第42話 シスコン姉妹は愛し恋する

「真恋上がったよ」


「うん、おかえり」


 さっとシャワーを浴びて汗を流した私は自室へと戻ると、真恋はまだ起きていて、椅子に座っていた。


「先に寝ててもよかったのに」


「1人だとなんだか寂しくって。お姉ちゃんの匂いがすると余計」


「そっか、じゃあ寝よっか」


「うん」


 私がベットに入って布団を広げると真恋はいそいそと中へ入ってくる。


「やっぱり、お姉ちゃんあったかい」


「そう?真恋もあったかいよ」


 数日前にもしたような会話。しかし、なぜだか今感じている熱の方があの時よりもあったかい気がする。

 それからしばらく、無言の時間が続いた。あんな提案をした後だし、どんな会話をすればいいのか迷っているのかも知れない。


「真恋、お話しよっか」


「いいよ、何の話する?」


「そうだなぁ、中学校での真恋の話はどう?」


「それって私だけ?私はお姉ちゃんの話が聞きたいな」


「いいけど、まずは真恋の話が聞きたいな」


「……お姉ちゃんは日記見てたし知ってるんじゃない?」


「うっ、あれはその……」


「ふふっ、ごめん冗談。まずは私からね」


「!うん!」


 今日目が覚めてから、初めて笑い声を聞くことができた。


「うん、やっぱり」


「?何?」


「ううん、笑顔の真恋が一番好きだなって」


「っ!覚えてたの?」


「覚えてたっていうか、さっき思い出したんだ」


「そっか、嬉しい」


「そんなことで?」


「そんなことでもだよ。私が今まで言われて嬉しかった言葉No.3だもん」


「No.3なんだ……」


 ということは少なくとも後2つはあるということだろう。正直言って心当たりがない。というより三年前までは発言1つ1つに気を使って頼れるお姉ちゃんを演出することに力を入れていたから何を言ったかあまり覚えていない。バレたらすっごい怒られそうだから言わないでおこう。


「あ、そうだ。私の話だよね。どこから話そうかな」


「それじゃあ親友さんの話とかは?」


「あ、そっか。あの日記にも書かれてたっけ?それじゃあその話から」


 それからは真恋の中学校での話を聞いて、反対に私の大学での話をして、気づけば眠りに落ちていた。真恋の寝顔を見てないから私の方が先に眠りに落ちたのだろうか?病気のせいで疲れていたのだろう。

 目が覚めると、目の前には真恋の可愛い寝顔があった。私はそのあどけなさの残った顔へと手を伸ばし、頬を撫でる。柔らかな感触と確かな弾力がそこに彼女がいることを示してくれる。親指を唇の方へ持っていき軽く引っ張ると、真恋はくすぐったそうに口を動かす。私と同じシャンプーと真恋特有のものが混じった香りが私の鼻腔をくすぐる。

 私は真恋へと近づき、その艶やかな唇に口付けを――


「んんっ……」


「あっ……」


 する寸前で真恋の声を聞き私は踏みとどまる。これでは三年前とおんなじだ。


「ん?お姉ちゃん?」


「あっ……真恋、おはよう」


「うん、おはよう」


 至近距離のまま、真恋が目覚める。私は若干の気まずさを覚えながら真恋に挨拶を返す。


「……お姉ちゃん」


「な、なぁに?」


「なんでこんなに近いの?」


「えっと、起きたらこの距離で……」


 案の定、真恋は私との距離が近いことに疑問を覚えたらしく、私は下手な言い訳をして視線を逸らす。


「お姉ちゃん、顔真っ赤」


「そ、そうかな?そんなことはないと思うんだけど」


「いや、絶対そう。お姉ちゃん、私の顔に見惚れてたの?」


「いや、その」


 どうやら表情に出ていたらしく、私はすぐ顔を逸らす。それを見て真恋は笑みを浮かべて私をからかってくる。


「ねえお姉ちゃん、こっち向いて」


「え?」


「はーやーく」


「は、はい!」


 真恋に促され私は逸らした顔を元の位置に戻す。すると真恋は両手で私の頬とはさむ。


「動かないで……ちゅっ」


「んっ!……」


 私は驚きはしたもののそれを受け入れる。唇を合わせるだけの軽いキス。真恋はすぐに離れニヤリと笑みを浮かべて私の方を見る。


「これが私の答え。だけど条件付きね」


「条件?」


「お姉ちゃんからもして」


「えっ!?」


「だってお姉ちゃんの気持ちも調べるんでしょ?ならお姉ちゃんからもしないと不公平だよ」


「えーっと……」


「ほら、早く」


 私が戸惑っていると真恋は急かすように唇を突き出してくる。先ほどお預けを食らってしまった唇に目がいってしまう。私は目を閉じ待っている真恋の唇に自分の唇を近づけ口付けをする。


「……今回は逃げないね」


「逃げないよ……そういう提案だもん」


 私はそう答えたが、内心では逃げ出したいと思っていた。しかしそれは、三年前の罪悪感によるものとは違い、至近距離で見られているという羞恥心からくるものだった。


「お姉ちゃん、さっきよりも顔真っ赤だよ」


「もう、やめてよぉ。見ないで」


「ねえお姉ちゃん、私の気持ちわかった?」


「まだわかんないよ」


「それじゃあ、私に恋した?」


「もう、気が早いって」


「ふふっ、なんか楽しくなってきた」


 真恋は私に抱きつき耳元で囁く。


「これからよろしくね、お姉ちゃん」


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