第6話 魔族の元で

 生い立ちを話し終わってホッと息を吐く。

 こんな事を話したくはなかった。


 魔王達も複雑な表情をしている。さすがに重い話すぎたようだ。


「それで? お前はどうしてプロテルス公爵の所へ? さっき言っていた『奴隷』ではないのだろう?」


 だが尋問は終わらない。しかも答えにくい質問だ。


 プロテルス公爵というのはヴィシュ王国に協力してくれている魔族の貴族の事だ。その魔族の協力があったから俺はこうやって魔王城に潜入する事が——失敗したのだが——出来た。


 プロテルス公爵に関しては、どんな目に遭おうが関係ない。

 だが、この質問は公爵とヴィシュ王国の国王との関係を答える事になる。そうなると、酷い目に遭うのはヴィシュ王国も同じだろう。


 まあ、聞かれない限りは誤魔化せるところは誤魔化しておきたい。


 それにしても、『奴隷』か。


「似たような境遇でしたけどね」


 ついそう呟いてしまう。あれは本当に酷いものだった。


「何をされたのです?」


 魔王妃が尋ねてくる。少し俺に同情してくれたのかもしれない。

 だからあえてしっかりと話す。


「ここへの潜入ルートを教わるために行きました。それから魔族語も覚えた方がいいということでそれも教わりました。しかし、どうやらあの魔族は人間がお嫌いなようで、酷い目に遭ったのです」


 悲しそうな口調でそう言った。


 でも、あれは『お嫌い』なんていう生易しいものではなかった。

 あの魔族達は本当に俺を『奴隷』か何かだと勘違いしているのではないかと何度も思った。


 殴る蹴るは兄達と一緒だが、それ以外にも与えられたノルマをこなさなければ食事を抜かれたりする。というか、まともな食事を出してもらった覚えがない。時々魔族の魔術で攻撃もされた。おかげで今の俺の体はボロボロだ。何度も死を覚悟したくらいだ。

 彼らはきっと『人間』を嫌悪していたのだろう。利用出来るから利用するが、はっきりと見下していたのが態度からよく分かった。『人間はクソ』だと何度言われたかわからない。


 それはここにいる魔族達も同じだろうが。


「人間を見下す、か」


 魔王がそう静かにつぶやいた。魔王妃がため息を吐いている。そういえばこの少女も人間だった。人間を妃にしているから、魔王は多少は人間に対する嫌悪感は少ないのかもしれない。


 この二人は俺の思惑通り、多少は同情してくれただろうか。


「それでも公爵は私にも好印象を持っていない。そうだろう?」


 魔王が冷たい声でそう言った。


 それはその通りだ。どうやらそのプロテルス公爵は魔王になる野望を持っているようだ。


 それには今の魔王家を滅ぼす必要がある。だからこそ、こうやって切り崩そうとしているのだ。それに利用された俺が言うのもなんだけど。


 ただ、もし今回の計画が成功していたとしても、彼の思惑通りにいかないはずだ。いずれ彼の事もヴィシュは『なんとかしようと』しただろう。


 その時に公爵はどうしたのだろう。『騙された』と憤るのだろうか。そういう姿は見てみたい気がする。俺を苦しめた魔族の末路を。


 そういうヴィシュ王国側の思惑は隠した上で、彼の企みだけはきちんと話す。もしかしたらこちらが手を下さなくても公爵が自滅するかもしれない。それも期待しての事だ。


 彼がどうなろうと俺の知った事ではない。


 そんな事を考えていると少しだけ気分が良くなる。うつむきながらも唇が冷たく上がるのが自分でも分かった。

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