第27話 迷い2
ベッドに体を投げ出す。
すごい疲労感がある。久しぶりに魔力を使ったせいだろうか。
そういえば八歳で魔術を習い始めてからこんなに魔術を使わなかった事はなかった。それに魔力を封じられるという経験も初めてだった。あんなに不安になるものなんだな。
いかに自分が今まで魔術に頼りきりだったかがよくわかる。
今は攻撃系の魔術が出せないように制限をかけられているが、害のないものは使えるようになっている。とりあえず、夜で部屋が暗いので、明かりの魔術をつけて部屋を照らしておく。
顔だけ動かして部屋の中を見渡した。
『寝返ったとみなされた』事で牢からは出られた。ただ、今いる所は当然だが客室ではない。監視付きの部屋だ。もちろん、扉の外にいつもの見張りの騎士も立っている。
お世話をしてくれる侍女はいなくなったけど、身の回りの事は大体自分で出来るから問題ない。
食事は城で働く魔族達のための食堂から持って来てくれたそうだ。これからはしばらくこういう形で過ごすのだろう。
正式に寝返るまで。
それを考えると自然と深いため息が口から出てきてしまう。もう完全に魔王の思うがままだ。俺が少しぐらついたのもしっかり気づかれてしまっているのだろう。そうでなかったらこの作戦は逆効果だ。
もし、一ヶ月前ならどうにかして逃げようとしたはずだ。そうして無様に捕まるのだ。
ああ、悔しい。そういう考えしか浮かんで来ない自分が恨めしい。でも、実際その通りだ。
「あーっ!」
悔しさのためかそんな声が自然と出てくる。その勢いでうつぶせになり、八つ当たりにベッドをバンバンと叩いた。
「どうした?」
見張りの騎士が入ってきた。俺は慌ててベッドから起き上がる。
「なんでもありません」
わざとすまして答える。途端に噴き出された。悔しい。
「大人しくしてないと、また牢屋に逆戻りだぞ」
「分かっています」
軽く脅してくるのを気にしないふりをしてやり過ごす。そして牢から出て半分寝返ったようなものになったからなのか、彼の敬語が消えている。これはいいのか悪いのか分からない。
彼が出て行くと、俺はそっとため息を吐く。
よほどの事がなければ、明日、勇者様達がゼンゲル伯爵領に着くだろうと言われている。
つまり、今日考えた作戦は明日実行される。俺がエミールに接触するのも。
これで、ヴィシュには、俺が『裏切った』という事が伝わってしまうのだろう。俺はまだ完全には裏切っていないのに。
こうして外堀を埋められていくのだ。
ただ、もし、ラヒカイネン男爵の言う通り、俺が国王陛下にとって『捨て駒』なのだとしたら、戻れたとしても、また似たような任務に出されるのだろう。
それならば、無理をしてでも逃げるのが正解とも思えない。
だからと言って、魔族を信用できるかと言ったらまだ分からない。
——こちら側に寝返るのならお前の安全は保証しよう。
魔王には二度ほどそう言われた。それが本当だったとしたら魔王側についた方が安心なのかもしれない。
とはいえ、選択肢など用意されていない。
深くため息を吐いた。本当に自分が情けない。
それでも俺は、明日、魔王達の思惑通りに動かなければならないのだ。
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