第18話 菊池白音は後輩二人の相談を聞く《途中から菊池白音視点》
「ねえ真恋、機嫌直してよぉ」
「……」
「スイーツ3つでどう?」
「……」
「真恋ぉ」
ショッピングモール内にあるファミレスで、私は真恋と向き合って座っていた。冬休み半ばのファミレスは、昼頃ということもありそれなりに混んでいる。店内の空調は少し低めに設定されているのか、もう一枚上着が欲しくなる。
真恋の機嫌を取ろうとあの手この手で説得を試みるも、真恋はずっと黙ったままだ。すでにこうして十分以上説得を試みている。何も注文していないのでそろそろ店員からの視線が痛くなってきた。仕方がないのでひとまず何か注文することにする。
「真恋、ドリンクバー注文する?」
「……うん」
「わかった、じゃあドリンクバー2つ、と」
注文用のパッドを操作してドリンクバーを二品追加する。注文カゴにドリンクバーが追加されたのを確認し、メニュー画面のトップへ戻る。
「真恋、何食べる?」
「飲み物取ってくる」
「え?ちょっと真恋!?」
真恋にお昼は何を食べるか聞くと、真恋はドリンクバーの方へ歩いて行ってしまった。
「一緒に注文しないとセットにならないのに」
あとで店員に言ってセットにまとめてもらおうかと考えながら私は一度注文を確定する。
「私もお昼注文してから飲み物取りに行こうかな」
私はパッドに表示されるメニュー表へ目を落とした。
♪ 🎵 ♪
「もう、白ちゃんが勝手に飲むからこぼれちゃうんだよ」
私の横で、幼馴染で次期後輩の紫音がそう愚痴をこぼす。
「ごめんって、でも紫音がいきなりあんなこと言うからだよ」
「私は白ちゃんに詳しくって言われたから答えただけだよ」
そんな会話をしながら新しい飲み物を取りにドリンクバーまで行く。
「だからって、ナンパはないと思うけどな」
「あれはテンパってたからだって」
「でもさぁ……あれ?」
終わりの見えない口論をしながら歩いていると、見覚えのある姿が見える。彼女のこちらに気づいたようで、少し驚いたような表情をする。
「あれ?白音さん?」
「真恋さん、先ほどぶりです」
先ほどバイト先で接客した姉妹の妹さん、真恋さんがドリンクバーで飲み物を汲んでいた。
「あ、白ちゃんの対外向けモードだ」
「ちょっと紫音、余計なこと言わないで」
私と真恋さんとのやりとりを見ていた紫音が私を茶化す。将来的に良客になるのだからあまり変なことを言わないでほしい。
「ふふっ、仲がいいんですね」
私たちのやりとりを見ていた真恋さんが笑いながらそう言う。しかしその表情はどこか沈んでいるようにも見える。
「……真恋さん、何かあった?」
「へ?」
私がそう問うと、真恋さんは間の抜けた顔をした。
「表情死んでますよ。それに、お姉さんはどうしたんですか?」
あんなに仲の良さそうだったお姉さんの姿が見えない。席にいるだけかもしれないが、真恋さんの顔がそれだけだとは思わせてくれなかった。
「あはは、ちょっと喧嘩中で……と言っても、お姉ちゃんはあんまり気にしてないだろうけど」
真恋さんは苦笑しながらそう答えた。
「よければ話聞きましょうか?」
「え?いいんでしょうか?」
「はい、元々この子の話を聞いてたところですし」
「そうですよ!困った時はお互い様です!」
「紫音はたまには私のためになってほしいんだけど」
「うっ、ツケということに」
「はぁ、まあいいけど。それで真恋さん、どうですか?」
調子のいい紫音の言葉を流しながら真恋さんに尋ねる。来年からは私の後輩に、そして紫音の同級生になるのだ。ここで仲良くなっておくに越したことはないだろう。
「……それじゃあ、お願いしてもいいですか?」
真恋さんは少し困ったように笑いながらそう答えた。
「それじゃあ私たちの席に行きますか。あ、これからは真恋って呼ぶね。真恋もタメ口でいいよ」
「それじゃあ……白音、よろしく」
「なら私のことも紫音って呼んでください!」
「うん、よろしくね紫音」
改めて挨拶を交わし、私たちは自席へ戻って行った。
♪ 🎵 ♪
「ね?ひどいと思わない?」
「あー、うん……そうだね」
事の経緯を説明した真恋が同意を求めてくる。私はそれに対して不器用な返事しかできなかった。
真恋の説明を聞いて分かったことがある。真恋とそのお姉さんの喧嘩の原因はおそらく、というか十中八九紫音だろう。
「わかります!こっちは本気で思ってるのにまともに取り合ってくれないのはひどいですよね!」
「紫音……ありがとう」
「あはは……」
あんたが原因だろうがと突っ込みたくなるのを我慢しながら二人の様子を見て苦笑する。原因が紫音というのを無視すれば、真恋と紫音の中は順調に縮まっている。余計なことは言わない方がいいだろう。
「真恋はお姉さんと仲直りしたいの?」
「それはもちろん!でも、どうすればいいかな。昨日だって正しく伝わってなさそうだったし」
どうやらお姉さんは以前にもやらかしているようだ、それも高頻度で。おそらく相当鈍感なんだろう。
「どうすればいいのかな……」
「勘違いする余地のない行動で示すしかないのでは?」
真恋が悩んでいると、紫音がそう提案する。
「勘違いする余地のない行動……っ!なるほど!」
どうやら紫音のアドバイスで何か閃いたようで、勢いよく席を立った真恋は紫音の手を取ってブンブンと振りながら握手をする。
「ありがとう紫音!おかげでどうにかなりそう!」
「そ、それはよかったです!」
真恋の勢いに押された紫音が吃りながらお礼に答える。
「それじゃあ私、お姉ちゃんのところに戻るね!あ、これ私の連絡先」
自席に戻ろうとする真恋が思い出したようにスマホを取り出す。そこにはチャットアプリのQRコードが写っていた。
「あ、はい、失礼します」
紫音がアプリを立ち上げそのQRコードを読み取る。私はバイト先ですでに交換しているので必要はない。
「それじゃあまたね!」
連絡先を交換したのを確認した真恋は小さく手を振りながら駆け足でさっていった。
「……私、同い年の友達できるの初めてかも」
「もうちょっと交流持ちなよ……あ、そういえば、真恋と紫音、来年から同じ学校って話してたっけ?」
「え!?そうなの!?」
「やっぱり話忘れてたか。うーんチャットで話してもいいけど……」
そこまで考え私はチャットアプリの友達欄を見る。一番上にはスタンプで軽く挨拶を交わした履歴が残っている。
「入学式当日に二人で挨拶しに行こうか」
「白ちゃん悪い顔してるよ」
「サプライズだよ、サプライズ」
私は数週間後に迫った入学式の日を思い浮かべながらメロンソーダを口に含んだ。
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