第11話 不安
鉄格子のはめられている窓から外を眺める。今の俺にはそれくらいしかする事がない。
囚人が窓の外を見ているのだ。最初は魔族達も警戒してずっと側にいた。だが、本当に窓の外を見ているだけなので、一応は安心したようだ。今は後ろに立たれることもないので少しはリラックス出来る。
だからと言って逃げられるかといえば、答えは否だとはっきりと言える。
見張りは見える所にいないだけで間違いなく控えているし、外にだって脱走防止の罠くらいあるだろう。それで捕まったら今度こそ地下牢だ。
それにしても、俺はこれからどうなってしまうのだろう。
食事はきちんと三度出る。魔族もずっと王妃の指示に従うのは面倒なようで、だんだんとスープの具が大きくなってきている。とはいえ、まだ柔らかく、スプーンで軽く押さえるだけで潰れてしまうほどだが。
ただ、プロテルス公爵邸みたいに腐った食べ物は絶対に出てこないのがいい事だ。安心して食べられる。そして量も少しずつ増えてきてる。最初の量が少なすぎて罪悪感でも沸いたのだろうか。何にせよ、きちんと食事が出来るのはいい事だ。
あとは眠るか、ぼーっとするか、今回のように窓の外を眺めるくらいしか出来ない。こんなに一日中何もしないのは初めてではないだろうか。
待遇は本当に悪くない。お世話という名目でつけられた見張りだからか、身だしなみも整えてもらっている。
ただ、それで油断するわけにはいかない。これはきっと公開処刑のための準備だ。
ガリガリに痩せ細ってみすぼらしい『弱者』を処刑すると問題だから、少しでも太らせて同情をさせないようにしているのだろう。そのために食事をするのは悔しいが、食欲には勝てないので大人しく従っている。
今日で『年末』は終わり、明日から新しい年が始まる。俺の処遇もそろそろ決まるはずだ。俺を処刑するという決定が。その前に罪人として裁判にでもかけられるのだろうか。でも、行き着く先は決まっている。
ぎゅっと唇を噛み、目をつむった。
「死にたくない……」
そう呟く。魔族からすれば、あんなことをしておいてよくもそんな事を考えられるな、とでも思いそうな発言だ。
でも、俺だって弱音くらい吐きたい。
死にたくない、と今度は心の中で呟く。
本当に自分は甘い。そして弱い。
こんな事をしたんだ。殺される覚悟くらいはしておくべきだ。殺されて当然なんだ、俺は。だから諦めろ。
そう自分に言い聞かせる。
もう一度ため息を吐いてから改めて鉄格子越しに夜空を見る。現実逃避でしかないが、大好きな星空を見れば少しは気分が落ち着く。
辛い時はいつも星空を見ていた。伯爵家ではあまり長く見ているとメイドにカーテンを閉められてしまうけど、ここではそんな事はない。
だからゆっくりと眺められる。まあ、監視のために後ろに立たれる事はあるけどそれは仕方がない。
明日。きっと明日何か変化がある。何が起こるかは分からない。でも、ある程度覚悟をしておいた方がいいだろう。
覚悟。そう考えると怖い。
もう一度唇を噛む。そうして頭からいろんなものを追いやった。
全てを断ち切るために自分でカーテンを勢い良く閉じる。そうして湯浴みをする為に立ち上がった。
明日は来なければならないのだ。
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