第41話 朝

 緊張しすぎて、早めに目が覚めてしまった。でも寝坊するよりはいいかと思い直す。


 とりあえず、起き上がって伸びをする。


 時計を見るが、朝食の時間にはまだ早かった。


 いつもは朝食をとってから基礎トレーニングをするけど、今やっても問題はないだろう。


 ただ、誰かが来るかもしれないので、身支度だけはしておこう。


 そう思ってささっと水魔術と風魔術で体を綺麗にする。そして室内着に着替えた。制服のローブを着たい気もしたけど、この後は朝食なので今はやめておく。

 初出勤は綺麗な制服で行きたい。いや、サンドイッチで汚すことはないだろうけど、なんとなく気分的なものだ。

 室内着とはいえ、寮内を歩くには問題ない服装なので大丈夫だ。


 基礎トレーニングは簡単な魔術なのでローブなしでも問題はない。


 術が失敗しても部屋に影響しないよう、一応結界は張っておく。とはいえ、基礎トレーニングでミスして大惨事になったなんて話は聞いたこともないけど。


 手のひらの上で、光、水、火、土、風の魔術の小さな球を規則的に出していく。術と術の感覚はぶれないように。


 十回連続でやってから、今度は出す術の順番を変えてもう十回。


 それから今度は自分の体の周りで魔術球を回転させる。これも何度か順番を変えてやる。


 この部屋に引っ越してからは毎日このトレーニングをやっているので、少しは感覚を取り戻せた気がする。

 間隔もきちんと一定で出来ているし、魔術球の大きさもきちんと揃っている。


 久しぶりに基礎トレーニングをした時は、火球が少し大きくなったり、光球が逆に小さくなってしまったりしてたけど、そんな事もなくなった。


 特に今日は自分でも満足のいく出来だった気がする。そう考え、つい口元が緩む。


 ちょうどいい時間になったので朝食をとりに食堂に向かう。


 食堂の入り口にはハンニが立っていた。


「待っていてくれたのか?」


 嬉しくなって挨拶をする前にそう言ってしまう。それから挨拶なしはいけないと思って『おはよう、ハンニ』と言う。


 ハンニも挨拶を返してくれるけど、ちょっと笑っている気がする。

 恥ずかしいと思いながらも食堂に入る。


 今日はいつもより早いのでいつもよりたくさんの種類のサンドイッチがある。人気のはすぐになくなってしまうのだ。今日は選びたい放題だ。


 いろいろある中から二種類のサンドイッチを選んでプレートにしてもらえるのでじっくりと選ぶ。今日はディルタートとチーズのサンドイッチと分厚いハムのカツレツのサンドイッチにする。


 分厚いハムのカツレツは珍しいので最近は好んで食べている。今までは薄いものしか食べた事がなかった。あれも美味しいけど、分厚いものにはまってからはこればかり食べている。


 ハンニはディルタートと薄切りハムのサンドイッチと、具入りオムレツのサンドイッチを選んでいる。これも美味しそうだ。


 それとどちらも飲み物は紅茶をもらってから席に着く。


 二人で食前のお祈りをして、ディルタートのサンドイッチから手に取った。このカラフルな葉野菜は見ているだけで楽しい。


 でも、見ているだけではお腹は膨れない。なので食べる。噛みしめるとシャクっと新鮮な音がした。


 やっぱり美味しい。ちょっとだけ挟まれたチーズがいい味を出している。


 ハムのカツレツのサンドイッチもいつも通り絶品だ。


 夢中で食べていると、なんだか微笑ましそうな視線が目の前からする。


 つい恥ずかしくなった。そういえばハンニって俺より六つくらい年上だった。


 それは分かってるけど、成人しているのに子供っぽい仕草をしてしまうのはやっぱり恥ずかしい。


 下を向いて紅茶を飲んでごまかした。ここの紅茶もやっぱり好きだ。後で茶葉の銘柄を聞いて買い物に行った時に絶対に買おうと決めた。

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