第33話 藤咲真恋は愛する姉の後を追う

「それじゃあ、行ってきます!」


「あ、ちょっとお姉ちゃん!」


 私の呼び止めも虚しく、お姉ちゃんは出かけていってしまった。


「もう、この朝食どうするの」


 リビングへ戻り、文句を言いながら朝食にラップをかけ、冷蔵庫へと仕舞う。冷蔵庫の中にはほとんど食材が入っておらず、一昨日引っ越して来た時に持ってきたママからの仕送りももうレトルトやインスタント以外はほとんど使ってしまった。


「暇だし、買い物にでも行こうかな」


 そう思い、私は携帯の地図アプリを開こうと携帯を取り出す。一昨日来たばかりで土地勘もないので、スーパーやコンビニの場所もわからない。住宅街なので近くにはあると思うが、もしなかったら今日の食事は少し寂しくなってしまうだろう。

 取り出したスマホでアプリを開こうとして、その横にあった別のアプリに目が留まる。登録してある端末の位置を知る事のできる位置共有アプリ、昨日のうちに(勝手に)お姉ちゃんのスマホを登録していたのを思い出す。


「そういえば、お姉ちゃん寒そうな格好だったな」


 時間がないと言っていたお姉ちゃんは、上着もバッグも持たずに携帯だけ持って出かけていってしまった。お姉ちゃんの部屋を覗くと、入り口近くのコートハンガーにはお姉ちゃんのダウンジャケットとバッグが吊るされていた。


「せっかくだし、持っていってあげようかな?」


 私は、買い物用のエコバックや財布などと一緒にお姉ちゃんのダウンとバッグを持って家を出る。スマホの位置共有アプリを開くと、お姉ちゃんはどうやら昨日使った駅前にいるようで、待ち合わせをしているのか動いている気配がない。私はお姉ちゃんの待ち合わせ相手が来る前に間に合うように少し足を速めながら駅前へと向かう。


 駅前に着くと、ロータリーを挟んで向こう側にお姉ちゃんの姿が見える。ちょうど待ち合わせ相手も来たようで、金髪のギャルっぽい人がお姉ちゃんに近づいているところだった。


「この前言ってた友達の人かな?」


 だったら挨拶したいなと思いながら近づこうとすると、私の目には金髪の人がいきなりお姉ちゃんの頬に手を添える様子が飛び込んでくる。


「なっ!?」


 その様子に思わず驚き足を止めていると、金髪の人がお姉ちゃんの手を引っ張りながらその場を後にする。


「……友達……なんだよね……?」


 先ほどの様子に私の中に疑問が生じる。中学校の時はあんな距離感の人達もいなかったわけではない。あれくらいなら親しい友人と言われても別におかしくない。だが、その片方が自分の思い人となると話は別だ。気にしすぎなのかもしれない、けど、気になってしまう。


「後をつけてみようかな?」


 すでに見失っていたお姉ちゃんたちを追うため再びアプリを開くと、お姉ちゃんは商店街の通っている最中のようだった。

 私は、自身の不安を払拭させるためにお姉ちゃんを追い始めた。


 ♡ ♡ ♡


「で、来たはいいけど……」


 私は注文したケーキを食べながら店内を見渡す。イートインのついたケーキ屋の店内には何人か客はいたが、そこにお姉ちゃんの姿はなかった。念の為もう一度位置共有アプリを開くと、やはりお姉ちゃんはこのお店にいると示している。


「ってことは、店内じゃなくて上?」


 外観からこの建物には二階以上あることは確実だ。ここにいないと言うことは上の階にいると言うことなのだろう。


「そういえば、一昨日買ってきてたケーキも友達のお店って言ってたな」


 お店の名前に覚えがあると思ったら、どうやら一昨日食べたケーキのお店だったようだ。つまり、お姉ちゃんはケーキ屋に来たわけじゃなくて友達の家へ遊びに来たと言うことになる。その事実にますます不安になりながらも、友達の家へ遊びに行くくらいなら全然普通かとも思う。


「早くお姉ちゃん出てこないかな」


 頼んだケーキの最後の一口を食べ終え、セットで頼んだコーヒーを飲みながらスマホを眺める。開いているのは写真アプリ、ママやパパのスマホやデジカメからもらった写真が2000枚ほど入っていて、その半分以上はお姉ちゃんが写っているものだ。


「やっぱり三年分すっぽり空いちゃうのは寂しいな」


 お姉ちゃんの写真のまとめられたアルバムを見ながらそう呟く。一番新しい写真は、昨日、お姉ちゃんと一緒にショッピングモールへ行ったときに撮ったもので、少しスクロールするとお姉ちゃんの高校の卒業式の時の写真が出てくる。


「お姉ちゃん自分お写真とか撮ってないだろうし……あの金髪の人に言ったらもらえないかな?」


「うう、さむっ」


「っ!お姉ちゃん?」


 大学生のお姉ちゃんの写真をどうにか入手できないかと考えていると、お店の奥の方からお姉ちゃんの声が聞こえてくる。その直後、バタンと扉の閉まる音がしたのでおそらく裏口かどこかから今外に出たのだろう。


「あ、そうだ。ダウン渡さなきゃ」


 お姉ちゃんの寒いと言う言葉を聞いて私は本来の目的を思い出す。残っていたコーヒーを飲み干し荷物を持った私は、お店を出ての裏口があると思われる方へと進む。思っていた通り、そこにはお姉ちゃんと先ほどの金髪の人がいた。しかし、お姉ちゃんの身には何故かダウンが身につけられていた。物陰に隠れて話を聞いていると、どうやら金髪の人が貸したものらしい。しかし、私にはそれが逆に気がかりだった。


「あのダウンって、昔お姉ちゃんが使ってたやつのような……」


 スマホを開いて写真を確認すると、やはり三年前に使っていたものとそっくりだ。しかし、よく見ると細部が違っていて、よく似た別物だとわかる。


「偶然かな?……とはいえ、これ、持ってきた意味無くなっちゃったや」


 私は、すっかり用済みとなったダウンに視線を落としながらそう呟く。もう用事がない以上、これ以上お姉ちゃんについていく必要はない。しかし私にはどうしてもあのダウンが引っかかっていた。


「まあ、やることもないし」


 私はそんな言い訳にもなっていない言葉を呟き、再びお姉ちゃんの追跡を続行した。

 

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