第41話 恋心は人知れず動き始める
「んむ……?」
「あ、起きた?」
「うみゅぅ……っ!」
薄く目の空いた真恋に声をかけると、可愛い声を漏らした後しばらくしてから私を見て飛び起きる。
「あ、お、おね」
顔を真っ赤にしながらあわあわとしている。
「おはよう真恋」
「!お、おはよ……」
私が再び声をかけると、真恋はピタッっと動きを止めて小さく挨拶を返した。
「あ、あの、お姉ちゃん、あの」
真恋はコアリクイのように手を広げ、その姿勢のままその場に立ち尽くしている。私はなんとなくどうしたいのかわかり、同じく手を広げ、真恋を招き入れる。
「はい、ぎゅー」
「っ!?っ!は、離して!」
私から抱きしめられたことに驚いたのか、真恋は声も出せずにそのポーズのまま固まっていたが、しばらくしてから嬉しそうな顔をした後、すぐさま抜け出そうと抵抗しだした。私の思っていた通り、抱きつきたいけど拒絶した手前そんなに甘えていいのか迷っていたようだ。
「真恋、抵抗しないで」
「でも!」
「話、聞いて。お願い」
「っ!……うん、約束したし」
私自身にはなんの覚えもないが、いつの間にか話をする約束を交わせていたようだ。私は抵抗をやめた真恋を抱きしめたまま言葉を続ける。
「真恋、私の看病してくれてありがとう。大好きだよ」
「っ!」
「でも、今の私の好きは真恋に答えられるような気持ちじゃないの。それはもうわかってるよね?」
「……うん」
「でもね、私、自分が答えられないからってそれで結論づけるのはやめることにした。真恋にだって気持ちはあるし、私だって自分の気持ちを100%わかっているわけじゃない」
「?」
「だからね、真恋。しばらく、私と一緒に生活しない?」
「……なんで?」
「うーん、確認かな」
「確認?」
「うん、確認。私は、真恋の恋心は親愛からくる勘違いだと思ってる。それは今でも変わらない。でも、それを何も確かめずに否定するのは違うって、そう思うようになったの。私だって、真恋が好きって気持ちが親愛かどうか改めて聞かれるとよくわからないし、気が変わらないとも限らないもん。だから確認するの」
「一緒に暮らして?」
「そう。真恋は、今日の朝宣言した通り、真恋は私のことを堕としに行く。私はそれを受けて真恋が本当に私のことが好きなのか、私は本当に真恋に恋してないのか確かめる。それで、私が真恋のことが好きって思えたら付き合う。それでどう?」
「……それって逆にどうしたら私がお姉ちゃんに恋してないってわかったり、お姉ちゃんが私のこと好きじゃないってわかったらどうするの?」
「まあ、それはおいおいってことで」
この提案は、結局のとこ私が真恋と離れたくないだけのエゴだ。期限もなければ負けもない、ただ真恋と付き合うか、現状維持のままかだ。真恋と付き合うことになってもならなくても、ずっと真恋と一緒にいられる。私としては徳しかない提案。
「どうかな?真恋、改めて、ここに一緒に住まない?」
「……」
私がそう聞くも、真恋は黙りこくって俯いたままだ。そりゃそうだろう。こんな意味のわからない提案、すぐに受け入れられるとは考えていない。
「まあ、すぐには難しいよね。春休みはまだあるし、ゆっくり考えればいいよ。あっ、もし一緒に住まないことになっても真恋の家なら別に借りてあげるから。この三年間でそこそこ貯金溜まってるから任せて!」
「……」
「あ、あはは……」
家がなくなるなどの理由で選択しないようにフォローを入れたつもりが、なんだか微妙な雰囲気になってしまった。思わず私は愛想笑いを浮かべる。
(まだ本調子じゃないからか少しだるいし、今日は素直に休もうかな。あ、でも汗でちょっと気持ち悪いな)
「私、ちょっとシャワー浴びてくるね」
「あ……うん」
私がそう言ってから抱きしめていた真恋を離すと、真恋は少し寂しそうな声を漏らした後、私から離れてくれた。
「……ねえ真恋」
「何?お姉ちゃん」
「今日なんだけどさ、その……一緒に寝る?」
「っ!」
私は、真恋の声を聞いて思わずそう提案してしまう。
「ほらその、お試しみたいな感じでって、ダメか。私今風邪ひいてるし。真恋も風邪ひいちゃうかも」
「……寝る」
提案した後から自分が病人だと言うことを思い出し、今の提案を取り下げようとすると、真恋は小さくそう返した。
「でも、私風邪ひいてるし」
「マスクつけるから大丈夫」
「もし風邪ひいちゃったら」
「その時はお姉ちゃんが看病して」
私が口を滑らせてしまったのが原因とはいえ、真恋はどうも引かない様子。それを見て今回は私が折れることにした。
「わかった。真恋はつきっきりで私の看病してくれたんだし、それくらい返してあげないとね。私、シャワーから上がったらそのままもう一度寝ようかと思ってるけど、真恋はどうする?」
「私も寝る」
「シャワー先入る?」
「ちょっと前に入ったから大丈夫」
「そっか、じゃあ先に待ってて」
そう言ってから私はシャワーへ向かった。寝汗でぐっしょりと濡れたパジャマを脱ぎ捨て、浴室へと入った私は頭から思いっきり冷水をかぶる。
「もうっ!何言ってんの私!」
さっきから顔が熱くなりっぱなしだ。鼓動も昨日真恋を連れて逃げた時の何倍も早いような気がする。何十秒も冷水を被り続けてもその熱は治まりそうにない。
「風邪って、こんなにしんどかったっけ?」
息も荒くなり、胸が締め付けられるように痛くなる中、私は誰かに言い訳をするようにそんな言葉をつぶやいた。
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