第17話 夢見る少女は幼馴染に語る《蘭紫音視点》

「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」


「いえ、待ち合わせです」


 私、蘭紫音がファミレスでメロンソーダを飲んでいると、入り口の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「白ちゃん!こっちだよ!」


「紫音、声大きいよ」


 私がソファから体を乗り出し手を振ると、幼馴染で一個上の白ちゃんこと菊池白音は苦笑しながら私の行動を注意する。私も照れたように笑いながら姿勢を直す。


「ごめんね、今日お買い物付き合えなくて」


「ううん、バイトお疲れ様」


「……?紫音、何かいいことあった?」


 私が白ちゃんのことを労うと、白ちゃんは私の顔を見つめた後、そんな質問を投げかけた。


「いいこと?」


「うん、顔ニヤケてるよ」


 白ちゃんの指摘に私は両頬に手を添えると、口の端が吊り上がっていた。どうやら顔に出ていたようだ。


「いいことねぇ……えへへ」


「うわっ、気持ち悪いよ紫音」


「白ちゃんは口悪いよ」


 今日あった出来事を思い出すと自然と笑みが溢れる。口から漏れた笑い声を白ちゃんに気持ち悪いと指摘をいれられ、私は同じように言い返す。


「それで、何があったの?」


「今日ね、買い物する時親切なお姉さんに出会ったんだ」


「紫音、初対面の人についていったの?」


「大丈夫だよ、危なそうだったら逃げるから」


「いや、中学生に付き纏われてたその人は警察とかに捕まらなかったのかなって」


「あ……大丈夫だったかな?」


「いや私に聞かれても……紫音が離れるまで大丈夫だったんなら大丈夫なんじゃない?」


「そっか!じゃあ大丈夫かも!」


「それで、その人がどうしたの?」


 白ちゃんの答えを聞き安心する私。それを見て白ちゃんは呆れながらも続きを促してくる。


「それでね、私その人のこと一目惚れしちゃって」


「!何それ、詳しく」


 私の一目惚れという言葉に関心が持ったのか続きを促してくる。


「えっとね、今日は一人で雑貨屋に行ってて、何買えばいいのかなぁって思いながら店内ぶらついてて」


「……ごめん」


「それはもういいって」


 一人でと聞いて白ちゃんは再び私に謝ってくる。私はそれを適当に流す。


「それで、店内ぶらついてたら人とぶつかっちゃって、足を滑らせちゃって。それを支えて助けてくれたのがお姉さんなんだ」


「ふーん、それで惚れちゃったと」


「うん!」


「一応聞くけど、何が理由で惚れたの?」


「顔!」


「身も蓋もないね」


 白ちゃんは呆れた目を向けてくる。


「いやあれは惚れるよ!めっちゃ美人の顔が至近距離にあったんだよ?私、数秒間固まっちゃもん」


「それで、その後慌てて離れて、噛み噛みでお礼とか言ったんでしょ?」


「な、なんでわかったの?」


「そりゃ何年も一緒にいるもの、人見知りな紫音が考えそうなことくらいわかるよ」


「えへへ、なんか照れる」


 自分のことをそんなに知られていると思うとなんだか恥ずかしい。


「でもね、今日はそれだけじゃないんだよ!」


「それだけじゃないって?」


 白ちゃんは私のコップを取り、メロンソーダを飲みながら続きを促す


「私、その後お姉さんをお茶に誘ったんだ」


「んぐっ!?けほっけほっ」


 私の言葉を聞き白ちゃんはメロンソーダをむせる。その際コップを倒し、テーブルにメロンソーダが広がる。


「あ!もったいない!」


「いやそんなことより、それってナンパしたってことじゃん」


「……確かにそうかも」


「気づいてなかったわけ?」


「うぅ……」


 私は白ちゃんの言葉を聞きハッとする。そんな私を見て白ちゃんは呆れたような視線を向けながらテーブルのメロンソーダを拭き取る。私は顔を覆って唸りを上げる。


「ど、どうしよう、私迷惑がられてたかな?」


「だから私に聞かれても……はぁ、わかったから。どういう感じで一緒に回ったのか教えて」


 私は白ちゃんにそう言われ、雑貨屋を回っていた時のことを説明した。


「それで、白ちゃんからメールが来たから別れたんだ」


「なるほどね」


「どう……かな?」


「まあ、多分嫌われてたりとかはないと思うよ」


「本当!?」


「うん、最後にちゃん付けで読んでくれたんでしょ?それに、練習で買い物に付き合ってくれたんだし、少なくとも悪くは思ってなかったと思うよ」


「よかった〜〜」


 白ちゃんの結論を聞き、私は安堵の息を吐く。


「そんなにその人のことがいいんだ」


「うん!美人ですっごい親切で物知りなんだ!」


「それは話聞いててわかってるよ。でも、そういう人が今まで他にいなかったわけじゃないでしょ?なんで今回はそんな大胆になれたのかなって」


「うーん、もしかして運命かも!」


「あー、ただ緊張してテンパっていつの間にかって感じかな」


 今日雑貨屋で出会えたのも自然に話せたのも、あの人が運命の人で相性が良かったからかもしれない。そう考えると自分のコミュ障も運命の人を見極めるためのものだったのではと思えてくる。


「ふふっ、お姉さんが運命の人」


「紫音、聞いてる?」


「結婚式は神前式がいいな。あ、でもやっぱりお姉さんのウェディングドレスも見たいかも」


「……ダメだな」


 脳裏にウェディングドレスを見に纏い、ブーケを持ったお姉さんの姿を浮かべる。スピーチは白ちゃんにお願いしよう。妹さんは私のお姉さんか妹、どっちになるのだろうか?

 その未来を叶えるため、早速デートの約束を――


「あ」


「ん?どうかした?」


「連絡先聞くの忘れてた」


「あ、名前ってわざとぼかしてたわけじゃなかったのね」


 連絡先どころか名前すら聞いていない。これじゃあまた会えるという保証がない。


「うう、やらかしたぁ」


「まあ、今日のことは忘れるのが一番かな」


 机に突っ伏して項垂れる私を見て白ちゃんはそう諭してくる。


「また会いたいなぁ」


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