第31話 真恋の日記

2023年

 

 10月29日


 中学校生活最後の合唱コンクールが終わった。お姉ちゃんの背中を追って入った合唱部は思っていたものよりもずっと大変なものだった。顧問に聞くと、お姉ちゃんがいつも早く帰って来ていたのは、顧問にテストをしてもらい自分の実力を示すことで練習を免除してもらっていたそうで、理由を聞くと「妹と一緒にいたいから」と言っていたそうだ。私には到底そんな技量はない。お姉ちゃんの凄さを改めて実感するとともに、私のためにわざわざそんなことまでしてくれていたと思うと嬉しいような少し恥ずかしいような感じがする。

 最後の合唱コンは、金賞に終わった。満足な結果だし、出し切ったとは思うけれど、どこか満足していない。もしお姉ちゃんが聞いてくれていたのならどんな結果でも満足できたのだろうか?

 合唱コンは終わってしまったが、本命は高校の入ってからのバンド活動だ。毎日受験勉強の合間を縫ってギターの練習しているし、この三年間で歌も上手くなった。あとは高校に入ってメンバーを集めるだけ。今度こそお姉ちゃんに聞いてもらうためにも、絶対に一ノ瀬高校に合格しないと。


 11月3日


 合唱部の同級生の男子に告白された。正直男子に興味はないし、その同級生との交流もなく名前も知らないので丁重に断らせてもらった。しかし、あの男子もかなり本気だったらしく、その後も何度も頭を下げてお願いされた。流石に少し悪いなとは思ったものの、お姉ちゃん以外と付き合う気なんてないので改めて断らせてもらった。今の私はお姉ちゃん一筋だ。でも、もし三年前のあの時なら私はどうしていただろうか?現実に打ちのめされて心も弱っていた私になら、あの男子の告白は届いていたのだろうか?いや、そんなこと考えても無駄だ。あの日、私を否定したみんなをお姉ちゃんは否定してくれた。受け入れてくれた。だから、私にはお姉ちゃんしかいないしお姉ちゃん以外なんてありえない。あの男子には悪いけど諦めてもらうしかない。


 11月15日


 あの男子がまた告白してきたので他に好きな人がいるからもう関わらないでと言った。諦めさせるためとはいえ、私の突然の思い人発言に友達には根掘り葉掘り聞かれたし、唯一知っていた親友は爆笑して私の様子を見ていた。あいつには今度何か奢ってもらおう。


 12月9日


 部活の後輩達に三送会へ招待された。久しぶりに訪れた放課後の音楽室は部活とはいえパーティーということもあり普段は厳格な空気の合唱部がほんわかとした空間になっていた。真面目な顧問が頭にキャラモノのカチューシャをつけていたのは不覚にも笑ってしまった。

 私に告白してきた男子も三送会にはいたが、私の拒絶が効いたのかあれ以降何の接触もなかった。これで受験やお姉ちゃんのことに集中できる。

 

 12月25日


 世間ではクリスマスで、後輩にはパーティーに誘われたけど、私は勉強に集中するために誘いを断った。ママには棍を詰めすぎなんじゃないかと心配されたが、どうしても一ノ瀬高校に入りたいからって説明したら応援してるって夜食を作ってくれた。受験本番までもう二ヶ月を切っている。しばらくは勉強に集中してギターは控えめにしよう。


2024年

 

 2月21日


 今日、本命の一ノ瀬高校の入試があった。クリスマス以降、ギターは休み日記もなんだかんだ書くことがなくずっとサボっていた。元々何かあった時に書いていたから気にはならないけど流石に2ヶ月近くも休むと何だか少し罪悪感がする。

 他の滑り止めの入試もすでに終わっているからあとは結果を待つだけだ。入試本番では緊張してなかったのに、これで進路、そしてお姉ちゃんとの関係がどうなるかが決まってしまうと考えると緊張してしまう。おかげでベッドに入っても眠れない。早いところ結果が出て欲しいと思う反面、ずっと結果が出てほしくないとも思う。とりあえず、眠れないのは仕方ないのでリハビリのためにもギターの練習でもして気持ちを落ち着かせようと思う。


 3月1日


 ついさっき、一ノ瀬高校の合格が発表された!今までの緊張から一変して今は胸が高鳴っている。ママの出した条件を達成することもできた。これでお姉ちゃんのところに行くことができる。楽しみすぎて落ち着かない。もう荷造りをしてしまおうか?中学校の卒業が待ち遠しい。


 3月15日


 今日卒業式があった。中学校でできた友達達とは離れ離れになるけどあまり悲しくはなかった。連絡先は交換しているから会おうと思えば会えるし、初めてできた親友は私と同じで東京に引っ越すと言っていた高校に行ってからバンドをすると言っていたし、きっとまた会う機会があると思う。それに、別れる悲しみよりもお姉ちゃんのところへ行ける嬉しさが勝ってしまう。卒業式では我慢していたが、笑みが溢れそうになって抑えるのが大変だった。もう荷造りは終わっているし、すぐにでもお姉ちゃんに家へ引っ越しができる。でも、どうせならお姉ちゃんを驚かせたいな。それに、あんな別れ方をした私が来るって知ったらお姉ちゃんは逃げちゃうかもしれない。

 引越しの荷物の運送はパパに相談してみようかな?顔が広いみたいだし、手伝ってくれる人を紹介してくれるかもしれない。


 3月20日


 今日、お姉ちゃんの家に引っ越す。私が先に行ってお姉ちゃんが逃げられないように部屋に入ってから引越しの荷物を運んでもらう算段だ。昨日の夜、ママは笑顔で行ってらっしゃいって行ってくれたが、パパは最後まで泣いていた。お姉ちゃんの時はお姉ちゃんに縋り付いて止めていたし、一人暮らしするのよりはまだ安心しているのだろう。


 3月21日


 やっぱり私は諦められない。作戦は失敗しちゃったしお姉ちゃんには変に思われているかもしれないけど、私にはお姉ちゃんしかいない。少し強引にでもお姉ちゃんとの距離を詰めることにする。もう、三年前のような後悔はしたくないから。次に日記を書くのはお姉ちゃんとの関係がある程度固まってからにする。


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