第15話 藤咲愛純は三つ編み少女にナンパされる

真恋の合格した学校の名称を変更しました

南溝口→一ノ瀬

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 突然だが、私、藤咲愛純はとある大学の教育学部に所属している。きっかけは私が中一の頃、真恋に勉強を教えていた時に真恋から『お姉ちゃん先生みたい!』と言われたからと言う軽薄極まりないものだ。

 

 三年前、真恋と仲違いしてしまい何もかも失ってしまったと思っていた頃、せめて何か1つでもと真恋との接点を求めて縋り付いていたのもこの教育学部でもある。そのため、私はほとんどの時間を勉学に注ぎ込み、学部内一二を争うくらいには頭が良くなった。まあ仲違いについては私の杞憂だったのだが。

 

 卒業後は高校教師になることを希望している。これも、あわよくば真恋と同じ学校に赴任できたらなと言う邪な考えからだ。そのため、このタイミングで真恋がうちに来たのは年下とのコミュニケーションの練習にもなって非常に有り難かった。


 さて、なぜ突然こんな自分語りをしたかだが、それは今、私の横にいる人物が原因である。彼女はどこかの学校の制服を着ている。背丈は160センチほどと女子にしては高く、紫色の髪を三つ編みにした童顔の少女だ。


「お、お姉さんは、恋人とかいるんですか?」


「えっと、いませんけど」

 

「わ、私も何です!」


「そ、そんなんですね……」

 

 私、藤咲愛純はその少女にナンパされていた。


 ♡ ♡ ♡


 時間は戻り十数分ほど前、私は文房具を買うために雑貨店の文房具コーナーを訪れていた。


「ルーズリーフとノート、どっちを買おう」


 真恋がどちらを使うのか聞くのを忘れていた。何か困ったことがあったらメッセージアプリで聞こうと考えていたが、そもそも連絡先を交換していなかったことを思い出した。


「まあ、どっちも買っていけばいいでしょ」


 私はルーズリーフを二袋とノートを数冊カゴに入れる。


「それと文房具……これも一式買っていけばいいかな?」


 続いて私はいつも使っているシャープペンシルやシャー芯、消しゴムなどをカゴへと入れていく。真恋に必要ないものが紛れていたとしても私が使えばいいだけの話だ。一年もあれば余裕で使い切れる。


「あとは……」


 他に必要なものはないかと商品棚を見ながら店内を歩いていると――


「きゃっ」


「おっと」


 曲がり角から迫る人影に気づくことができなかった。彼女は私にぶつかり小さく悲鳴を上げながら倒れる。私は咄嗟に手を伸ばし彼女を支える。


「大丈夫ですか?」


「……へ?」


 私が彼女へ無事を問うと、彼女は間の抜けた声を出し、ぎゅっと閉じられていた目が開く。至近距離で彼女と目が合う。そのまましばらく時間が流れる。


「あの……」


「あ、」


「あ?」


「あわわわわわ」


 その間に耐えかねて私が声をかけると、彼女は明らかに動揺して私から距離をとった。


「元気そうですね、それじゃあ私はこれで」


「あ、あ、あにょ!」


「……はい?」


 私が手を離しその場から離れようとすると、彼女が噛みながら呼び止めてくる。


「私!蘭紫音あららぎ しおんと言いましゅ!」


「はぁ」


「あにょ、あの!」


「えっと、蘭さん。落ち着いて話してください」


「は、はひ!すみません!すぅーーーー、はぁーーーー」


 緊張しているのか噛みまくりな蘭さんを宥めると、彼女は深呼吸をする。


「ありがとうございます」


「それで、何か言いたいことがあったのでは?」


「そ、そうでした。あの――」


 私が問うと、蘭さんは一呼吸置いて答える。


「わ、私とお茶しませんか?」


 ♡ ♡ ♡


 時間は戻って現在、私は蘭さんとお茶――ではないが、雑貨屋内を一緒に散策していた。


「それじゃあ連絡先交換しませんか?」


「私、今携帯持ってなくて」


「そ、そうですか」


「あはは……」


 いや、付き纏われていた。私はお茶も同行も許可した覚えはない。蘭さんが勝手についてきているのだ。


「あの、私この後妹と合流しないといけなくて」


「わ、わかりました、それではいつ頃退店しますか?」


 さりげなく拒絶を示しても、蘭さんには伝わっていないようで、どうやらついて来る気らしい。そういうわけにもいかないので、もっと直接的に言うしかないだろう。


「いえ、今日は久しぶりに会った妹とのでのお出かけなので……」


「あ……そうなんですね、わかりました」


 私は二人きりと言う部分を少し強調して蘭さんに告げる。彼女の顔が曇り少し申し訳なく感じるが、何とか蘭さんにはわかってもらえたようだ。


「それじゃあまた今度ですね」


「?そうですね……?」


 わかってもらえたのだろうか?とにかく、今日は一緒にいられないことは了承してもらえただろう。とはいえ、この後真恋と合流する時間までは彼女と過ごさないといけないのは変わらない。


「……」


「……」


 どうしたものかと考え込んでいると、会話が途切れてしまう。しかも何故か蘭さんからキラキラとした視線を向けられている。


「あ、あの、蘭さんはどこの学校なんですか?」


 考えた結果、私はこの機会を活かそうと自分から蘭さんに会話を振ってみた。四年生になれば教育実習生などで実際に学校に行くこともあるだろう。そうなれば、100人を超える生徒とコミュニケーション取らないといけない。そのための練習としてひとまず彼女とコミュニケーションを取ろうと私は考えた。


「……はっ!私ですか?」


 どうやら蘭さんは私から話しかけられるとは思っていなかったようで、私がたづねてから一泊置いて彼女が反応した。


「私はすぐそこの第二中です」


「え!?中学生だったの!?」


 第二というのはどこか分からないが、中ということは中学校なのだろう。身長からてっきり高校生だと思っていた。


「あ、中学といってももう卒業したので高校生みたいなものですよって、何だか自分で言うのは恥ずかしいな……今日は学校の部活に顔を出してたんです」


「そ、そうなんだ」


 本人は高校生みたいなものと言っているが、紛れもない中学生だ。よく考えたらこの状況もかなり危ういのではないだろうか?側から見たら成人女性が女子中学生に絡んでいる図だ。絡まれているのは私なのに何故だか冷や汗が背中を流れる。私は軽く蘭さんから距離をとった。


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