第35話 藤咲愛純は頼れる親友に恵まれる
「はぁ、はぁ、真恋!どこっ!?」
『さよなら』という一言を残して真恋が失踪してしまった。すでにマンションから見える範囲にはいなく、私は真恋を探して街中を駆けていた。
「真恋!真恋!」
真恋を探して私は一緒に行ったことのある駅方面へと走っていた。すでに周囲は暗くなっていて、光源は街灯しかない。時折帰宅中の帰宅中のサラリーマンや部活終わりと思われる学生を見かけるが、真恋の姿は全く見当たらない。
「どこなの……真恋!」
「愛純さん!」
真恋を探して数分、駅近くに来たところで私に話しかける声が1つ。反射的に振り向くと、そこには牡丹の姿があった。
「愛純さん、どうしたんで――」
「牡丹!真恋を見なかった!?」
「真恋……あ、妹さんのことですか?」
「うん、さっき家を飛び出していっちゃって。確か黒髪で黒いダウンを着てたはずなんだけど」
「すみません、私は見てません」
「そう、大丈夫。私、もう行くから!」
「あ、待ってください!」
そう言って私が走り出そうとすると、牡丹が私の腕を掴んで止めてくる。
「当てはあるんですか?」
「ない……けど早く見つけないと」
「なら1回冷静になりましょう。闇雲に探しても見つかりません」
「でも!」
「愛純さんお願いです、私を頼ってください」
「……うん、ごめん。ちょっと冷静じゃなかった」
牡丹の言葉を聞いて少し冷静になれた。行方がわからない以上、闇雲に探していても見つかる可能性は低い。
「一度私の家で話を聞かせてもらえますか?もしかしたら何かわかるかもしれませんし」
「でも、その間にもっと遠くに行ってたら」
「どうしてそうなったのかは知りませんが、何も探すだけが解決法ではないのでは?」
「それは、確かに」
「私も一緒に考えますから、一度落ち着いてみましょう」
「……わかった」
私は今すぐ真恋を探しに行きたいという気持ちを抑えて牡丹についていくことにした。
♡ ♡ ♡
「……暑い」
牡丹の家についた私は、ずっと着たままだったダウンを脱いだ。走っている間にかなり汗をかいていたようで、下に来ていたTシャツはびっしょりと濡れていた。
「お待たせしました」
牡丹が淹れてきたココアを渡してくれるが、さっきまで走っていた私はあんまり熱いものを飲む気にはなれずそれをそのままローテーブルに置く。
「それで、何があったのか教えてくれますか?」
テーブルを挟んで反対側のクッションに座った牡丹が私にそう聞いてくる。私は牡丹に事情を話そうとして、思いとどまる。間接的とはいえ、こうなった原因の1つには牡丹も関わっている。私の話を聞いて、もし気に病ませてしまったらどうしよう。そもそも、これは家庭内の問題だ。牡丹に気を使わせるわけには――
「愛純さん」
そんな頃を考えていた私に、私を呼ぶ牡丹の声が聞こえる。顔を上げると、牡丹が真剣な表情で私を見ていた。
「私は愛純さんが何を考えてるのかはわかりません。だから、私の正直な気持ちを伝えます。私は、恩返しがしたいんです。昔、私を救ってくれた恩を。だから、話してください。愛純さんのためにも。私のためにも」
「牡丹……でも、私だって救われた。真恋とのことで沈んでいた私を引っ張り上げてくれたのは牡丹。恩返しなら十分してもらったよ」
「いえ、愛純さんが立ち直れたのは真恋さんのおかげです。私はこの三年間、ちゃんと愛純さんを救うことができませんでした」
「そんなこと」
「あります。だって、今愛純さんがまた三年前のようになってないのは、真恋さんに嫌われていないってわかってるからじゃないですか?」
「っ!それは……」
確かに、真恋がいなくなったと言うのに私は三年前ほどの絶望を感じていない。真恋が私のことが好きと言ってくれたのが私を支えてくれているからだ。
「もし、愛純さんがそれでも納得できないのなら、今は貸しにしておきますからいつか私に返してください」
「貸し?」
「はい。私は、何か恩があるからではなく、親友としてあなたを助けます。だから、今は素直に頼って、いつか返してください」
「牡丹……」
そう言った牡丹は、今まで感じたことのないような頼り強さを発していた。いや、きっと気づいてなかっただけで牡丹はいつもこんな感じだったのだろう。私はそれに惹かれて、気付かないうちに彼女に寄りかかっていたんだ。
「やっぱり、牡丹はもう私を救ってくれてるよ」
「そうですか……」
「うん。でも、今日は頼らせてもらおうかな。親友として」
「!愛純さん!」
「お願いしてもいいかな?」
「はい!任せてください!」
私は牡丹の言葉に素直に甘えることにした。私の言葉を聞いた牡丹は、どこか嬉しげにそれに了承した。
「ようやく愛純さんのお役に立てます!」
「もう、貸なんじゃなかったの?」
「それは建前です!私個人の考えとは関係ありません!」
「それ、本人を前にして言う?牡丹って、見た目通り結構
「え?それって褒めてます?」
私には勿体無いほどのいい親友だと思いながら、私は真恋との間にあったことを話し始めた。
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