第26話 作戦会議

「あと、一度、勇者をエミールと引き剥がしたい。あれは間違いなく邪魔になる。そのための魔術の手助けをして欲しい」


 魔王が次の議題を出した。


「そういえばそれが元々今回の主要な議題でしたね」


 魔王妃が思い出したかのように呟いた。


 そんな事は知らなかった。ハンニと俺に話を聞くのはついでだったらしい。


 だったら俺はもう部屋を出たほうがいいだろうか。そう思って魔王を見る。


「ああ、そういえばウティレの魔力は封じていたな。これではこの議題では辛いだろう。封印を解いておこう」


 魔王がそう言うと同時に俺の魔力が動くようになった。


 魔王は本気で俺を王宮魔術師の一員にするつもりなのだろうか。正気なのだろうか。

 ただ、裏切ったら死が待っているし、真面目に参加するしかない。


「定番ですけれど、目くらましでもして、無理矢理引き離すのがいいのでしょうね」


 ヨヴァンカ嬢がまずそう口にした。


「そうだな。遠隔から目くらましをするならこの魔術式かな」


 ユリウス様が紙にさらさらと魔術式を書いていく。なるほど、煙的なもので互いを見えなくするのか。


「『鍵』の文字は入れないのですか?」


 つい口を挟んでしまった。みんなの視線が俺に向く。


「鍵の?」

「はい。エミールさんも魔術師なので、なんとかして術と解こうとすると思うのです。それを防止するために『鍵』の文字を入れて術式を強化した方がいいかと思いまして」

「どこに?」

「ここですね。ですからこんな感じで……」


 発言してしまったものは覆せないのでユリウス様が書いた魔術式の下に俺の考えた魔術式案を書いた。


 試しに両方の術式を発動してみる。きちんと文字の効果は出ているようだ。ほっとする。ラヒカイネン男爵からも無駄のない綺麗な術式だと褒めてもらえた。

 ただ、これはユリウス様の術式に文字を足しただけなので、素直に喜んでいいのだろうかと心配になってしまうが、まあ、いいのだろう。


「それで、そのまま、エミールはここに連れ去るのね?」

「ああ、しばらくはどこかに閉じ込めておきたい」

「それこそ、抵抗されそうですけれど……」


 それはそうだな、と思う。あの男なら全力で抵抗しそうだ。


「魔力枯渇でもさせれば動かなくなりそうですけどねえ……」

「いや、ハンニ、それ下手すると死ぬから」


 とんでもない事を言うハンニに、魔王妃が呆れた調子で苦笑している。


 でも、一歩手前ならいいような気がするけど。あのわけのわからないプライドもへし折れるかもしれないし。


「……ウティレまでそんな事を言い出すの? よっぽど嫌われてるのね、そのエミールという人は」


 つい声を出してしまったようだ。俺まで魔王妃に呆れられてしまった。


「それに、魔力枯渇させるって、基本的に持久戦じゃない? 誰がやるの?」

「お前だろう」

「私ぃー!?」


 無理だという方向で考えていた魔王妃が、その却下を魔王に阻止されて驚いている。 そのやりとりがおかしくつい吹き出してしまった。他にも同じように笑っている人がいる。

 この二人、こんなやりとりもするんだ。確かにこれなら『言いなり』ではないかもしれない。わざと俺に見せているだけかもしれないけど。


 それにしても、魔王妃がやると思われているという事は、彼女は相当魔力が多いという事だ。さすが勇者様というかなんというか。まあ、今は魔王側についてるけど。


 ただ、その作戦を実行するとなると、目くらましより、他の方法を使った方がいいという話になる。

 そして、またああでもないこうでもないとみんなで話し合う。


 楽しい。ヴィシュではこれの術を使えと命じられて実行する事ばかりだった。国王陛下に命じられた裏の仕事では、ほぼ一人で作戦を考えていた。

 こうやって話し合って、しかも俺の意見まで聞いてもらえるなんてほぼ初めてだ。

 あまりよくない案を出して却下される事もあるが、それはそれで勉強になっていい。


 そんな風に夢中になっていると、魔王の視線を感じる。どうやら表情に出してしまったらしい。満足げに俺を見ている。


 別に俺はほだされたわけではない。帰れるものならまだ帰りたいと思っている。なるべく自然に見えるように顔をそらした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る