第21話 愛する姉は愛しの妹の心を知る

 高二の冬、真恋もだいぶ成長し小さな頃のような無邪気なスキンシップの少なくなってきたある日の夜。


 遅い時間にコーヒーを飲んだせいでなかなか寝付けないでいた私に扉の開く音がする。


「……お姉ちゃん」


「真恋?」


 耳に届いた細い声に私は不安を覚え体を起こす。扉の方を見ると少し涙目になりながら枕を強く抱きしめる真恋が俯いていた。


「どうしたの真恋?ほら、おいで」


「……うん」


 私は安心させるように声をかけ迎え入れるように手を拡げる。真恋はそんな私を見て一瞬目を泳がせながらもゆっくりと私の方へ近づいてくる。


「えいっ、キャッチ!」


「わっ……」


 そんな真恋を私は抱き寄せる。いきなりのことに真恋は悲鳴交じりの声をあげる。


「どうしたの?こんな夜中に」


「……えっと、ね」


 真恋の頭を撫でながら何があったのかと尋ねると、真恋はゆっくりとだが話し出す。


「なんかね、いつかお姉ちゃんがどこかにいっちゃうんじゃないかなって、そんな気がして。そしたらなんかね、胸がザワザワってして、寂しくなって、それで……それでね……ひっく……うぅ」


「あーもう、泣かないでってば」


 言葉を紡ぐにつれ、だんだんと涙が溢れていく真恋の目元を拭う。


「つまり、真恋は不安になっちゃったんだね」


「……うん」


「ふふっ、大丈夫だよ。お姉ちゃんはは真恋と一緒にいるよ」


「本当?」


 真恋を安心させるように声をかけると、真恋は頭をぐりぐりと私のお腹へ押し付けながらそう聞いてくる。


「……うん、本当」


 そんな真恋の問いに私はそう答えたものの、その実内心では心を痛めていた。もう一年と少しする頃には私は大学へ通うために引っ越しているだろう。真恋のために実家から通える大学へ進学することも考えたが、それは父はおろか母にすら止められてしまうだろう。そんな私に残された大学候補はどれも実家からは通えない距離になってしまった。受験で全て落ちない限りは必ず家を出ることになってしまう。


「お姉ちゃん大好き」


「私も大好きだよ」


 真恋の好意に今度こそ嘘偽りのない言葉を返す。傷んだ心を埋めるに真恋を抱きしめる。私の胸の中で真恋は恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「真恋、まだ寂しい?」


「……少し」


「じゃあ今日は一緒に寝ようか」


「……うん」


「ほら、おいで」


 布団を広げ、真恋をベッドへと招き入れる。


「あったかいね」


 私の言葉に真恋はこくんと頷く。真恋の体はとても暖かく、冬の冷気なんて微塵も感じられない。


「お姉ちゃん、いい匂い」


「同じシャンプー使ってるんだし、真恋も同じ匂いだよ」


「ううん、お姉ちゃんの匂い、安心する」


「そう?そういうことなら私も真恋の匂い好きだよ」


 真恋の言葉に納得し、私も同じように返す。

 目を閉じ身を寄せ合い、互いの体温を、匂いを、存在を確かめ合う。充足感が次第に眠気を誘っていく。ふと真恋の方を見ると、彼女は小さな寝息を立てていた。


「おやすみ、真恋」


 真恋の頭を人撫ですると、私も完全に眠りに落ちる。深い深い眠りの中で、ぼやけた思考で願い祈る。こんな生活がずっと続けばいいと。真恋と離れたくないと。


 ♡ ♡ ♡

 

 随分と鮮明な夢を見ていた。あの頃はまだ大学に進学したとしても長期休みには帰って真恋と一緒にいられると考えていた。それが一年後、あんなふうに関係が変わってしまうとも知らず、ただただ漠然と私たちなら大丈夫だと思っていた。

 実際、真恋はあの後も私のことを思ってくれていたし、私の真恋への愛情も変わることはなかった。しかしそれでも、些細なすれ違いで私たちは三年間も関係を断ち切ってしまった。


「んんっ」


 近くでくぐもった声が聞こえる。聞き慣れた声、無条件で安心させてくれる声だ。


 ぴちゃぴちゃ


 彼女の声とは別に、何やら水音が聞こえる。その音も、私のすぐ近く、ちょうど私の膝のあたりから聞こえてくる。


「んふっ、はぁ……はぁ……」


 クチュクチュ


 彼女の声が熱っぽくなる。それにつれて、水音も大きく、なっていく。


「んっ、お姉ちゃん、大好き」


 いつもならその言葉を聞くだけで幸福感でいっぱいになっていただろう。しかし今、なぜか私の心はざわめいていた。


「だめっ、もう我慢できない……っ!」


 押し殺したような声のあと、私の太ももあたりに密着感、そして暖かくとろりとした液体の感触がする。それらが私と擦れるたびに、彼女の息、そして声が荒くなる。


「んんっ!……もうっ、ダメぇ!」


 だんだんと大きくなる声、そして私の胸元に弄るような感触。それらが、だんだんと私の意識をはっきりさせていく。

 

「もうだめっ!こんなのダメなのに!ごめん、お姉ちゃん!イっちゃう!」


 目を開けると、目の前には彼女の頭があった。その横には、なぜか脱ぎ散らかされた衣服があり、私の体は真冬の冷気をより敏感に感じ取っている。

 

「ンンッ!……はぁ……はぁ」


「……真恋?」


「……へぁ?」


 今までで一番大きな悲鳴をあげながら彼女の体が痙攣する。その後、ぐったりと脱力した彼女に向かって声をかけると、とろけた顔で彼女がこちらを見上げてくる。目と目が合い、数秒時が止まる。


「お姉ちゃん……」


 真恋は急速に顔を青くしながら私から目をそらす。私は、少し起き上がり私と真恋の姿を見る。私は服を着ておらず、ブラまで外されパンツのみの格好となっていた。それに対し真恋は服こそ着ているものの、ボタンやチャックなどは開け放たれており、右手は私の胸元へ、そして左手は自身の股の方へと伸ばされていた。顔の近くには私が昨日着ていたTシャツがある。

 私の視界から得られた情報から脳が今何が起こっているかを結論づけ、それを私の常識が否定し、それをさらに情報が否定する。


「真恋……?これは一体――」


 永遠に繰り返されるそのサイクルの中、私は外へと結論を求める。そんな私の言葉に答えるかのように――


「んむっ」


「んんっ!?」


 私の唇へ柔らかなものが押し当てられ、口内へと温かなものが侵入してくる。


「ん……んふっ……」

 

「んふっ!……んんっ!……」


 溢れる2つの吐息。その度に私の口内は蹂躙され、溢れた唾液が頬を伝う。何秒、何十秒と経った頃、ぷはっ、という行きと共にそれらは私から離れていく。私と真恋の間に透明な橋がかけられる。あまりの刺激に頭の回らない私へ、真恋が言葉を投げかける。


「……お姉ちゃん、私お姉ちゃんが好きだよ、大好き。お姉ちゃんも私のことを大事に思ってくれているのは知ってる。でもね、お姉ちゃんの好きと、私の好きは違うんだ。お互い好きって言い合うたびに、言葉は同じなのに、心はすれ違ってるんだって。そう思うたびに胸が苦しくなって、それでも嬉しくって、想いが溢れてきちゃいそうになるの」


 そう言う真恋は、恍惚としていて、それでいて苦しげで、どこか儚げな表情をし、涙の溜まった瞳で私を見つめてくる。


「お姉ちゃん、好きだよ。私ね、お姉ちゃんのことが恋愛対象として好きなの」


 真恋の零したその言葉と共に、彼女の涙が私の頬へと落とされた。

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