第40話 藤咲愛純は愛しの妹を眺める

「んん……」


 目が覚めると、私は自室のベットの上にいた。先ほどまで見ていた過去の夢とは違う、上京先の家の自室だ。先ほどの夢とは違い、体はだるく勝手に動くこともない。夢の中で見ていたおかしな夢とも感覚が似ている。


「って、あれは現実か」


 夢だと勘違いするほどに意識がぼやけていた。それほど酷い風邪を引いていたのだろう。思えば、あの男を殴り飛ばせたのは真恋に聞きが迫っていたことだけでなく私自身が危機的状況になっていてブレーキが外れていたのかもしれない。火事場の馬鹿力と言うやつだったのだろう。

 意識が完全に途切れる前、私の目の前には真恋がいたはずだ。真恋は何かを喋っていた気がするが、あの時の私は聞こえてくる音全てがくぐもっていて聞き取ることができなかった。そもそも、私はあの時伝えたかったことを最後まで言えなかったような……


「真恋!……あ」


 窓から入ってくる光から、今が大体夕方であろうことはわかるが正確な時間はわからない。あれからどれだけの時間が経ってしまったのだろうか?私はもしかしたらもう真恋が去ってしまっているかもしれない、と不安なり、探すために飛び起きようとすると、右手に引っ張られる感覚を覚える。何かと思い右手を見ると、そこには私の右手を握り、ベットに頭をもたれて眠る真恋の姿があった。真恋の近くにはコンビニで買ってきたのかレジ袋に入ったスポーツドリンクやゼリー飲料が置かれている。


「よかった、まだいてくれて」


 私は真恋がまだ帰っていなかったことにひとまず安堵し、私は体の力を抜き再びベッドへ倒れ込む。たった数秒力を入れただけでなんだかどっと疲れたような気がした。


 私が倒れ込んでから数秒ほどして、部屋の扉が開く音がする。そちらに目をやると、牡丹が部屋に入ってくるところだった。


「愛純さん!目が覚めたのですね」


「うん、迷惑かけた……のかな?」


「いえいえ、大体のことは真恋さんがやってしまいましたから」


「そっか。それで、牡丹はどうしてここに?」


 牡丹の言葉にこれ以上言うのも野暮だろうと思い、私は別の質問を投げかける。


「愛純さんが飛び出してからしばらくして、愛純さんのダウンが私の部屋あるのを見つけまして、外は雪が降っていたので心配になって電話をかけたのです。そしたら、妹さんの方が電話に出て、愛純さんは倒れたなんておっしゃるものですから。私、心配になって住所を聞いてお邪魔させてもらったのです。幸い、命に別状のあるような病気ではなかったようで安心しましたが、それでも長い間目を覚まさないものでしたから心配になって、昨日お家に泊めさせていただいたのです」


 昨日……と言うことはほぼ一日寝てたようだ。


「そっか。ありがとう牡丹、助かったよ」


「それなら真恋さんに伝えてあげてください。愛純さんが心配で夜も寝ずにここで愛純さんのことを見守っていたのですから」


「わかった。起きたら伝えとく」


「……真恋さんにはもう伝えられたのですか?」


「いや、まだできてない。伝える寸前で気絶しちゃったみたいで」


「そうですか。なら、それも揃えて伝えてあげてくださいね」


「うんわかってる。もう逃げないよ」


 牡丹の言葉に私はそう答える。どうやら牡丹にも色々と心配をかけていたようだ。


「聞くのが遅くなってしまいましたが、愛純さん、体調の方はどうですか?」


「少しだるいけど、動けないことはないかな」


「そうですか、なら私はそろそろ帰りますね。二人きりの方がいいでしょうし」


「なら送っていくよ」


「ダメです、病人は横になっていてください」


 私が牡丹を送ルため立ちあがろうとするも、牡丹に手で静止されてしまう。


「大丈夫だよ、玄関に行くくらいなら」


「だからダメですって。それに、今立ち上がったら真恋さんを起こしてしまいますよ」


「あ、そうだった」


 私はベットの横にいる真恋へ目を向ける。限界まで起きていたのか真恋の目の下にはくっきりとクマができている。今起こすのは可哀想だ。


「ポストに入れておきますので鍵を借りて行ってもいいですか?」


「うんいいよ。玄関の横に置いてあるから」


「わかりました、それじゃあお大事に」


「ありがとう」


 牡丹が出ていきしばらくして玄関の鍵が閉まる音が聞こえる。それを聞き届けてから私はもう一度真恋へと目を向ける。真恋は疲れのせいか少しキツそうな体勢なのにスヤスヤと眠っている。


「んんっ……」


 右手に少し力を入れると、真恋は声を漏らしながら握り返してくれる。


「ありがとね、真恋」


 私はそう声をかけながら空いている左手で頭を撫でる。すると、真恋は心地よさそうに笑みを浮かべた。それを見て私も自然と笑みが溢れる。


「早く起きないかなぁ」


 お礼がしたいし色々と話したいこともある。私は真恋が起きるまで頭を撫でながらその顔を眺めていた。


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