第13話 シスコン姉妹は着飾り合う
とあるアパレル店、その試着室で私はポーズを取っていた。
「キャ〜〜〜!お姉ちゃん可愛い!」
「そ、そうかな?」
黄色い悲鳴をあげながらパシャパシャとカメラを連写する真恋を、私は試着室の中から見ていた。真恋に要求されたポーズを取る私の服装は今日着てきたパーカーとジーンズではない。黒を基調としながらもところどころピンク色や、フリフリ多めのレースの入ったいわゆるゴスロリと言われる服を着ていた。
「お姉ちゃん!次はこれ着て!」
そう言って真恋が渡してきたのはまるで明るい色をしたチェック柄で、まるで童話の中に出てきそうなワンピースだ。
「真恋、さっきから私ばっかりなんだけど、そろそろ真恋のも選ぼうよ」
この2つの他にも、カジュアル、スポーティ、アウトドア、ストリートと色々なコーデを着せられた。しかもそれら全てが買い物カゴの中に入ってるのである。
「一緒に選んでたら試着室から出たり入ったりで時間もったいないでしょ。まずはお姉ちゃんから、その後私が切るから」
「でもさぁ」
着替えて、真恋が撮影し、また新しい服に着替えてをすることすでに30分は経過した。この流れを打ちきれなかった理由は2つある。1つはもちろん真恋の強引さ。そしてもう1つは――
「お客様、こちらの服はどうでしょうか?」
「いいですね!お姉ちゃん、こっちもお願い!」
もう1つは真恋だけでなく店員も乗り気なことだ。おそらく真恋と同じくらいの年齢の子だろうか?あちらも善意でやっているため断るに断れないのだ。それに、真恋が同年代の子と楽しそうに話しているのに水を差す気にもなれない。
しかし、このまま流されていたらアパレル店を出る頃にはお昼を過ぎてそうだ。どうにかして一度私が着せられるのを打ち切らなければならない。そう考えていると、真恋が新しい服を選ぶために試着室から離れ、その場には店員と私だけになった。そこで私は店員を手招きすると、それに気づいた店員さんがこちらに寄ってくる。
「どうしましたか?」
「実は私たち、今日はお互いにコーディネートしようって話してをしてたんです」
「仲がいいんですね!」
「ありがとうございます。それで、真恋――妹のコーデを選びたいのですが私そういったことに疎くて、よかったら手伝ってくれませんか?」
私が取った作戦は店員をこちら側に引き込むことだった。今の流れは二体一になっているから私がなされるままになっているという側面が大きい。逆に言えばこの店員さんを私側に引き込めば形成は逆転になる。はず!
「いいですね、それじゃあ妹さんが戻ってきたらいきましょうか」
「はい!よろしくお願いします!えーっと――」
そこで私は店員の名前を聞いていなかったことを思い出した。彼女の胸元を見ると『菊池』と書いてある名札が見える。
「――菊池さん」
「はい、よろしくお願いしますね」
そんなふうに挨拶を交わしていると、また新しい服を持った真恋が帰ってきた。
「お姉ちゃん!次はこの服を――」
「真恋、今からこの店員さんと真恋のコーデ考えるから試着室で待ってて!」
「え?この服は――」
「家帰ったら着るから!」
そう言って私たちは真恋を試着室へ置き去りにする。
「それで、どういった服装にしましょうか」
「そうだなー」
昔ファッションショーをした時はかわいい系の服を中心に着させていた。どうせならその時とは別の方向性にしたい。
「今の真恋なら、ボーイッシュな感じとか似合いそう」
「いいですね、それならこのロゴTシャツにワイドデニムパンツを合わせるのはどうでしょうか?」
そう言って菊池さんが手に持ったのはユニセックスなデザインのTシャツだった。
「あとはこれにスニーカーやキャップを合わせれば王道って感じですね。あ、キャンバス地のトートバッグなんかを持ってもいいかもしれません」
そう言いながら菊池さんは次々とコーデを決めていく。
「あ、これじゃあお姉さんがコーディネートしたことになりませんね、ごめんなさい……」
あるコーデができたところで菊池さんが慌てたようにそう謝ってきた。
「いえいえ、私も色々と参考になりました」
「そうですか?ならよかったです」
私が心配ないと菊池さんに告げると、菊池さんはほっと一息ついた。
「それじゃあ、次は私が選ぶので横でアドバイスしてもらってもいいですか?」
「わかりました、任せてください!」
私がそう提案すると、菊池さんは笑みを浮かべてそう言った。
♡ ♡ ♡
私たちが試着室へ戻ると、頬を膨れさせた真恋が待っていた。
「あ、お姉ちゃん達やっと帰ってきた」
「ごめんごめん、ちょっと盛り上がっちゃって。はいこれ」
そう言って真恋を宥めながら持ってきた服を渡す。
「これは?」
「私が考えたコーデだよ。真恋に似合うといいんだけど」
「わかった、着てみるね」
私の選んだ服を受け取った真恋は試着室へ入る。しばらくの間、無音の時間が流れる。
「……大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、お姉さんが心を込めて選んだコーデですし、似合わないわけがありません」
「ふふっ、ありがとうございます」
私の呟きを聞いた菊池さんがそうフォローを入れてくれる。それに対して感謝を告げると、ちょうどその時試着室の扉が開いた。
「ど、どうかな?」
私が選んだのは白のパーカーにデニムのパンツ、その上からカーキ色のミリタリージャケットを羽織り、白いキャップとスニーカー、丸ぶちのサングラスを身につけるというコーデだ。
「すごく似合ってるよ!」
「はい、お似合いです」
「そ、そうかなぁ」
私と菊池さんが褒めると、真恋は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それじゃあ今日はこれを着ようかな?」
「そうだね、そうしよう!それじゃあ私はそれの会計をしてくるから――」
「待ってお姉ちゃん」
私が真恋の服の会計をするためその場から離れようとすると、真恋がそれを止めた。
「どうしたの?」
「今日はおそろコーデにするって、お姉ちゃんが言ったよね?」
「あ……」
完全に頭から抜けていた。昨日、真恋に化粧品などを勧められた時、私から真恋とお揃いならいいと言ったのだ。
「でもただ同じのを買ってもつまらないし、リンクコーデにしよっか。私、お姉ちゃんに似合いそうなかわいい服探してくるね」
「それじゃあ私もお手伝いします」
「あの、私は?」
「お姉ちゃんは試着室で待ってて」
そう言って真恋と菊池さんは去っていってしまった。試着室に一人、その中には待ってる間にこれ試着してねと言わんばかりに私のサイズの服が置かれていた。どうやら私はまたマネキンにされるようだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
面白い!続きが読みたい!と思ってくださった方は是非ともブックマーク、☆、❤️をお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます