第42話 初仕事
朝食の後で制服に着替えてから、ラヒカイネン男爵と一緒に魔王に挨拶に行く。これから王宮魔術師見習いとして魔王に仕えるのでよろしくお願いします、という挨拶だ。
魔王はきちんと国王として臣下に接しているから当たり前だが、威厳があって少しだけ怖かった。
よくこの魔族と敵対してたな、と思ってしまう。もう一回同じ事をしろと言われたら逃げ出すかもしれない。
とにかく緊張の挨拶を終え、俺は正式に見習いとして王宮魔術師の仕事場に入る。そこにはもう既に全員が揃っていた。入った途端に、四人の目が一斉に俺を向く。
「おはよう、ウティレ」
まず最初に魔王妃が挨拶をして下さった。
いや、魔王夫妻に対しては、これからは心の中でもきちんと臣下として『魔王陛下』『王妃殿下』と呼んだ方がいいだろうか。
「おはようございます、王妃殿下」
きちんと臣下の礼をとって朝の挨拶をする。なのに王妃殿下はそれを手で制する。
「ここでそこまでかしこまらなくてもいいわ。あなたはここでは魔術師としての部下なのだから」
では、と魔術師としての礼に直し、改めて『おはようございます。副魔術師長様』と挨拶をする。
そして、ユリウス様とヨヴァンカ様、そしてハンニにもきちんと挨拶をする。
みんな笑顔で返事を返してくださった。
誰も俺に対して悪感情を持っていないようでよかった。いや、巧妙に隠してたら分からないけど。
***
とりあえず、午前中はみんなのサポートをして欲しいと言われる。これは見習いなので当たり前だ。
ここには取り扱うのが危険な魔道具や魔法薬がたくさんある。何も知らない者がうっかりミスで怪我や体調不良になっては困るのだ。人間より強い魔族とはいえ、使用人には任せられない。
それに、やはり人間に悪感情を持っている魔族もいるので、嫌がらせ防止という面もあるそうだ。ただ、もしそんな事をしたら魔王陛下が黙っていない気がする。何せ、ここには王妃殿下もいらっしゃるし。
なので、みんなで交代で、朝、この部屋の掃除をしているという。俺も当然それはしなければいけない。ただ、ここにはヴィシュでの職場にはなかった魔道具、それも取り扱いが難しいものもあるので、しばらく他の人にいろいろ教えてもらいながらやって欲しいと言われる。
俺も事故など嫌だし、素直に頷いた。
午後は、ラヒカイネン男爵から魔術の授業を受けるそうだ。まだ苦手分野も多いのでこれは本当にありがたい。
最近は実地で魔術を覚える事が多かったから、『授業』として習うのは久しぶりだ。それに、ラヒカイネン男爵はヴィシュの魔術師のトップに近い位置にいた魔術師だ。その弟子になるというのはとても名誉な事なのだ。
これに関しては正直ものすごく嬉しかったりする。俺にとっては手の届かない所にいると思っていた方から魔術を習う事が出来るのだから。
まあ、何にせよ、これから覚える事は沢山ある。気を引き締めなければならない。
というわけで、今はこの城の警備に使う魔道具の使い方をヨヴァンカ様に教えてもらっている。
魔王城の警備は一番重要だ。何せ、この国で一番偉い方々がいる場所なのだから。それに守られるはずの人が加わっているのはよく分からないけど。
「何かがあったらお知らせが来るけど、ここでこうして見ることも出来るのよ」
「そうそう。監視カメラみたいな感じでね」
「レイカ殿下、それでは通じません」
「あ、そっか。……そうよね」
側にいた王妃殿下が補足しているけど、よく分からない説明をされる。おかげでヨヴァンカ様にまで指摘されている。
よく分からないが、どうやら異世界には魔力を使わないが、似た道具があるのだろうか。そして、最初の方は絶対母国語で喋ってた。
他にも、今まで知らなかった薬品や魔道具がいっぱいあって覚えるのが大変だ。とりあえず、全部メモを取る。ただ、魔族語で魔術に関する用語はまだそこまで分からないし、この国でヴィシュ語でメモを取るのは喧嘩を売っているようなものなので、ミュコス語で書く。
だが、そうしていると『そんなに気にしなくていい』と苦笑された。どうやら魔族語で言えない時は普通にヴィシュ語で話しているようだ。ちょっと気を使いすぎただろうか。
こういう事のないように魔族語の専門用語もたくさん覚えておいた方がいいのだろう。いや、『だろう』じゃない。絶対に覚えなくてはならない。
なんだか勉強する事が多すぎて大変だ。でも、新しい環境に行くというのはそういう事なのだろう。
まあ、魔族語を覚えるのが遅いからと言って、殴られたり、蹴られたり、魔法攻撃をされたり、食事を抜かれたりしないだけいい。
それでも、少なとも足手まといにはなりたくない。『役立たず』なんてもう言われたくはないから。
そう思うと、改めて頑張らなければ、と思う。俺は気を引き締めてヨヴァンカ様の言葉に耳を傾けた。
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