第20話 自堕落姉は妹を見て改心する
「はー、疲れたぁ」
「結構歩いたしね」
ソファに座った真恋がそう言って倒れ込んだ。
ファミレスを出たあと、私たちはしばらくウィンドウショッピングを楽しんでからケーキ屋へと向かった。用事があったのか今日は牡丹と会うことはできなかったが、早い時間帯だったおかげで昨日よりも品揃えは良かった。
「まだ3時か、どうしようかな」
「私は昨日届いた荷物の整理しようかな」
「それじゃあ私は今日買ってきた服とか食器を整理しようかな」
「じゃあはい、これ」
「ありがとう」
私は真恋から食器の入った袋を受け取る。
「真恋の部屋は……あっちの空き部屋使って。少し散らかってるけどとりあえず物置に突っ込んでおいて」
「もう、そんなんだから散らかるんだよ。私が片付けておくね」
「あはは、ごめん。よろしくね」
「はーい、任せて」
真恋はそう返事をして私が指した部屋へと向かった。
「まずは食器から片付けようかな
そう思い私は真恋から受け取った袋から食器類を出していく。
真恋の買った食器はファミレスで聞いた通り白色のシンプルなものやガラス製のサラダボウルなどが二組ずつ、私と真恋の分だろう。白色のものはシンプルながらも花柄や装飾などが入っていてオシャレだ。
「真恋はセンスいいなぁ」
真恋のオシャレセンサーに感心しながら食器棚からいつも使っているに買った食器を出す。真恋の選んだものと同じく白色のシンプルなもの、しかしこちらには装飾なんてなく面白みがない。それに三年間使い続けいたから黒いシミがついていたり、たまに欠けていたりする。
「使ってた時は気づかなかったり気にしならなかったりだったけど、だいぶくすんでたんだなぁ」
そう思いながら古いお皿を欠けのあるものとないもので分けていく。欠けのないものはまだ使えるので予備とし、欠けのあるものは捨てることにする。大体全体の1割弱を捨て、新しい食器と共に食器棚へしまっていく。食器棚の大体四分の1ほどが埋まる。
「来客用のものもあると言っても一人暮らし、いや二人暮らしだしな。キッチン備え付けの食器棚は少し大きすぎる」
そう思いながら食器棚を見回しているとふと、新調したマグカップが目につく。
「これはもっと目につく場所がいいな」
そう思い私は食器棚からペアマグ取り出し、ひとまずいつも使っている電気ケトルの側へ置く。マグカップに描かれている猫たちは安心したように目を閉じながら互いに鼻をくっつけている。よく見ると、どうやら尻尾も絡ませあっているようだ。
「やっぱりカップル用だよね、これ」
指先で白猫を突きながらそう言葉をこぼす。鼻をくっつけ合う姿はキスをしているようにも見えるし、絡めあっている尻尾はハート型になっている。
「まあ、こういうのもいいかな」
今度は黒猫の鼻先を突きながらそんなことを思う。恋人とは違うけど、互いのことを信頼し合い、多少のスキンシップもある。最大限の家族愛を注げる関係。
三年間の空白の時間を取り戻すように二人でゆっくりと暮らしていきたい。せめて真恋が誰かと結婚するまでは――
「ん?」
そう考えると、なぜか胸にちくりとした痛みを覚える。真恋が誰かに盗られることに拒否感を持ったのだろうか?
「って、これは愛が重すぎるよ」
きっと何処の馬の骨かも分からない男が真恋の夫になることに嫌悪感を感じたのだろう。真恋が男を連れてきた時はちゃんと見極めてあげなければ。
「そもそも、年齢的には私の方が先かもしれないし」
牡丹が聞けば『今まで浮いた話の1つもないのに何言ってるの?』とか言われそうだ。これでも中高の時はそれなりにモテたし告白もされたのだ。真恋との時間が減るからという理由でどれもお断りさせてもらったが。
「今思ったら悪いことしちゃったかな?」
私もいつかは真恋離れをしなきゃいけないし、そういう機会にはちょうど良かったのかもしれない。しれないが、高校生の時の話だしあの時はまだあれで良かったのだろう。
改めて過去の行動の精査を終えた私は、キッチンから離れて部屋を見渡す。真恋が掃除してくれたおかげでリビングやダイニングは片付いているが、廊下にはまだゴミ袋が残っているし、洗濯物だって溜まったままだ。
「よし、こっちも片付けちゃおう」
いつもの私ならそう思っても行動に移さずこのままずるずると引き延ばしてしまう。そんな過去を何度も体験してきたからこそ私にはわかる。しかし今日は真恋がすでに掃除をしたという事実がある。私が散らかしたものを妹が掃除したというのに、私がやらないわけにはいかない。
確かな原動力を得た私は廊下のゴミ袋を手早くマンションの共用ゴミ捨て場へと運び、大物の洗濯物へと取り掛かる。何日も放置した洗濯物は洗濯機のスペースを圧迫しているが、まだ満杯ではない。今日の分の洗濯物が入るスペースくらいはあるだろう。
「こんなに少なかったっけ?」
若干の違和感を感じながらも、早いとこ選択しなければと思い洗剤を入れ蓋を閉め洗濯機を回す。大量の洗濯物を腹に入れた洗濯機は少し大きな音を立てながらもしっかりと回ってくれた。
「とりあえずこれで一通り終わったかな」
そう思い部屋の中を見回す。そこには久方ぶりに見る綺麗な我が家の姿があった。
「少し休憩しようかな」
私はリビングのソファに座りテレビをつける。液晶にはニュース番組が映り、画面端には四時という文字が見える。
「まだ四時か」
昨日もらった仕送りはまだまだあるし、夕飯を始めるには少し早い時間だ。こういう時間でこそ勉強をするべきなのかもしれないが、今まで時間だけはあったおかげで予習は終わっているし復習ももう何度もしている。本を読もうかとも考えたが自室の本棚には状況の際に持ってきた小説が何冊かあるだけだ。
何か他にすることはないかと考えていると段々と睡魔が襲ってくる。昨日も昼寝をしたし、今日もとなると生活リズムが崩れてしまう。そう考え睡魔に抗おうとするも体は正直だ。頭をこくこくと揺らしながらニュース番組を見ていた私の意識は徐々に闇へと飲まれていった。
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