第38話 新たな臣下

 魔王妃との会話の数時間後に、今度は魔王に呼び出された。


 結構すぐに呼ばれたのは先ほどの魔王妃との話での彼女の失言をごまかすためだろうか。


 あれだけ頑張って『言うこと聞かなければ殺すぞ』と脅したのに、『死なれると困る』なんて言葉がお妃様の口から出てきたんだもんな。そりゃあ魔王も焦るに決まっている。


 ただ、魔王妃には俺を殺すつもりはなくとも、魔王にはそうする気があるのかもしれない。そこらへんは確認する必要がある。


「御呼びでしょうか、魔王陛下」


 きちんとこの国風の臣下の礼をする。ここでは油断してはいけない。


 座れと命じられたので大人しく座った。


 しばらく無言が続く。なんの話なのだろうか。誤魔化すつもりだったらもう話し始めているはずだ。

 心臓がうるさく音を立てる。どうしたらいいのか分からない。先に話し始めても……いいわけないよな。


「ウティレ」

「え! あ、はい」


 いきなり声をかけられたので変な声が出てしまった。落ち着かなければいけない。


「私の臣下になるという事はどういう事か分かっているな」

「陛下には逆らってはならないという事でしょうか?」


 何を言うかと思えば。やっぱり魔王妃との会話を気にしていたらしい。


「それも大事だな。でもお前に大事なのはそこではないだろう」

「どういう意味でしょう?」

「ヴィシュと縁を切るという事だ」


 つまり、ヴィシュに情報を持っていく事は許さないと言っているのだろうか。やっぱり釘を刺してきた。

 なのに魔王は『分かっていないな』と言って呆れ顔をしている。


「でははっきり言おう。お前はこれからキアントの姓を名乗る事は許さないという事だ。どういう意味か分かるな? ウティレ」


 その言葉に息を飲む。


 実家と完全に縁を切れ、と、いや、『寝返れば実家から完全に縁を切らせてやる』と言っているのだ。


 まさかこんな釣り方をしてくるとは思わなかった。こんな大きなメリットを出してくるとは。

 それを言えば俺がぐらついてくると気づいていたのだろう。


 つい『ありがとうございます』と言いかけ、ここでストレートな言葉を放つのはおかしいと考えてやめる。


「かしこまりました、魔王陛下」


 なのでそういう言葉を口に乗せた。


 この条件を嬉しいと思うのは、国に対する裏切りなのだろう。


「ただ、ヴィシュでの事を全て忘れる必要はない。話したい事があるのなら私がしっかりと話を聞いてやろう」


 つまりヴィシュの隠密行動で得た情報を話せと言っているのか。ちゃっかりしている。いや、国王としては敵国の情報は重要か。

 完全に魔王は俺を『裏切り者』にする気だ。


 ついでに言うなら、魔王妃の言った『ヴィシュ人を殺すわけにはいかない』も俺には全く関係のない話になってしまった気がする。


 俺はもう魔王の臣下だ。簡単に処する事が出来る。大人しくするしかない。


 魔王が臣下として忠誠を誓え、と命じてくる。

 俺は諦めて静かに魔王の目の前に首を垂れ、新たな主の命じるがままに忠誠の誓いを口に乗せた。

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