第23話 シスコン姉妹は顧みる

「……」


 現在時刻は20時。私は一人遅めの夕食を摂っていたが、なかなか箸は進まない。

 

「はぁ」


 思わずため息をついきながら、真恋の部屋の方を見る。夕食前に声をかけたものの、真恋からの返事はなかった。中から物音はするから起きてはいるはずなのだが……

 こうなった原因は今日の夕方の出来事だ。


「キス……それに……」


 指で唇に触れ、その後太ももへと触れる。あの後、私の思考がまともに回り出した頃には真恋はすでにいなかった。もしかしたら夢だったのではないかとも思ったが、脱がされた私の衣服、昨日私がきていたTシャツ、そして太ももについた液体が先ほどまでの全てが事実だということを証明していた。

 

「好きって、言ってたよね。その……恋愛対象として」


 あの時、真恋から告げられた言葉を思い出す。はっきりと、間違い用のない言葉で告げられた。


「私だって好きだよ……でも、恋愛対象って」


 好きだからこそ大切にしてきた。でもそれは妹だからだ。決して私が真恋のことを恋愛対象として見てたからだとか惚れられたいとかではない。姉として、家族として、妹を大切にしてきたんだ。


「なのになんで」


 内向的だった真恋の遊び相手になり、真恋がいじめられないようになるべく一緒にいてあげた。でもそれだけだ、真恋との関係は決して姉妹として行き過ぎた関係ではなかったはずだ……ただ一つを除けば。


「やっぱり、私がキスしたから……」


 三年前のあの日、あの時しか心当たりがない。自分で言うのも何だが、私は真恋に慕われていたと思う。もしあの時私がキスしたせいでその心を恋心と勘違いしたのなら、それは私のせいだ。


「何とかして責任を取らないと。でも、付き合うのは……」


 真恋にだって未来がある。今のまま付き合って、後になってやっぱり好きじゃなかったとわかった時、私は真恋の大切な青春を奪ってしまうことになる。姉として、それ以前に人として、そんなことは許されてはならない。


「どうにかして真恋の勘違いを正さないと、でもどうやって……」


 今の私にはどうすれば真恋の勘違いをただせるのかわからない。それ以前にあのキスの後、どういった過程であそこまでこじれてしまったのか私は知らない。まずはそこを知らなければ真恋の勘違いを正すなんてできないだろう。


「……今日はもう寝よう」


 これ以上考えていても今私にできることはない。そう結論付けた私は、ほとんど手のついていない夕食にラップをし冷蔵庫へとしまった後、自室のベッドへと向かった。

 

 ♡ ♡ ♡


 逃げてしまった。お姉ちゃんにキスをして、思いを告げて、その後に逃げてしまった。


「これじゃあ、三年前と同じじゃん……」


 きっとお姉ちゃんはまた勘違いをする。それこそ三年前のあの出来事が原因だなんて考えそうだ。


「お姉ちゃん、心配してるだろうな」


 つい数分前、夕食ができたと私を呼びにきたお姉ちゃんの声からは戸惑いや躊躇の感情が聞き取れた。しかも私は、お姉ちゃんにどんな顔をして会えばいいかわからず、その呼びかけを無視してしまった。


「それに、Tシャツも置いてきちゃったし、ううっ、本当に最悪だ」


 自分の失態を思い出し、頭を抱えて唸りを上げる。私がシている姿は確実にお姉ちゃんに見られている。それはもちろんあのTシャツの匂いを嗅いでいたこともだ。あのぼーっとしていたお姉ちゃんなら現場からものが消えていればもしかしたら勘違いだったかもしれないと思ってくれたかもしれなかった。


「……過ぎたことはしょうがないか。問題はここからどうするか」


 いくら頭を抱えても私がお姉ちゃんのTシャツの匂いを嗅いでいた……変態ということは変わらない。


「あんなことをしちゃったんだ、お姉ちゃんから距離を置かれても仕方がない」


 もしそうなったとしても仕方のないことだ。頭ではそうわかっている。でも、これでおしまいにしたくなんてない。


「せめて姉妹として一緒に……」


 お姉ちゃんのいない生活なんてありえない。この恋が叶わないとしても、せめて一緒にはいたい。そのためには私はどうすればいいか、時間を忘れて熟考し、気づけば時刻は22時になっていた。外から物音は聞こえない。私は慎重に扉を開けると、リビングの明かりは落とされ、キッチンの明かりだけがついている。不思議に思って近づいてみると、一枚のメモが置いてあった。


『真恋へ


 色々と気にしているかもしれませんが私は怒ってはいません。私は真恋と話がしたいです。気持ちが落ち着いたらまた一緒にご飯を食べましょう。


 p.s. 冷蔵庫に夕食が入っています。レンジで温めてから食べてください』


「お姉ちゃん、手紙になると敬語になるくせ変わってないんだね」


 思えば三年間、お姉ちゃんとは手紙のやり取りすらなかった。昔と変わっていない癖を目にし、不安だった私の心は安らぎを感じる。


「お姉ちゃん、ごめん、やっぱり私諦めれない」


 冷蔵庫から取り出しレンジで温めた夕食を食べた私は、お姉ちゃんの部屋へと向かった。

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