばらく共用か男爵の薬草を使って学べばいいとまで言ってくださった。それはいいのだろうか。
いや、俺がきちんと学ぶために必要なのだ。だから大丈夫、と思い直す。
「だからそんなに気負わなくていいから」
また安心させるようにそう言ってくださる。
というわけで、苦手分野について話した後で、もう一度攻撃魔術をみっちり稽古してもらう。実戦だったので結構きつかったが、初日からへこたれてはいられないので必死についていく。終わった時にはぐったりしてしまった。
今度は相殺訓練もやると言われる。相殺訓練というのは攻撃系の魔術を別の魔術で打ち消すという訓練だ。結構きつい訓練だが、戦いの訓練としては重要なものだというのはよく分かる。
やっぱりレベルは高い。でもこんな事でへこたれている場合じゃない。苦手分野の他にも学ぶ事はきっとたくさんあるのだろうから。
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