第30話 藤咲愛純は親友に見透かされる

「はー楽しかった」


「でも結構疲れましたね」


 娯楽施設で目一杯楽しみ疲れた私達は、家の最寄り駅まで帰ってきていた。もちろん帰りは電車でだ。


「そうだね、久しぶりに本格的に運動したよ」


「愛純さん、ボルダリングで腕プルプルしてましたもんね」


「それを言ったら牡丹だって、ダーツ外しっぱなしだったじゃん」


 私と牡丹は遊んでいくうちに競い合うようになっていた。筋力では圧倒的に牡丹に軍配が上がっていたが、命中精度や経験の差で総合的には大体同じくらいの点数だったりした。


「次回は当てます!」


「それなら私も、次までに筋肉つける!」


「それじゃあまた勝負ですね!」


「そうだね、次はちゃんと白黒つけよう!」


 そう言って私達は笑い合った。今まで牡丹と一緒にいてこんなに笑ったことはないかもしれない。


「もう夕方ですか、結構長い時間遊美ましたね」


「そうだね、今日はもう解散にする?」


 時刻はもうすでに午後5時、もう少しすれば完全に日が落ちるだろう。


「そうですね、次に会うのは大学でですかね?」


「そうだね、このダウン、ありがとうね」


「はい、私は使っていませんので気にしないでください」


 ダウンに触りながら牡丹にお礼を言う。牡丹に借りたダウンは結構いいものなのか、軽い割にはしっかりと冷気を遮断してくれている。


「それに、元々は私のものでは……」


「ん?ごめん聞いてなかった。なんて?」


「……いえ、別に何でもありませんよ。また今度お話しします」


「そう?」


 少し


「うん、またね」


 私達はそう挨拶を交わし、それぞれ家路に着く。


「愛純さん!」


 数歩歩いたところで、後ろから牡丹に声をかけられる。


「牡丹、どうかしたの?」


「いえその、少し気になっていたのですが……」


 私が聞くと、牡丹はそう言ってから少し言い淀む。私が不思議に思っていると、牡丹はしばらく私を見た後に続きを話す。


「何か悩み事とかありますか?」


 牡丹はそう言いながら私の様子を伺っている。


「何やらずっと気にしている様子でしたし」


 どうやら私がストーカーのことを気にしていたのに気づかれていたようだ。


「あー、えっと――」


「それに……」


 私がストーカーについてどう説明しようかと悩んでいると、再び牡丹が続ける。


「今日、愛純さんと会った時から思ってたんです。愛純さんが上着どころかバッグも持たず手ぶらできた時点で。愛純さん、家で何かなりましたか?」


「っ!」


 牡丹から飛び出してきたのは私がすっかり忘れていた……いや、意図的に思考の端に追いやっていたことだった。今日の朝、逃げるように家を飛び出して行ってしまった。悩んでないといえば嘘になる。でも、これは家庭内のことだ。


「……何でもないよ」


「本当ですか?」


「本当だよ」


「でも……」


「本当だって!」


「っ!」


「あ……ごめん、私……」


 ついムキになって強く当たってしまった。こんなことしてもどうにもならないと言うのに。


「愛純さん、私、いつでも話聞きますから。本当に困ったら相談してくださいね」


「……ありがとう」


 私はあんな風に突き放したのに牡丹はそう言って私に寄り添ってくれる。自分が惨めになる。


「……それでは愛純さん、また大学で。絶対に、無理しないでくださいね」


「うん、またね」


 そう言って再び、私達は家路に着いた。


 ♡ ♡ ♡


 牡丹と別れた後、一人家路についていた。


(本当に、どうにかしないとな)


 はたから見ただけでもバレてしまうほど、私自身も影響されてしまっている。牡丹を心配させたくないし、私自身、また三年前のようになりたくない。


(たった三日で、こんなになるなんて思わなかったな)


 私と真恋との関係、そして私自身。この三日間で良いようにも悪いようにも変化した。


(前よりは断然良い関係にはなってる。でも、今のままで良いわけじゃない)


 私は真恋と恋人になるわけにはいかない。このまま流されて付き合ったとしても、きっと真恋はいつか後悔する。だから、早く真恋の勘違いを解かないといけない。

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか家についていた。


「ただいまー……?」


 朝のことを思い出して、少し不安になりながら家に入る。家の中は電気がついておらず、物音1つしていない。

 

「真恋?」


 私は不思議に思い真恋に声をかける。室内から返事はない。


「真恋!」


 私は再び真恋の名前を呼んでリビングへと駆け込む。電気をつけると、誰もいない室内が映し出される。自室や真恋の部屋を覗くも、そこには誰もいなかった。


「出かけてるのかな?」


 そう思い、私は真恋の部屋から出ようとして、机の上に置いてあるノートに目が留まる。


「これは……日記帳?」


 数ページほどパラパラとめくって中を見ると、ここ日付と文章が書かれている。日付はここ数ヶ月くらいのもので毎日書いているわけでもないらしく、半分も埋まってなかった。


「って、勝手に見るのはダメだよね」


 日記を閉じ、部屋を出ようとする。しかし、そんな私にもう1つ考えが浮かぶ。日記を見れば今真恋がどんなことを考えているのかわかるかもしれない。

 私は一度部屋の外へと向いた足を引き戻し、机に置かれた日記を開いた。


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