第31話 お出迎え
俺のエミールへの挑発は、魔王にとっては上出来だったようで満足げに迎えられた。ホッとする。ここで失敗をして不機嫌になったら困るのだ。
魔王達と一緒に謁見室に向かう。
多分、名目としては今の俺の立ち位置は『魔王の側近』なのだろう。ものすごく複雑な気分だ。
いや、エミールみたいにかっこ悪くなるよりはまだいいのだろうか。
謁見室にはもう既にラヒカイネン……男爵やハンニ達が揃っている。王宮魔術師の集まっている場所に控えるように命じられたので素直に従う。ここで逆らってもどうしようもない。
それにしても、魔術師達は全員紫色のローブを着ている中で俺だけただのシャツとズボン姿なのはとても目立つ。
これからここに勇者様達が来るのだそうだ。何やらヴィシュ国内に、ここにつながる秘密の転移装置があるらしい。
何で魔王がそんなものをヴィシュに置いているのか分からない。詳しい話が聞きたいところだけど、話してもらえるのだろうか。正式に寝返るというのなら聞けるんだろうけど、今の俺じゃ無理だ。
さっきはちょっと寝返ってもいいかな、と思ったけど、それは口にすると、途端に嘘くさくなるし。
どうしたものか、と考え込む。態度で上手く示すしかないのだろうか。
「ウティレ?」
ラヒカイネン男爵が話しかけてくる。一応ここで魔術師として働くという事で、もう『キアント伯爵令息』とは呼ばれなくなったらしい。
なんだかホッとするのは……きっと気のせいだろう。
とりあえず『なんでもありません』と笑顔で返事をしておいた。
それにしても、ここにしっかり人間がたくさん集められているのはどういう事だろう。ラヒカイネン一家は勢ぞろいしているし、剣士のエルッキという男性や彼の家族までいる。見知らぬハンニに似た者たちは彼の家族だろうか。
こんな所を見ても、勇者様は恐れるだけで、安心はしないと思う。もしかして恐れさせるのが目的なのだろうか。
そう考えていると、ふと、魔族の魔力が動くのを感じた。つい、その一点を見てしまう。
すぐにそこに二人の人間が現れた。
昨日、魔法映像で見ていたから覚えている。勇者様とそのパーティメンバーのパオラという女性だ。
勇者様達を魔王は威厳を込めた笑みで、魔王妃は穏やかな笑みで迎えている。
予想通り、勇者アーサー様は俺達人間を見て驚愕の表情を浮かべている。その後に見えた感情は『恐怖』だ。
かわいそうに、と思ってしまう。
隣にいるパオラも呆然とした顔をしている。でも、どこかアーサー様とは違うような。
「……え? エルッキ先輩? ベルタさん? 何で……?」
その『違う』理由はパオラの発した言葉ですぐに分かった。ああ、そういう事か。
続いてパオラはこちらを見てさらに驚いた顔をしている。
「……え? ラヒカイネン侯爵閣下?」
ああ、そりゃそうだ、というような名前が彼女の口から出た。
当たり前だな。俺だって同じような状況なら似たような反応をする。
どう反応したらいいのか戸惑っているパオラを見て、魔王は満足そうな笑みを浮かべていた。
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