第12話 シスコン姉妹は街を歩く

「おー、ビルでっか!」


 駅を出た瞬間広がるビル群に、真恋は感嘆の声をあげる。


「うちに来る時にこっちの方には寄らなかったの?」


「うん、お姉ちゃんの家まで一直線で来たから、東京観光できてないんだ」


 どうやら真恋は都会の方は初めてのようだ。地元の方では一軒家ばかり並んでいたし、私の家の周りではあってもマンション程度だ。こんなにビルが立ち並ぶのは見たことなかったんだろう。私も真恋のことで荒れていた頃、気分転換にと牡丹に連れてこられた時はかなり興奮したものだ。


「それじゃあ行こうか、少し歩くよ」


「はーい」


 私はそう言ってショッピングモールへ歩き始める。真恋は私の後をついてくるが周囲が気になるのかキョロキョロと見回していて前方不注意になっている。そんな真恋に私は近づき、その手を握る。


「!お姉ちゃん?」


「周りばかり見てたら危ないよ」


「……うん、ありがと」


 私が真恋にそう注意すると、真恋は私の手をぎゅっと握り返してきた。


「お姉ちゃん、しばらく手繋いでていい?」


「いいよ、モールまでこのまま行こっか」


「うん!」


 私たちは手を繋いだままショッピングモールへの道を進む。私の隣で歩く真恋は先ほどよりも落ち着いた様子だが、それでも時折興味を惹かれたであろうお店を見つめては一瞬歩みを止める。私はそんな真恋のペースに合わせながらゆっくりと歩いていた。

 こうして手を繋いで歩いたのは小学生の頃以来だろうか?あの頃はただ隣に真恋がいることが当たり前で、これからもずっと一緒に歩いて行くのだと思っていたが、今ではこうして一緒にいられるのすら奇跡なんじゃないかと思う。少なくとも、真恋が私に歩み寄ってくれなければ一生あのままだっただろう。

 しばらく歩いていると、今までアスファルトだった道が横断歩道を挟み色鮮やかなタイルへ代わる。周囲のビル群もぷつりと途切れ、目の前には大きな建物が見える。


「真恋、モールに着いたよ」


「建物おしゃれすぎない?」


 ショッピングモールは流線型なデザインで、とてつもない大きさの窓が開放感をかもし出している。屋根や壁からは植物の緑が見え、その姿はさながら小さな森だ。


「確かにここと比べたら地元から行けるモールは白一色で角ばって無骨というか地味だよね」


「しかもあそこよりも大きくない?」


「確か東京ドームが3個くらい入るんだったけ」


「そもそも東京ドームの大きさがわかんない……」


「確かに、私も行ったことないからわからないな」


 昔、牡丹と来た時に聞いた情報を口にするが、そもそも田舎者二人組、東京ドームの大きさがわからない。気になって調べたことはある、確か4万とか5万平方メートルだっただろうか?だが、敷地面積を数字で知ったところで普段からこの土地は何平方メートルくらいだななんて考えない私にはイマイチイメージがつかめなかった。やはり実際に見るのが一番だろう。


「私、そもそも何でもかんでも東京ドームで例えるのが悪いと思う、もっと誰でもわかるようなもののほうがいいって」


「誰でもって、たとえば何?」


「えーっと……北海道とか?」


「基本的に1個も入らないね」


「……お姉ちゃんの意地悪」


「あははっ、ごめんごめん」


 特に何も浮かばなかったのか、苦し紛れに北海道と答える真恋。それを揶揄うと、真恋は頬を膨らませて怒ってしまった。私は軽く謝るも、真恋はまだ頬を膨らませたままだ。


「むぅ」


「機嫌直してよ真恋」


「許さない」

 

「それは困るかな」


「今日、スイーツ奢ってくれたら許すかも」


「それくらいならいくらでも」


 元々今日は全部私が出すつもりだった。スイーツの1つや2つ、なんてことはない。


「じゃあ機嫌直す!」


「現金なやつめ、このこの〜」


「お姉ちゃんやめてよ〜」


 私が両手で頭をわしゃわしゃと頭を撫でると、真恋は笑いながら抵抗する。


「あーもう、髪の毛ぐちゃぐちゃじゃん。スイーツ2つね」


「いいけど、昨日もケーキ食べたし太っちゃうよ?」


「うっ、それは嫌かも……」


「片方は持ち帰りにしようか」


「うん、そうする」


 私たちはそんなことを話してながらショッピングモールの中へ入る。中は広大な空間なのにしっかりと空調が効いていた。


「それじゃあ最初はどこ行こうか?」


「お姉ちゃん、昨日も言ったでしょ?洋服屋だよ。今日はお姉ちゃんの服を買うの」


「それだけど、本当に私のでいいの?今日は真恋の物を買いに来たんだけど」


「私はおそろコーデで回りたいの!それに、お姉ちゃん全然おしゃれしてないでしょ?私がコーディネートしてあげる!」


 確かに私はあまりオシャレに興味がない、というかそもそも自分に合うコーデがわからない。真恋がコーディネートしてくれるというならありがたい限りだが、元々真恋のための日なのに一方的にされるのもなんだか申し訳ない。そこで、私はいいアイデアが思い浮かんだ。


「そうだ!それじゃあ私も真恋をコーディネートしてあげるよ」


「私?」


「そう!昔みたいにファッションショーしない?」


 自分に似合う服はあまりわからないが、真恋に似合う服ならいくらでも見繕える。昔、家で母の服を借りて真恋とプチファッションショーをしたものだ。その時は流石にサイズが合わなくてブカブカだったが、成長した今の真恋なら軽く着こなすのではないだろうか?


「真恋は綺麗になったし、きっとなんでも似合うだろうなぁ」


「お姉ちゃんだって、その気になれば私なんか目じゃないよ」


「それじゃあどっちが互いを綺麗にできるか勝負しようか」


「それなら私、絶対負けない自信あるよ!」


「私も!そうと決まったら早速洋服屋に行こう!」


 私は真恋を連れて洋服屋へ向かう。また昔みたいに色々な姿の真恋を見られることにウキウキしていた私は、あの頃とは違って自分も真恋のなすがままということが頭から抜け落ちていた。

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